便衣兵
共産主義は弾圧の歴史だ。
全ての資本を接収するべし、という主張のため資本を多く持つ権力者達から目の敵にされ徹底的に監視され、時に拘束、制圧された。
そのなか厳しい当局の監視の中で、共産主義者達は少数でいかに打撃を与えるかを研究してきた。
そのため共産主義者達はゲリラ戦、テロ戦術を多用する。
軍服を脱いで民間人に紛れ込んで攻撃するなど基本だ。
雑多な避難民の中に紛れ込むのは簡単で、隙を見て爆弾を投擲してきた。
そして一発が不運にもトラックの下に入り爆発した。
「Shit!」
「My God!」
悲鳴が上がり、米兵達はパニックになる。
「そこに敵がいるぞ! 撃て!」
爆弾を投擲してきた便衣兵を見た一人がガーランドを連射した。
便衣兵を倒したが、流れ弾が避難民を負傷させる。
「きゃあああっっ」
「わあああっっっ」
突然の爆発と続く銃撃に避難民はパニックになる。
悲鳴が恐怖心を煽り、米兵の銃撃も激しさを増し、M2重機関銃さえ放たれた。
「撃つな!」
ようやく制止の命令が掛かり、銃撃は止んだ。
だが僅か数分の掃射で避難民百人以上が犠牲となった。
「なんてことだ」
惨劇を見たパットンは天を仰いだ。
ヨーロッパ戦線で住民虐殺や捕虜虐殺は幾度も見てきた。
今回の戦争でも共産主義者共が村々で処刑、大量虐殺した跡を見て反共の意思をより強く誓った。
だが、自分の軍で、同じ事を起こしてしまったのは慚愧に堪えない。
「西、避難民から便衣兵を排除することは出来るか。済まんが、我々には見分けが、顔から区別する事は出来ない」
中国戦線で戦った経験がありかつての支配地域である半島に日本軍は詳しいとパットンは考えていた。
「無理です。ある程度、朝鮮人、中国人を見分けることは出来ますが、便衣兵まで見分けられません」
しかも、朝鮮半島の付け根、大陸の近くの為、中国系と朝鮮系の混血が多く、見分けがつかない。
「避難民と部隊を分けろ。最初に部隊を通して最後に避難民だ」
「宜しいので」
「部隊を迅速に移動させるのが先だ。その間に憲兵を使って避難民の中にいる便衣兵を見つけ出せ」
「了解しました!」
共産主義者から逃れる人々を足止めするのは忍びない。
だが、連中が汚い手を使うのなら対応しなければならない。
パットンは、忸怩たる思いだったが、その怒りを共産主義者への恨みに転嫁してこの場を乗り切った。
「検査は徹底的にしろ。しかし礼節を忘れるな。俺たちはアカではない。その事を証明しろ」
「はい」
避難民への検査が始まったが、人数が多いため、進みは遅い。
しかも検査が近付いた便衣兵が、近付いてきた瞬間に攻撃してくることもあり、度々作業は中断。
渡河も中断することが頻発した。
「将軍! 後方より、敵の機甲部隊が接近してきています」
「馬鹿な! 速すぎる!」
「機甲部隊だけで飛ばしてきたんだろう」
動揺する幕僚の中でパットンは冷静に分析し真実を当てる。
足の速い戦車と自動車だけを先に進ませてきたのだ。
満州国軍が提供した各種車両、渡河機材が追撃を可能とした。
「迎撃する! 敵は少数だ! すぐに撃破出来る!」
パットンは躊躇無く決断した。
向こうもかなり無理をして部隊を送ってきている。
撤退の際に、最後尾の西の部隊が徹底的に道路関係を壊している。
送れた部隊は少数のはず。
ここで撃退すれば、敵の後続が来る可能性は低い。
「急いで向かわせろ!」
「戦車部隊は既に渡河しましたが」
「呼び戻せ!」
打撃力のある部隊が必要だった。
だが、戦車の速度が遅いため早めに渡河させていた。
直ちに引き返させるが、渡河地点にUターンしたため、これから渡河しようとする部隊とぶつかり大渋滞が発生する。
「何をしているんだ! 戦車を先に戻せ!」
酷い混乱にパットンは自ら飛び込み交通整理を始める。
「避難民も、街道から排除しろ! 少し街道から離れる方がアカ共に殺されるよりマシだ!」
ウィリアム・ミークスが運転するジープの上から命じる。
だが、多数の部隊が入り乱れ、混乱している上、視界も悪かった。
戦場へ向かうべく、急いでいた戦車にが気が付かずパットンの乗ったジープぶつかる。
「危ない!」
咄嗟にミークスがハンドルを切るが、回避しきれなかった。
車体の端をかすっただけだったが数十トンの戦車の衝突に一トンほどしかないジープは弾かれ、転がってしまった。
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