満面の笑みのスターリン
八月に入り、ポツダム会談は終了し、各国首脳は帰国の途に就いた。
その中の一人にスターリンがいた。
スターリンはモスクワへ向かう専用列車へ上機嫌で乗車し、専用車両の真ん中、最上級のソファーに座り満面の笑みを浮かべた。
ポツダムでの会談は満足のいくものだった。
ポーランドでは事実上、ソ連の主張が通った。
国境はドイツの領土を大きく割譲させる形になりポーランドは大きくなった。
米英と親しいポーランドの政治家さえ手放しで喜んだだため、国境の位置は確定だ。
チャーチルはポーランド領となった地域のドイツ人が英国占領地へ亡命、大量の難民が押し寄せてくることを、本国さえ逼迫している食料援助を与えねばならなくなる事態を恐れて反対したが、押し通した。
そしてポーランド政府はソ連軍の武力により親ソ政権が誕生しており、事実上ソ連の勢力下。
共産圏が西へ大きく広がった。
ソ連軍が駐留する東ドイツを含めれば、戦前に比べて大きく広がった。
自由選挙とドイツの統一を英米は求めているが、二千万もの犠牲を払ったソ連が支配するべきだ。
ハゲタカ同然の米英の干渉により奪われてはならない。
これは一千万を超えるこの戦争でのソ連の犠牲に対する正当な報償であり勝利者の権利だ。
他でも、かなりの収穫があった。
東欧諸国も、親ソ政権が誕生し衛星国、事実上ソ連の勢力が広がっている。
カリーニングラード――旧ケーニヒスベルクが手に入ったのは不凍港を求めたロシアの念願が叶い喜ばしい事だ。
英国は文句があるようだが、ドイツに駐留するソ連軍、第三親衛軍と第八突撃軍の存在ドイツ駐留の米英軍より圧倒的な兵力により、黙らせることが出来る。
米国は対日戦へ向けて兵力を動かしているし、英国は勿論ヨーロッパ諸国にソ連軍に対抗するだけの戦力はない。
勿論、ヨーロッパでソ連が戦端を開くことが出来ないはスターリンも知っている。
原爆は怖くない。確かに恐るべき威力だが数が少ない。
一発で都市を破壊出来るが、共産圏を全て破壊出来るほどではない。
残ったソ連軍の兵力は多く十分に戦えるだろう。
問題なのはそのソ連軍の通常戦力。
戦車はともかくトラックが少ないのだ。
米英の宣戦を突破して戦車が通った後、物資を補給するためのトラックはアメリカからの輸入であり、戦争で酷使したため数が減っている。
米英へ大規模作戦を実行してもその後の兵站が維持出来ず、攻勢は早期に頓挫するだろう。
だが、その事は他の欧米諸国は知らない。
せいぜい、ソ連軍の圧倒的な戦力を見せつけ、威圧してソ連の要求を押し通すだけだ。
かくしてヨーロッパにおけるソ連の優越性は確保された。
だからこそスターリンは上機嫌だった。
ソ連軍が劣勢な上、アメリカの援助を得なければならないことは業腹だが、資本主義から収奪していると思えば気分は良い。
何よりチョビ髭、ヒトラーに勝ったのであり、アメリカの助力など些細なことだ。
それに、今より未来が楽しみだ。
次は対日参戦、アジアへの勢力拡大だ。
そのための物資援助をアメリカに求めた。
彼らはレンドリースを求めたことに唖然としていたが、アメリカの求めに応じて戦争に加わるのだからこそ当然のことだ。
そのための物資がウラジオストックへ集まりつつある。
ヨーロッパからの兵力移動も進んでおり、間もなく参戦可能になる。
船舶の移動も始まっており、樺太や千島、北海道への上陸作戦も可能になる。
嬉しいことに日本は講和の仲介をソ連に求めており、参戦するとは考えていない。
せいぜい、油断させ最初の一撃で多くの占領地を得ようというのがスターリンの目論見だった。
満州国を制圧し露日戦争で失ったロシアの権益を奪回した後は、朝鮮半島と中国へ進出。
親ソ政権を樹立し、衛星国にする。
対日戦後は、太平洋沿岸へ進出拠点とし、親ソ勢力の拡大の礎となる。
それが、スターリンの野望だった。
「書記長閣下、お話があります」
会談に随伴したモロトフ外相がスターリンの車両に入ってきて話しかけてきた。
モロトフの顔色は悪い。命令もなしにスターリンに話しかけ、提案するのだ。期限が悪くなれば外相とは言えシベリア送りか粛正、銃殺だ。
「聞こうか」
だが、スターリンは非常に機嫌が良かった。
ポツダムで期待異常の成果を挙げたし、この後の対日戦でアジアへソ連の勢力を広げられると考えていたからだ。
「日本の北山がお話があると」
「北山か」
僅かにスターリンの顔色が変わった。
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