三四三航空隊

「敵の編隊百機以上を確認!」

「機動艦隊司令部より迎撃命令です!」


 空母雲龍艦橋の下に作られた、戦闘指揮所で源田防空参謀兼防空指揮官に任命されている源田実大佐はただちに命じた。


「三四三航空隊全機発進! 他の戦闘機隊も発進させろ!」


 第五部隊は全て雲龍級空母で編成されているが、戦闘機しか積み込んでいない。

 戦時急造艦として最低限の大きさで作られた改飛龍級のため格納庫が小さく攻撃機を乗せると機数が減る。

 そのため、少数の対潜警戒及び偵察用の艦攻と彩雲以外は全て戦闘機だ。

 結果、七十機近い、戦闘機が積まれていた。

 中でも異彩を放つのが、雲龍に搭載された艦載機だった。


「剣部隊の初陣だ! 全機俺たちが食うつもりで行け!」

「おう!」


 二代目三四三航空隊――剣部隊。

 かつて天才パイロットと讃えられその技術を広く国民に見せたことから源田サーカスと呼ばれた源田実。

 腕は勿論だが、航空機の知識と指揮官としての適性から参謀としての能力を買われた。

 そのため撃墜スコアはないが、その知識で航空隊を育成し拡大した海鷲の育ての親と言える。

 劣勢な中でも航空隊拡張に奮闘した。

 だが、マリアナ沖海戦に敗れ、本土が危機に、敵機の来襲を予見する。来襲してくる米軍機を迎撃するため少数精鋭のパイロットを性能が卓越した新型機紫電改に乗せる事で戦局の挽回を図る。

 マリアナ沖海戦で壊滅した三四三航空隊に自ら司令として着任し再編成。新型の紫電改を装備し各地から精鋭パイロットを引き抜き、精鋭部隊を編成。

 剣部隊と名乗り、猛錬成を行った。

 機材人員を優先的に配備され各地の航空隊から嫉妬されていたが、源田は信念を曲げず、錬成を続けた。

 今回の作戦でも始めは拒否しようとしたが、紫電改の艦載機改造型、紫電改二の優先配備と作戦内容から参加を承諾。

 三四三航空隊司令はそのままに防空部隊の総指揮を任された。

 源田の部下達も、空母への発着艦に違和感を覚えたが出撃後の作戦内容に全員驚き歓喜して、喜んだ。

 もっとも、足の短い紫電改二は攻撃には参加できず、機動部隊上空の援護任務が主だ。

 艦隊がハワイへ接近すれば出撃の予定だが、それまでに攻撃隊が獲物を全て食い尽くすと思い、ふてくされていた。

 そこへ、敵機襲来の報告を聞き、彼らは喜んで出撃した。


「発艦始め!」


 迎撃準備で甲板に並べられていた戦闘機に命令が下る。


「戦闘三〇一飛行隊! 新撰組! 出る!」


 菅野直大尉が声を張り上げて、飛び出した。

 剣部隊の所属飛行隊はそれぞれ固有の名称がある。

 上位部隊である連合航空隊司令官である久邇宮朝融王から三〇一飛行隊に新撰組が命名され事をきっかけに他の隊も士気を高めるため、通称を付した。

 菅野は、文才があり、命名を喜んでいる。

 ちなみに剣部隊の名称は菅野が「破邪剣正」から一文字を使う事を提案して命名された。

 名付け親だけに部隊の初陣に菅野は張り切っていた。


「戦闘四〇七飛行隊! 天誅組! 出る!」


 続いて林喜重大尉率いる戦闘機隊が発艦した。

 無口で温厚な性格で、搭乗員に慕われている。

 だがソロモンをくぐり抜け、マリアナの時は本土からの増援謡としてサイパンでの空戦に参加。

 敗北し撤退する事になるが、部下を纏めて本土に帰還出来たのは彼の統率力の賜物だった。

 その後もフィリピンで戦い、源田に引き抜かれて三四三航空隊へ来ている。


「戦闘七〇一飛行隊! 維新隊! 出る!」


 最後に鴛淵孝大尉率いる戦闘機隊が飛び出す。

 海兵六八期卒業後、戦闘機搭乗員として訓練を終えるとソロモンへ進出し、激戦をくぐり抜けた強者だ。

 台湾沖とフィリピン沖の激戦をくぐり抜けたのを認めた源田によって引き抜かれた。

 三人の飛行隊長の中では最先任であり、先任飛行隊長を務めている。

 今回は彼が空中での指揮官だ。


「よし、全員上手いな」


 無事に三個飛行隊四八機が発艦出来たことを鴛淵は喜んだ。

 紫電改装備部隊として編成されたが急遽、作戦参加が決まり、艦載機である紫電改二への改変と艦載機部隊への返還を命じられた。

 最初は戸惑ったが、選りすぐりのパイロットを集めた航空隊だけに全員腕は良く、発着艦を見事に会得し、作戦に参加した。


『全機、高度五〇〇〇間で上昇、南方二〇キロの地点へ向かえ』


 無線の調子も良く飛行長の志賀少佐の声がよく聞こえた。

 彼らは指示通り、南へ向かいつつ上昇していった。 

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