帝都空襲再び

 佐久田が横須賀鎮守府から出張に飛び立った頃、日本本土近くに米海軍第五艦隊、米軍機動部隊が全速で日本本土に向かって航行していた。

 各空母の飛行甲板では、艦載機の発進準備作業が行われており、翼を展開し、爆弾燃料を可能な限り搭載。エンジンの暖気を行い、準備を整えようとしていた。

 カタパルトの油圧タンクも圧力上昇を始めており、いつでも艦載機を発進させられるようにしていた。

 刻一刻と、出撃の時間は近づいていた。

 この時ばかりはスプールアンスも興奮して艦橋に出てきており、各空母の出撃前の様子を見ていた。


「奇襲を仕掛けるには予想外の時間に襲撃することが重要である」


 と幕僚に作戦開始後宣言し、艦隊を出し得る最大戦速で航行させた。

 最大のネックはタンカーの随伴だったが、いくつかのグループに分け、一部を進撃路に先行させたりするなどして、時間短縮を図った。

 そのため、日本軍の予想したより早く、到達する事が出来た。

 艦隊が発見された兆候もない。完全に奇襲が出来る。

 そう思うとスプールアンスは更に興奮した。


「長官、攻撃隊出撃準備完了しました」


 各空母から準備完了の報告を受け取った幕僚が報告する。


「よし、全力で発艦させろ」

「はいっ! 全艦に通達! 攻撃隊発進!」


 旗艦インディアナポリスで第五艦隊の指揮を執っていたスプールアンスは夜明け前、犬吠埼沖、東方一〇〇キロの位置から第一波攻撃隊三〇〇機を四個空母群から発進させた。

 一個空母群をマリアナに送り日本軍の注目を集める作戦案もあった。だが、一個群を犠牲にしてしまうのと、予想より日本軍の警戒網が薄かったため全空母群を完投空襲に回した。

 日本側も硫黄島に先立つ本土空襲を受けた記憶もあり、警戒していたがマリアナ奪回作戦のため戦力を硫黄島への派遣に注力した。

 そのため、どうしても警備、哨戒のための戦力は手薄になっている。

 だからスプールアンスは全空母を用いて関東へ空襲を仕掛ける事にした。

 出撃した攻撃隊の進撃は順調であり妨害は殆ど無かった。

 硫黄島から本土へ帰還し補充を受ける航空機も多く、日本の電探網が進撃する米攻撃隊を味方の航空機と誤認する事が相次いだためだ。

 一応、横須賀鎮守府ではできる限り索敵機を出そうとしたが、飛ばせる機体が殆どなかった。

 ようやく十数機の彩雲を訓練や整備後の点検飛行名目で飛ばすので精一杯だ。

 だが、夜間のため暗い海上を航行する敵を発見できない。

 機上電探も連日の作業で疲れていた整備兵が碌に調整できず受信機に不備があり機能しなかった。

 むしろ不用意に電波を発信したため、米軍側に傍受され、針路を変更して回避される始末だ。

 そのため、米軍機は警戒される事も無く、日本本土への侵入を成功させた。


「全機! 攻撃開始!」


 夜明けと共に攻撃隊の指揮官の命令が下った第一波は予定通り、日本軍の航空基地を攻撃した。

 各所の日本軍はマリアナ奪回作戦のため集結しており、機体が並べられていた。

 そこへ攻撃が行われたのだから被害は酷かった。

 第一波だけで百機以上の機体が攻撃を受け、地上で撃破された。

 空中に飛び立てた機体も空戦で次々と撃墜され墜落していった。

 第二波の追い打ちもあり総計で二〇〇機以上が撃破され航空施設も破壊。

 航空作戦能力は無くなった。

 第三波からは港湾施設への空襲も始まった。

 在泊艦艇やドックへの攻撃が行われ、マリアナへ送る予定の物資を積み込んでいた輸送船が十数隻撃沈され、タンカーも破壊された。

 その後も空襲は続き、関東地方の軍事基地は大打撃を受けた。

 日本側は再びの奇襲攻撃に動揺し混乱した。

 ようやく正午前に落ち着きを取り戻して反撃を企てたが既に戦力は破壊され、組織的な反撃は不可能だった。

 ただ、横須賀鎮守府の部隊とその警報を受けていた部隊は早々に稼働機を東海や東北地方の飛行場へ退避させる事に成功した。

 しかし、関東地方の航空基地が壊滅したため、戻ってくることが出来ず退避先の飛行場で待機する事になってしまった。


「おのれ米軍め!」


 日吉の地下壕で報告を受けた豊田は激怒した。


「第一機動艦隊に帝都を空襲した米軍機動部隊迎撃を命じろ!」

「ですが第一機動艦隊にはマリアナ奪回作戦の支援任務に就いております。上陸部隊が支援を受けられなくなります。それに米軍の襲撃を受ける可能性があります」

「米軍が再び帝都にやって来たんだ! 上陸船団を襲撃する心配などない! 支援の為に一部の護衛を残すだけで十分だ! すぐに引き返して米艦隊を、帝都を空襲した空母を撃滅、海の底に沈めさせろ!」

「は、はいっ!」


 佐久田の言うとおりになった、と思いつつも、参謀は言われたとおり第一機動艦隊に命令を伝えた。

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