『理想のテレビショッピング』

 "こんにちは!本日のテレビショッピング、ご紹介するのは〜?"


  …まーたテレビショッピングか。つまらないな〜。こういうのって興味のあるものならまだ楽しいんだけど、全然いらない商品だったらつまんなくてつまんなくて…。


 "そこのテレビ前にいるお兄さん!あなたの望んでいる商品ですよ!"


 …あー、はいはい。呼びかける系ね?


 "いえいえ、そうではなくて!あなた!そこのあなたにオススメの商品なんです!"


 …?何だかおかしいな。まるで俺のことを指してるような──


 "そう!あなたのことを指してるんですよ!そこのだらけてコーヒーを飲んでるあなた!"


 …!?思わずコーヒーを吹き出すところだった…おいおい、嘘だろ?テレビから俺に、俺個人に呼びかけてる?…まさか!…本当に?


 "確かに、急に呼びかけられたら戸惑いますよね。では、これはどうでしょう。あなたの願った商品のジャンルでオススメの物をすぐさま、番組内で紹介致します!そうすれば証明になるでしょう!"


 …なるほど、そりゃあいい。けど簡単なジャンルじゃ、用意していたビデオを取り替えるとかのトリックで上手く誤魔化すという可能性もある。なにか難しいジャンルを…そうだ、車はどうだ。しかもメーカーをあそこに限定して…


 "はいはい、分かりました!では少々お待ちください!"


 …ん?画面外に演者がはけたな。やっぱり無理だったか?


 "お待たせしました!こちらの車種なんかどうでしょうか!"


 …うおっ!?ものの5秒もしないうちに、車に乗って戻ってきやがった!?…すげえ!どんな手法かはわからないが、ホントに俺の考えを読み取ってる!


 "ね?便利でしょ〜?"


 …ああ!これなら自分が欲しい商品を、いつでも画面に表示できる!…でもなぁ。


 "どうしました?"


 …こんなに便利な機能が俺の家だけじゃなく、いろんなご家庭にあればいいなあって…。


 "──そこはご安心を!何と、この機能はあなたが使っているそのテレビ!このテレビについたセンサーが脳波を検知し、テレビショッピングへと反映するのです!ですから、このテレビをご購入いただいた方は、み・な・さ・ま・が・!完全オーダーメイドテレビショッピングを楽しんで頂けるんです!"


 …本当ですか!?でも、お高いんでしょう?


 "それがたったの68000マニー!68000マ──"


 ブツンッ。




 ──通販がうるさかったので、僕はテレビの電源を消した。 

 

 全く、『脳波測定器付きテレビ』だなんて売り文句で今どき買う人いるのかね。あんなわざとらしい俳優を雇って、「俺の考えを読み取った!?」って驚く演技させて…中古屋のテレビですら、もうほとんどが測定器ついてるっての。


 こんな宣伝に引っかかる人は、2800年現代にはいないでしょ。


 …もしいるとしたのなら、それは超能力も使えない旧人類の人々だろうけど…僕のひいひいお爺ちゃんやお婆ちゃん達の、それまたお爺ちゃんやお婆ちゃんの世代の人達なんて、もうとっくのとうに亡くなっているし──。

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