佐久田の対韓国包囲網
「朝鮮半島に攻め込みソウルも占領するんですか」
「最悪そこまで行う事を考えている」
冗談のつもりで言ったのに、佐久田が本気で言ったので随員はぎょっとした。
彼の表情を見て、佐久田は言う。
「戦争はそこまでやらないと終わらない。かつての戦争を見ろ。日中戦争では南京を攻め落としても重慶まで逃げられ、八年も続いた。太平洋戦争も本土近くまで攻められて、ようやく戦争が終わった。相手を追い詰めなければ、戦争は終わらない」
「……追い詰める方法はあるのでしょうか?」
「動員できるだけの兵力は用意している」
「北海道の戦力は動かせませんが」
北の演習中であり、韓国、朝鮮半島へ攻め込むだけの兵力は割けない。
「まあ、現実に短期間でそこまで攻め込むつもりは無い。韓国は陸上戦力では有数で、日本を上回る。三八度線に貼り付けている部隊が殆どだが、日本が攻めていってもはじき返されるだろう」
仮に攻めたとしたら、北朝鮮が韓国に協力し、前線から兵士を引き下げることは十分あり得る。
一〇〇万の軍隊を動員しているが、徴兵しすぎで国力が低下気味だ。
北朝鮮と民生に人を送るために、三八度線の部隊を減らすことを韓国が裏で取り決めてもおかしくは無い。
流石に反北朝鮮で生きてきた全大統領はそこまで考えていなかった。
だが、佐久田はあり得ると思っていたし、韓国に偏見を持っている者たちは確信していた。
「移動可能な海空戦力、そして機動力のある地上部隊、空挺、海兵、空中機動の各師団を全投入。一気呵成に終わらせる」
投入可能な全兵力の投入による一挙解決。
戦争の基本に則った作戦だった。
「しかし、集結できるでしょうか」
北の演習に、ホルムズ海峡の空母派遣、東南アジアの大和巡航。
他にも山東半島への派遣軍など、日本は東アジアの要としての役割を果たしすぎている。
結果、戦力が分散しており、集結には時間がかかる。
しかし、佐久田は問題視していなかった。
「問題は無い。アメリカ、国連の間で取引が出来た」
各所に派遣している日本の部隊を撤収させ、韓国戦にぶつけるというものだ。
レーガン大統領は承諾し、日本は世界に散らばった部隊を集めることが出来る。
「先の安全保障理事会でも日本の自衛が認められた。問題は無い」
韓国の行動に対して、日本の自衛権が認められた。
だが、集団安全保障に関しては調査するべきというソ連の主張により否決された。
国連が日本に肩入れする可能性は無くなったが、日本の行動にお墨付きが付いただけでも十分な成果だ。
その成果を上げるために、佐久田はワシントンからニューヨークへ移動。
無事に役目を果たし、東京へ帰る途上だった。
「日本が大手を振って活動できるのは良いことです。
ですが、韓国は竹島にかなりの兵力を送り込んでいるようです」
陸上兵力は一個中隊二〇〇名ほどだが、各種装備、陸上設置型の対艦ミサイルや対空ミサイルなどを設置。
竹島周囲には購入した空母李舜臣を中心とした機動部隊を配備しており、決して退く構えを見せていない。
そして海上は勿論、海中にもドイツで建造した潜水艦を配備しているはず。
容易に手を出せる状況では無かった。
少なくとも短期間に竹島を奪回するのは厄介だ。
負けはしないだろうが、無視できない損害が発生する可能性が高い。
「空母がいないのが手厳しいです。せめてホルムズ海峡から空母が戻ってくるのを待ちませんか?」
「ダメだ。戻ってくるのに三週間はかかる。そんなに遅くては韓国の実効支配が既成事実化される。七二時間以内に反撃しなければ、認めてしまうことになりかねない」
軍事的には空母紀伊が戻ってきて、最大戦力で戦うことが望ましい。
だが、政治的、国際世論への印象づけでは反撃は早ければ早いほど良い。
佐久田が短期間の内の反撃、七二時間と具体的に区切ったのは、そういった理由からだ。
「そのためのお膳立てにこうして飛び回っているんだ」
わざわざコンコルドを使用したのも、アメリカと国連を短時間で説得するためだ。
実際、韓国の特使より遥かに早く対面での会談を行い、協力を取り付けることが出来た。
「確かにそうですね。日本の戦力は圧倒していますし」
陸上戦力はともかく、海空戦力に関しても日本は上だ。
現状、大和と信濃を欠いた状態でも艦艇数、航空機の数は大きく上回っており、圧倒的だ。
「正面衝突で遅れを取ることはないでしょうが、韓国軍の配備を見る限り、竹島への奪回には味方にかなりの損害が出ると考えます」
「誰が正面から竹島を奪回すると言った」
「は?」
佐久田の発言に随員は再び頭が混乱する。
「しかし、竹島侵略に対する防衛行動では?」
「そのために、ありとあらゆる手段を実行すると宣言している。
何を行おうが我々に正義はある」
「……何をなさるつもりですか?」
「部隊の集結はどうなっている?」
「ご命令通り、大湊のある陸奥湾と呉に近い宿毛湾に部隊を集結しています」
「海兵師団と、信濃は?」
「能登以下の多目的支援隊に乗り込み、上陸待機中。
各部隊とも命令通り宿毛湾へ移動予定です」
「陸奥湾は?」
「空中機動部隊師団の一部を乗鞍に乗せて待機中です」
「よし」
「何をなさるつもりですか?」
「作戦を開始する。
具体的には」
佐久田の言葉を聞いて、随員は仰天した。
そして振り回されることになる。
だが、既に多くの人々が振り回されていた。
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