撃墜命令

「え?」


 星子は、驚いた。

 雑音混じりだったがハッキリと攻撃命令を、傀儡への攻撃を聞いた


「隊長、我々は攻撃を受けていませんが」


 こちらから攻撃を仕掛けたら、国際的な問題が起きてしまう。

 しかし隊長は躊躇しない。


「我々の動きを妨害しようと電波妨害をしている。明確な敵対攻撃だ」


 スパイ機を助けるために南の戦闘機は、接近してきた。

 公海上とはいえ、接近するのは明確な違反行為だ。

 更に電子攻撃、妨害電波を出して援護しようとしている。

 味方機とはいえ、相手の領空への攻撃が禁止されているため、できる限りの行為だ。

 確かに電波妨害は明確な敵対攻撃だ。

 だが、電波という目に見えない行為に対して、ミサイル攻撃、撃墜は、世界的なインパクト、北日本の立場を悪い方向へ追いやる。

 そんな事をして良いのかと星子は躊躇した。

 しかし中隊長、いや、北日本はやる気だった。


「スパイ機を逃がそうとする連中の妨害は排除する」


 そして南の機体はSR71を逃がそうと牽制する動きを見せていた。

 また隊長は手荒な行為、敵の妨害は実力で排除して良いという訓令を上層部と党から受けていた。

 党への忠誠心篤い隊長は指示に従った。


「直ちに迎撃だ。ミサイル発射!」


 搭載していたミサイルを隊長は発射した。

 指示に従い、星子も発射し、他の機体も発射する。

 当然、南の戦闘機は慌てはしたが、すぐに対抗処置を行う。

 妨害電波でロックオンを排除し、チャフとフレアでミサイルから逃れようとする。

 半数のミサイルから逃れたが、残り半数が迫る。

 急激な機動を行い回避するが、四機が餌食になった。


「撃墜した!」


 初撃墜の興奮で隊長の声が弾んでいる。

 帰還すれば英雄として勲章が貰えると思っているのだろう。


「残りも撃墜しろ」


 逃げようとする残り四機に追撃を実施した。

 戦果を、手柄を拡大するのに追撃は都合が良い。


「隊長、敵の領域に入るのは危険です」


 稚内のすぐ南は敵の領域だ。

 侵入すれば迎撃を受ける。

 公海上でも、敵の防空網が張り巡らされている。特に利尻島のレーダー基地と防空網が厄介だ。

 そこでの戦闘は不利だ。

 だが隊長は強気だった。


「我々の力を見せつける時だ。味方の援護もある」


 実際、メンスティの早期管制、電子戦機の援護もあり、優位に戦える態勢を北日本は作っていた。


「地上からロックオンされています!」


 境界線近くに配備された南の対空ミサイル部隊のものだった。

 すかさずミサイルが発射され、迫ってくる。


「大丈夫だ! 味方が援護してくれる」


 星子は半信半疑だったが、事実だった。

 レーダーを探知すると、すぐさま北の砲兵部隊が南の対空ミサイル部隊の位置を割り出し、射撃を行った。

 予め準備していたこともあったが、見事な反応であり、星子達にミサイルが命中する前に部隊を撃破。

 誘導を失ったミサイルは逸れていって、星子達は救われた。


「このまま残りの撃墜する」


 有利な状況に満足した隊長は追撃を命じた。

 千歳から発進出来る機体はない。

 三沢からの機体が来るのには、まだ時間がかかる。


「全機向かうぞ」


 確かに隊長の判断は、間違ってはいなかった。

 だが、予想外の事態が起きた。


「! レーダーに反応! ミサイルです!」


「地上からなら大丈夫だ」


 味方の砲兵が陣地を破壊してくれるはずだ。


「違います! ミサイルは上空からです!」


「馬鹿な! どこから撃てるんだ!」


「警告! 千歳から敵機が上がった! そいつが撃ったミサイルが接近している!」


 メンスティの管制員が警告を送った。


「馬鹿な! どうやって機体を上げられるんだ!」


 それは配備されたばかりのFAV10。

 俗称ヴァルキリーだった。

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