ヘイズの戦い

「空襲に備えて防御陣地の構築を急げ! 負傷者は包帯所へ、重傷者は病院に送るんだ」


 真珠湾の西側にあるエヴァ海兵隊航空基地にアイラ・ヘイズの姿があった。

 日本軍の空襲を見て泊まっていたホテルを出て、すぐに近くの海兵隊駐屯地へ飛び出した。


「待て! ヘイズ一等兵! 君は本土に行くのが任務だ!」


 付き添いの少佐が引き留めたがアイラは毅然と答えた。


「自分は海兵隊員であり、戦友を見捨てることは出来ません!」


 そう言い残すと近くの海兵基地へ向かった。

 途中から、淵田率いる第二次攻撃隊の攻撃が始まったが、飛行場への攻撃と対空砲のへ攻撃が中心で海兵隊の基地に被害は少なかった。

 それでも引っ張りだした対空砲や機銃座を中心に被害が出ており、アイラ達は負傷者の救助を中心に行った。

 一段落したところで、復旧作業を行ったが、午後になり、日本軍の攻撃が再開される。

 やはり、飛行場が中心で海兵隊は真珠湾南西にあるエヴァ航空基地が大きな被害を受けた。

 救援隊を出すことになり、アイラも加わった。

 日本軍の攻撃は執拗で夕暮れ時にアイラが到着したときも攻撃を行っていた。

 丸一日の攻撃にさすがの海兵隊もへとへとになっていた。


「へばっている暇はないぞ! 次の攻撃に備えるんだ!」


 硫黄島で激戦を生き延びたヘイズは、硫黄島の時のように叱咤して動き回った。

 そして、倒れている星条旗を見つけると、あのときのように倒れたポールに括り付け、星条旗を掲げた。

 日本軍の攻撃で落ちていた星条旗が再び翻ったことに海兵隊員の士気は少し回復した。

 だが、掲げたのが、あのアイラ・ヘイズだと知ると沸騰した。

 後方だったこともありハワイの新聞にも硫黄島の星条旗は載せられており、アイラは有名だった。

 自分の名前が見ず知らずの海兵隊員達に知られていることに戸惑ったが、自分がいることで彼らがまた元気を取り戻したことは嬉しかった。

 その後は夜通し作業が続いた。

 しかしそれは困難な作業だった。

 夜間の作業中航空基地の一角で爆発が起きた。


「また爆発だ!」


 日本軍が落としていった、爆弾の中には多数の不発があった。

 だが、不発ではなく時限爆弾で、投下後一定時間、それも数時間ほど経ってから爆発する。

 丁度復旧作業中か復旧終了後を狙ってだ。

 復旧作業の妨害のために仕掛けられたトラップ。

 度重なる爆発に死傷者もでた上、いつ爆発するか分からない状況に海兵隊員達の士気は再び下がる。


「怯むな! 作業を続行するんだ!」


 そこでもアイラは先頭に立って活躍した。

 さすがに爆弾を解体する能力はないが、長い棒の先に爆薬をくくり付け、爆弾の近くに設置、遠隔操作で爆破させ、爆弾を誘爆させる作業に従事した。

 この活躍を見て、海兵隊の動きは再び活発になった。

 砲弾が雨あられと飛び込んでくる硫黄島と違って、近くに日本艦隊がいるとはいえ空襲が終わった後、味方の基地で爆弾の処理など簡単だった。

 このときになって付き添いの少佐が現れ、危険な現場から離れるように命じた。

 だが


「戦友を、海兵隊員を見捨てていけるか」


 といって再び断った。

 命令とはいえ戦場から離れたアイラには罪悪感があり、戦場となったハワイで再び逃げることなどできなかった。

 ここで逃げたら一生自分が許せなくなる。

 アイラは、かたくなに拒否し、作業を続けた。

 なおも少佐は命じたが中断した。

 突如上空に照明弾が放たれたからだ。


「空襲!」


 夜明け前を狙って発進させた日本の攻撃隊だった。

 少数だったが、奇襲により残存航空戦力の破壊、復旧作業妨害、連続攻撃による士気の低下を目論んでのことだった。

 レーダー基地の破壊も狙っていたが、初日の攻撃であらかた破壊したため、レーダー波の探知はなく全機が飛行場攻撃に回った。

 警報もなくいきなり攻撃されたのもレーダーを破壊されたからだった。


「応戦しろ!」


 攻撃を受けた海兵隊員達は各自手近な銃座に飛び込み応戦していく。

 アイラも機銃座に向かい弾薬の搬送を手伝う。


「危ない!」


 だが、対空砲を見つけると日本軍はロケット弾で攻撃を仕掛けてきた。

 応戦してくる銃座に日本機の攻撃が集中。逃げるだけで精一杯となる。


「くっ日本軍め」


 先ほど作ったばかりの蛸壺に入り舌打ちする。

 攻撃が終わって再び出ると、次の攻撃に備えて飛び出した。

 だが、夜が明けて、西の水平線を観た時、唖然とした。

 日章旗を掲げた多数の艦艇がオアフ島へ向けて航行してきていた。

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