第3話30年越しの告白1

「お願いがあるのは自分なのです」

太郎さんはそう言って深々と頭を下げた。


「えー」

ちょっと面倒くさそうだなぁ。


「いいから話くらい聞いてやりなさい!」

「痛ぁ!」

花子にバチン!と後頭部を叩かれる。


「こいつは私の後輩なの、だから雑な扱いしたらぶち殺すから」

「えー、こわぁ」

何故か幽霊界隈では幽霊としてどれ位くらい長い時間生きたか、どの位有名かで先輩後輩が決まるらしい。


「はい、自分が花子さんを通じて幽霊と話せる人間である橘徹さんを紹介してもらったんです」

「なるほど」


霊が見える人間にはある能力が宿る。それは身体能力が上がったり、武器を生成したりできたりする。

そんな異能の中でも俺の異能はなかなか特殊らしくてな、俺の能力は幽霊に干渉できるんだ。

普通の霊感がある人だと幽霊の言葉は分からず、異能を使わないと幽霊に触れることすらできないらしい。

だが!俺の異能は常時発動の上、幽霊と喋ることができ、さらに!霊感がない人と触れ合うことで、その霊感がない人も幽霊が見え喋ることができるのだ!さらにさらに!幽霊が生前持っていた記憶をみることもできるのさ!(自発的ではなく偶発的だけどね)


⋯⋯弱い、とは言わせねぇぞ。俺だって気にしてんだからよぉ。


「えーと、じゃあ話を聞かせて貰えますか?」

「聞いてくれるんですか!?」

幽霊なのにキラキラした希望に満ちた眼差しを向けられる。


「まぁ、花子の頼みなので」

「ありがとうございます!」

ぎゅっーと手を握りしめられる。


「と、とりあえず、話を聞かせてくれませんか!?」

ぴょんっと太郎さんと距離を置く。

はー、ドキドキした。急に距離詰めてくるんだもん。


「はい!そうあれは、約30年前のこと⋯⋯」




「太郎さん!太郎さん!目を開けてください!」

「んあ?」

「んあ?じゃないです!こんな所で寝てると風邪引きますよ!」

公園のベンチで寝ていた俺を起こしてくれた太陽が後光をさしているその女の人はまるで⋯⋯


「神、様」

「何言ってるんですか?」

その女の人は可愛らしい猫の髪留めをつけていて、気を抜くとその黒い瞳に吸い込まれそうになる。


「はぁ、全くあなたと言う人は、今日は花見に来たのでしょう?」

「すみません!自分としたことが、あなたにみとれてしまって変なことを言ってしまって!」

慌ててベンチから体を起こす。


「みとれたって、変なことを言わないでください!」

この女性の名前はかさみさんと言う。彼女は同じ高校で出会った人だ。その綺麗な顔と凹凸のあるあまりにも美しいスタイルの良さに俺は一目惚れしてしまったのだ。

その日から猛烈アピールをした。そして何とか今日この日の花見に誘うことができた。


「あぁぁぁ!すいません!」

「もう!早く行きましょ」

頬をふくらませたかさみさんは身を翻して髪をなびかせる、俺はその髪のいい匂いを深呼吸してよく吸い込んでからかさみさんに続くように立ち上がる。


今日この日、俺はこの街にある丘の上の桜の木の下でかさみさんに告白をしようと思う。


今日をどれだけ待ちわびたことか、待ちわびすぎて待ち合わせ場所に午前3時に着いてしまった。俺としたことが爆睡をしてしまった。不覚!


「たろーさん!早く早く!こっち来て見てくださいよー!」

小走りで歩道を駆け抜けていくかさみさんを俺は惚気顔で追いかける。


だが、そんな恋にのぼせた俺でもかさみさんの後ろから歩道のガードレールをつっきてくる車を見逃すことは無かった。


その瞬間、俺の足は動いていた。


そして⋯⋯



「かさみさんを庇った自分は死んでしまいました⋯⋯かさみさんが一命をとり止めたのが唯一の救いです」

「⋯グスん、太郎さん可哀想に」

太郎さんの話が終わる頃には俺の涙腺は崩壊していた。


「そしてこれからが本題です、かさみさんは毎年この日の夕方、自分の墓参りをした後、人がいなくなった頃合に丘の上の桜の木の下で日が暮れるまで桜を見るのです」

「⋯⋯」

「俺には後悔があります、あの日、かさみさんに"好き"だと伝えられなかった、だから伝えたいんです!俺の気持ちを!」

そして太郎さんは一呼吸置いてから


「お願いします!どうか幽霊の見えないかさみさんを幽霊が見えるようにして欲しいんです!」

深々と頭を下げた。


⋯⋯これはもう、決まりだな。

「分かりましたその依頼、引き受けます」

「ありがとうございます!」

顔を上げて大喜びする太郎さんを見ているとこっちまで口角が上がってくる。⋯⋯なんか嬉しいなこういうの。


「そうと決まれば急がなくちゃ行けないわねもう5時だからすぐに日がくれちゃうわ」

「げっ!早く行きましょう!太郎さん!」

「はい!」

花子のその言葉を皮切りに、俺は走り出した。


「いってくるね、花子!」

「はい、いってらっしゃい」

手を振って花子に別れを告げる。




「ふふ、おっきくなったわね、徹」

トイレの花子は大きくなった少年の背中を見て微笑んだ。





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