国務次官ジョセフ・グルー
「大統領、どうにか天皇制の維持を宣言して貰えませんか」
ジョセフ・グルー国務次官はトルーマンに頼み込んだ。
本来なら国務長官が大統領に報告するのだが上司であるステティニアス国務長官がレンドリースで多忙で時間がとれずにいた。
そのため、グルーが代理として動くことが多くなっており大統領への説明を行う事が多くなっていた。。
国務長官のステティニアスは実業家としてレンドリース――連合国各国への物資分配の実務責任者として国務次官に任命されたため、外交官としての経験は殆ど無い。
長官に就任したのは、コーデ・ハル――ハルノートを日本に突きつけた前任者が健康問題により退任したため、次官から長官へ格上げされたからだ。
このような人事が許され、大きな瑕疵がないのも前大統領が枢軸国に無条件降伏を突きつけたため、相手国との交渉、敵対国と接触する必要性が小さくなったからだ。
連合国の中でアメリカが絶大な力を持っており、他の連合国はアメリカの方針に従わなければならない、外交への注力が少なく済んだ。
ルーズベルトの首脳外交――自ら動いたため国務省を介さず動いたため、国務省の軽視に繋がったのも要因だ。
幸か不幸か前任のルーズベルトが頻繁に連合国首脳と会談を行っていたため連合国の意思統一が保たれていた。
連合国首脳の意見が一致しているのは良いことだったが、国務省の地位が低下し能力が低下したのも確かだ。
だが、戦争が終わりに近づくにつれ、戦後の外交関係を考え、他国と外交調整する時期に来ている。
そしてルーズベルトは死去し、連合国首脳を纏める人間がいなくなってしまった。
現大統領のトルーマンでは権限はあってもそれを使うだけの能力も経験も少なく、役に立たない。
こうなると、国務省が出てくる必要がある。
だが本来が実業家であるステティニアスが出て行くには力不足だ。
結果、職業外交官で経験豊富なグルー国務次官が中心となって動くことになった。
特に日本との戦争がメインとなった現状、グルーの重要性は、より高くなっている。
十年近い駐日経験、その大半を大使として過ごし、開戦まで滞在していたグルー以上に日本を知り尽くし、人脈を持つ外交官がアメリカにはいないからだ。
無条件降伏をさせるとはいえ、日本を降伏に導くまでには外交交渉は不可欠である事をホワイトハウスでもようやく理解されはじめていた。
これまでの戦争中、国民との約束、疑いを持たれないためにも日本との交渉を行ってこなかった。
これはルーズベルト大統領の大きな失策だとグルーは考えていた。
しかしルーズベルトの死去に伴い、制約はなくなりグルーは日本との交渉チャンネルを作ろうとしていた。
そして、ことある毎にグルーは米国政府の要人に日本との早期講和を、そのための天皇制維持を主張していた。
三者会議、海軍長官、陸軍長官、国務長官の会合でも国務長官代理として出席したグルーは、他の長官に日本占領の必要性を認めながらも、穏やかな降伏を、天皇制を認め、緩やかに終結を、日本軍の速やかな武装解除と占領を目指すべき、と話していた。
グルーの話に陸軍長官も海軍長官も、これまでの損害、フィリピンと硫黄島の損害で青ざめていたこともあり、賛同し理解を得た。
二長官の支持を土台にしてグルーは新大統領トルーマンも説得しようと話していた。
「天皇制維持を明言するだけで、他の条件を日本は受け入れる、交渉の余地が生まれます。どうか、明言してください」
「それでは日本に譲歩したように見られてしまう」
グルーは熱心に言うがトルーマンはいつものように乗り気ではなかった。
「前大統領の路線から変更したと思われ国民の支持を失う」
「ですが、日本政府は天皇制の存続を認めなければ交渉どころか、我々への接触さえ出来ません」
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