『北の暴風』の後
「『北の暴風』は成功したの?」
「微妙なところです」
先日、北太平洋でアメリカの対アジア救援船団カバードワゴンに対する大規模な攻撃『北の暴風』作戦が行われた。
新生ソ連が使用できる対艦攻撃兵器をすべて投入したと言っても過言ではない攻撃は、カバードワゴンに大打撃を与えたはずだった。
しかし、海軍作戦部長の顔は暗い。
「三割は確実に撃沈できたようですが、敵の交戦能力を奪えたかどうかは不明です」
新生ソ連の衛星網が破壊された上、敵が航空優勢を確立したため、偵察機を飛ばせない。
偵察衛星――南日本の衛星打ち上げに対抗して主席が見栄とアメリカをICBMがある事を示すため打ち上げたものも、開戦初期の衛星破壊で機能停止だ。
偵察手段が限られるため、戦果確認ができていなかった。
それでも無線傍受などの情報から三割は確実に撃沈し、さらに損害を与えていると判断していた。
新生ソ連は作戦成功、勝利を確信していた。
だが、海軍作戦部長は、それを信頼していない。
「敵の艦艇を含め、せいぜい三割から四割が沈んだ程度でしょう」
新生ソ連のプロパガンダを割り引き、さらに探知できた電波誘導の数、敵の防空能力などを加味しても、四割に届かない程度しか損害を与えられていないと判断していた。
「大損害でしょう」
星子の指摘は正しい。
通常、軍隊では総数の一割が戦闘不能になると大損害とされ、詰問される立場になる。
三割を超せば全滅、部隊として機能しないと判定される。
「残り半分だとしても、敵は攻撃を続行するでしょう」
しかし、海軍作戦部長は、そんな常識が通用しないと考えていた。
自分たちが相手にしているのは、アメリカ政府ではなく、東京政府、すなわち、かつての大日本帝国だ。
その軍隊は、戦力が元の一割を切ってもなお戦闘を継続しようとした化け物どもだ。
半数程度で作戦を取りやめるなど、考えられない。
「再攻撃が必要か判断したいのだけど」
攻撃に使った航空部隊に船団を追撃させるか、それとも劣勢となっている他の戦線へ送るべきか。
特に石狩平野が酷い状況だ。
武蔵の援護がなくなり、第七師団と第四師団、第五師団が反撃を開始。
能力を回復した千歳基地から航空隊も発進しはじめ航空支援攻撃も始まった。
他の前線も、奇襲の衝撃から立ち直った自衛隊が反撃しているし、後方に置き去りにされた陣地も抵抗している。
旭川を占領したものの、帯広方面の備蓄基地へ動員され、編成された部隊と札幌から挟撃されつつある。
星子は戦力突入のための判断材料が欲しかった。
「絶対に船団を攻撃するべきです」
海軍作戦部長の判断は明瞭だった。
「全滅させるまで反復攻撃を。一撃で全てを撃破できるとは思えません」
攻撃の基本は反復だ。
何度も攻撃して敵に大損害を与える。
一撃に全てを賭け、相手が対応できないほどの物量を一度に叩きつけるという考えも正しい。
だが、戦果を拡張するには、何度も攻撃する必要がある。
作戦部長の意見は、戦理に基づいたものだ。
「それ以上に、奴らを残しておいては危険です」
圧倒的な物量を運ぶ船団。
乗せている無限に思える武器弾薬を使って、東京政府――いや、得体の知れない相手が何をするか気が気ではなかった。
だからこそ、一隻残らず沈めるべきだと、海軍作戦部長は再攻撃を進言する。
しかし、そこへ新たな報告が入った。
「緊急報告! 敵部隊の反撃が確認されました!」
「どこが攻撃されたの?」
「カムチャツカおよび占守島です!」
開戦劈頭より、占守島は新生ソ連第二二自動車化歩兵師団――実体はヘリによる空中機動部隊――の攻撃を受けていた。
しかし、占守島守備隊はソ連の侵攻前から作り上げた地下陣地を半世紀にわたり拡張・強化し、しぶとく生き残り、果敢に反撃を加えていた。
そこへ、集結した大和以下の反撃部隊が来援。
侵攻する第二二自動車化歩兵師団に攻撃を加えた。
占守島攻撃部隊のみならず、攻撃拠点となっていたカムチャツカ半島へも攻撃を加えた上、上陸部隊を送り出し、占領。
新生ソ連海軍、いや旧東側で唯一太平洋に面している軍港ペトロパブロフスクと、その周囲の飛行場も制圧された。
「カバードワゴンへの追撃は難しくなりましたな」
カムチャツカが落ちたことにより、北太平洋へ向かう攻撃機の空路がなくなった。
攻撃隊はカムチャツカを基地にしていた。
奇襲のためにアッツ島に展開していた部隊もいたが、これらも西側の反撃により撃破され、奪回されている。
日米は連絡手段を確保し、アジアとアメリカの間に西側のシーレーンを確立した。
新生ソ連はアジアにおいて対抗手段がなくなり、西側は自由に動ける状況になりつつあった。
「大規模反撃が予想されます。警戒を緩めない方が良い」
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