第8話作戦開始!

「ほんっと、私がいないとダメなんだから」

現れたのはおカッパ頭のミニスカ女児、だが、その風貌からは想像できないほどの存在感を放っていた。

「貴様らぁぁぁぁ!死ねぇぇっ!」

「死ぬのはあなたよ」

コックリさんから放たれる光の光線を花子は指パッチン一つでかき消して見せた。そしてお返しと言わんばかりにさっきよりも濃密な光弾を生成し、コックリさんに向けて吐き出した。


「な!?」

コックリさんの顔が驚愕で染まる。

「くぅぅ!」

コックリさんはその光弾を手で何とか抑えている。だが、かなりキツそうだ。


「いけいけ!」

「ふっ、我の作戦が上手くハマったようだな」

横の2人はもう勝った気になって、調子にのっていやがる。

⋯⋯、最強クラスの幽霊がこんなんでくたばるとは思えないけどな⋯⋯。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

次の瞬間、花子が放った光弾はコックリさんによって握りつぶされていた。

うへー、やっぱバケモンだわコックリさん。

だけどさすがに疲れたのか肩で息をしている。


「ねぇ、あいつもしかしてコックリさん?」

「ん?あぁ、そうだが」

花子は俺の耳にそう呟いた後、大きく息を吐いた。


「どうりで強いわけだわ、あんた達あいつに何したわけ?」

「呼び出した女子高生を助けるためにこのアホが飛び込んで行ったんだ」

俺は真理を指さして言った。

「はぁなるほどねぇ、⋯⋯やるしかないか、気は進まないけどね」

「何を?」

「耳を貸して」

大人しく耳を花子に近づける。


「あいつは水に弱い、大量の水をどうにかしてあいつにぶっかけて」

「バケツ一杯分の水じゃあダメなのか?」

「ダメ、あいつが恐怖を覚えるくらいの水の量じゃないと」

「⋯⋯わかった任せろ」

花子の声色はいつもより数段張り詰めていた。だけどこういう時の花子は当てになるからな、信じよう。


後はどうやってコックリさんに水をかけさせるかの作戦だが⋯⋯、そうだ、あれを使えば!

「じゃあ、校庭にコックリさんを誘導して、コックリさんを校庭に留めてくれ」

「わかったわ」

そう言って花子はコックリさんの足を掴み、外に向かって放り出した。コックリさんは「うぉっ!?」と叫んだが霊体なので壁を壊すことなく、外に出ていった。


するとすぐに真理が口を開けた。

「ずるいぞ!お前らだけで物語を進めて!我も入れろ!」

「なぁ、俺どうすりゃいいの?」

同時に薙も腕を頭の後ろで組みながらそう聞いてきた。


「よし、じゃあ作戦の説明をする」

俺は2人に俺が考えた作戦を伝えた。





どん!ばん!と校庭の地面が削れていく。選手宣誓をするための台は木っ端微塵に消し飛ばされ、部室棟の屋根は吹き飛んでいく。

さすがに何かあったのかとぞろぞろ職員達が校庭に出てくる。そして職員達のほとんどが目の前で起こっていることがありえなさ過ぎてどんどん気絶していった。それもそうだろう、目の前で繰り広げられているのは化け物2人による漫画のような戦いなのだから。


ある程度、両者の力が測れ始めた所で2人は校庭のど真ん中で再び相対した。

「強いな、お前」

「⋯⋯もう私のことは覚えてないみたいね」

「なに?」

「いえ、なんでもないわ、そんなことより戦いの続きをしなくていいの?」

「ふっそうだな、ならば始めようか!」

怪訝な表情を浮かべたコックリさんだったが、戦いへの興奮を抑えきれずに足に力を入れたその時だった。


「ちょっと待ったぁぁぁ!」

どこまでも響く、だが聞き取りやすい声だった。その声の主にコックリさんも花子も気絶していない教員でさえもその声に耳を傾ける。その声の主は昇降口を出てすぐの場所にいた。


「我が相手だ、コックリさん」

時刻は夕方の7時、日が完全に落ちた時間帯であると言うのにその声の主の右手を闇で覆い尽くしている闇はとても目立っていた。真里である。


綺麗な黒髪をポニーテール型に結び、全てを見透すような真っ黒な瞳はとても美しく、見るもの全てを魅了しそうである。だが、コックリさんが魅了されるはずもなく、厳しい眼差しを彼女に向けた。


「貴様また現れたのか、戦いの邪魔だ、どっかに行け」

「あれ〜?もしかしてビビってるぅ〜?我の右手にひよっちゃってるのかなぁ〜?」

明らかな挑発、誰も引っかからないような安い挑発、たが、コックリさんには効果抜群であった。


「⋯⋯き、貴様ァ!」

明確な殺意を持って、一瞬にして近づいてく。

真理とコックリさんの距離は凄まじい勢いで縮まっていく。50、30、10メートル。


「今だぁ!」

「な!?」

真理との距離、残り5mの所で、男の声と共にコックリさんの頭の上に綱が降りてきた。

そして綱で作られた輪に、体が小さいコックリさんはすっぽりとハマってしまった。


「俺の力で霊体にも触れることができる綱で、綱引き勝負だぜ!コックリさん!」

「かかってこいやぁ!」

「な、舐めやがってぇぇぇぇぇぇっ!」

屋上から綱をコックリさんに投げた張本人である徹と薙は真理と同様にコックリさんを煽り散らかす。

それはコックリさんにとっては許し難い屈辱であった。血管を浮かべたコックリさんは綱を持ち、勢いよく引っ張る。


「な!?」

コックリさんはあんなヒョロがりの2人など一瞬で屋上から引きずり下ろせると考えていた。だが、実際はなかなかに重かった。最強の幽霊の一角であるコックリさんは弱者2人と対等というその事実が許せなかった。それがさらにコックリさんのプライドを傷つける。


「許さん!絶対に許さんぞぉぉぉっ!」

手に全力の力を込め、一気に引っ張る。綱はその力によってねじれていた藁の繊維が少しずつほつれていく。だがそれでも屋上にいる2人を引きずり下ろすことは叶わなかった。


"なぜ?"それは当然浮かんだ疑問だった。明らかにおかしかった。たかが人間がコックリさんの力と対等であれるはずがないのだ。そこで気づいた、あの2人のバックに何かがいると。


それはコックリさんに溜まっていた屈辱は闘争心へと変換させていった。

「なるほどなぁそういう事かぁ、なら全部全部、ぶっ壊してやるよぉぉぉぉっ!」

「「いっ!?」」

コックリさんは湧き上がる闘争心を力に変え、霊体のリミットを解除した。


さっきの数倍とも言える力で綱を引っ張った。コックリさんの周りの地面に亀裂が入り始め、大地が震える。


そしてついに⋯⋯ドガァァァァァァァァァァァァァンッ!と耳が破裂するような音と共に、ガキ2人と、大量の溢れ出た水と共に貯水タンクが屋上から落ちてきた。



























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