第5話コックリさん

「ふぅー、つかれたー!」

「お疲れ様、あなたにしては頑張った方じゃない?」

太郎さんを見送った次の日の朝に俺は廃校に来ていた。かさみさんからは太郎さんを見送った後にめちゃくちゃに感謝された。やっぱいいことはするもんだよな。


「いやはや、もう体がボロボロだよ、いてぇ」

「今日くらい学校休んだらどう?」

「んー、まぁそれは行くかな?今日行かなかったら俺、入学式でやらかしたただのヤバいやつだし、それに友達できるかもしれねーだろ?」

「⋯⋯本当に強くなった」

「ん?なんか言ったか?」

「いや、なんでもないわ」

ボソッと言った花子の声は俺には聞き取ることが出来なかった。


「んじゃ、そろそろ行くわ」

「そう、じゃあ行ってらっしゃい」

「おう、いってきます」

そう花子に挨拶をして、俺はチャリにまたがった。



キーンコーンカーンコーン

「おーし、じゃあ今日はここまで、各自復習しておくように」

鐘の音と共にだらしなくシャツを着たおじさん先生が教材をまとめて教室を出ていく。完全に先生が出た瞬間に、教室はわっと活発に動き出す。


「ねー購買行かない?」「5組に可愛い女の子がいるらしいぜ!」「その、柳さん僕と一緒にご飯食べないかな?」「ごめんなさい、この後予定が⋯⋯」「ダメだったー!」


多種多様な声が飛び交う中、俺は一人弁当を広げる。

くっ、人生ってやつは残酷だぜ。たった一回の失敗で皆から避けられるなんて⋯⋯。今日なんて酷かった、俺が歩くとそこに人の道ができるんだもんな。あー死にてぇー。


「よっ、キチガイ徹君」

そんな寂しくご飯を食べていた俺の前に弁当を片手にメガネをかけ、髪を長く伸ばした正しくインテリ系男子が現れた。


「やめてくれぇ!あれは仕方なかったんだー!」

「あはは、俺は草野薙くさのなぎよろしくな」

「俺は橘徹」

「おう、知ってる」

草野薙、俺に初めて話しかけてくれた同級生だった。


「で?何があったんだよ昨日、入学早々遅刻とかなにかやらかさないと出来ないだろう、普通」

「いやー、それがそのー、ヤンキーに絡まれちまってよぉ」

この友達になるためのチャンスを無くさない為に誤魔化すしか無かった。


「んな馬鹿な、そんな小説みたいなことって本当に起こるんだなぁ」

「あはは、そうなんだよー」

「大変だったなお前も」

「⋯⋯あのさ、薙はなんで俺に話しかけようと思ったの?」

俺は疑問に思っていたことを聞いた。だってこんなにもクラスで孤立している俺に話しかけようとするなんて相当な変人かとてつもない善人くらいのものだろう。


少し考えて薙は口を開いた。

「お前といると、なにか起きそうだからかな?」

にっ、と薙は笑って見せた。はっ、どうやら変人の方だったようだ。

「ははははっ、そうか」

つい俺も笑みがこぼれちまう。

その後も俺たちはたわいのない話をしながら飯を食った。


「ねぇ、ちょっといい?」

「「ん?」」

薙と話していると真上から声がした。2人でその声の方をむくとそこには、ちょー美人でおなじみであり、このクラスのマドンナである柳真理さんがいた。


真理さんはその透き通るほど綺麗な黒い瞳で俺たちをじっと見ている。

「な、なんですか?」

女子との会話だ。声が震えちまう。

「今日、放課後私に付き合ってくれないかな?徹君」

「「はい」」

美人からのお誘いさ、断る理由などないだろう。だがおい薙、貴様は誘われていないだろう。





「ねぇ、ほんとにやるの?」

「やーるーのー、ゆうまくんと私が付き合えるかどうか教えてもらわなくちゃ!」

「だるすぎ、はやくやろーぜ」

「理論的に考えるとコックリさんは存在しません、なのでりなさんのその願いは届くことは無いでしょう」

「う・る・さ・い!」

クセが強い女子高生4人組が学校終わりで、大半の人が帰った時間帯の学校でコックリさんという幽霊を呼び出す為にある儀式をしようとしていた。


"コックリさん"それはどんな疑問にも答えてくれるという幽霊のことを指す。コックリさんを呼び出すにはある儀式が必要である。

最初に1枚の紙に鳥居と"はい"と"いいえ"、そして五十音表を書く。コックリさんを呼び出す儀式として、鳥居の上に十円玉を置き参加者が十円玉の上に指を乗せるそして次の呪文を唱える「コックリさん、コックリさん、おいでくださいませ、おいでになったのならはいと答えてください」

そして十円玉がはいの所に移動したのならコックリさんの呼び出しは成功だ。そうすれば、あとはコックリさんに聞きたいことを聞けば良い。


「じゃあ始めるよ、十円玉の上に指置いて」

「うう、怖いよー」「だるー」「はぁ、仕方ないですねー」

各々色んな感情を持って、コックリさんを呼び出すために十円玉に指を乗せる。


「コックリさん、コックリさん、おいでなさいませ、おいで下さったのならはいと答えてください」

すると十円玉はズルズルと4人の指ごとはいと書かれている場所に移動し始める。


「やった!」「怖いよ!」「⋯⋯まじかよ」「そんな!?理論的に考えてこんなことはありえないはずなのに!?」

喜ぶもの、怖がるもの、驚くもの、戸惑うもの。様々な感情が交差する。

だが、忘れてはならない。コックリさんは幽霊だということを⋯⋯。


「お前らか?俺を呼んだのは?」

「「え?」」

4人の女子高生の中心の紙から現れたのは小学1年生くらいの男の子だった。


ただ、決して普通の小学1年生とは違う。まず最初に頭から狐の耳のようなものが飛び出ているし、髪は金髪、服は神主のような白装束をぶかぶかにきている。顔はみとれるほどの美少年であり、その蒼色の瞳は多くの女性の心を奪うであろう。そして1番普通では無いのが、その少年が宙に浮いていることである。


「俺を呼んだのはお前らかと聞いている」

「えと、あの、そのー」

コックリさんを呼び出そうとした者も、それに参加した者も、心のどこかではどうせ何も起きないと思っていた。だが、実際は起きてしまった。目の前にコックリさんが現れてしまった。そうなれば言葉を失うのは当然であった。


「おい、答えろ貴様ら」

「我が闇の右手よ、目の前の漆黒の闇をお前の闇で取り込め!」

そんな大ピンチの女子高生の元に、右手に闇をまとい、綺麗な黒髪をポニーテールにまとめた美少女、柳真理が唐突にコックリさんを襲ったのだった。




























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