被害者は2人

 "次のニュースです。今日○○市内で、猫や犬など併せて10匹以上の死体が発見され──"


 「○○市ってここじゃないか。全く、物騒な世の中になったもんだな」


 「ええ、ほんとに」


 居間でテレビニュースを見る夫に、私はキッチンから適当な言葉を返した。

 

 現在は夕飯時で、窓に打ち付ける雨音をBGMに、おかずにつけ合わせるキャベツをザクッ、ザクッ、と切っているところだ。と言っても「最近、会議だ何だで忙しいから」と今日も夫の帰りが遅れて、時刻は22時を過ぎている。


 私は30歳で、彼は33歳。彼と結婚してからはもうかれこれ5年も経つ。初めは歳上の彼に私が一目惚れをして、アプローチをかけるとすんなり交際へ。数ヶ月お付き合いをした後にめでたくゴールイン。


 しかし元々料理が得意でなかった私には、専業主婦となったここからがスタートとも言えた。毎日毎日、料理の勉強。でも、これがあの人のためになるならと思うと、不思議と辛くはなかった。


 1年、2年、そして3年と毎日食事を作っていると、料理の腕はあれよあれよという間に上達していった。最初は野菜を切ることすらままならなかったのが、今ではこうしてキャベツを切り、豚カツを作れるようになるまでに成長したのである。


 そう、何事も繰り返し練習をすることが重要なのだ。小学校の頃は漢字や算数のドリルを渡されてうんざりしたが、アレも効果があると実証されているがこそのものだったと、この歳になって気づかされた。


 ──だから夫も、不倫をするなら練習して、完璧にバレないようにやって欲しかった。彼が毎晩帰りが遅くなり、最近では泊まりが増えたので、不審に思って探偵に調べてもらったのだ。


 結果は…言うまでもないが、女を作っていた。そいつは会社の同僚だとかで、私より少し若い女だった。


 もちろん、許せなかった。殺してやろうと思った。けれど、私は彼とは違う。やりきるには反復練習が不可欠だと知っている。


 だから、私は彼の居ない日に生きている犬や猫で練習をしてきた。彼の不倫を知ってから、彼が居ない日は毎日、毎日。


 …今なら絶対に夫を殺せる。練習で自信がついた。私はこのためによく研いだ包丁を手に持って、静かに彼の背後に移動した。そして彼の首筋に刃を当てて──。




 ──ふぅ、終わった。しかし思った以上に暴れられてしまったな。やはり動物相手だけだと練習が足りなかったか。でも、大丈夫。今日、人間相手の練習ができたから。


 次は夫をたぶらかしたメスギツネだ。私は返り血に塗れたエプロンを捨て、綺麗な外行き用の服へと着替え、真夜中の街へと出かけた。もちろん、カバンにはの包丁を忍ばせて…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る