サイパン級軽空母

 この時、ハワイ近海を航行していたのは就役したばかりのボノム・リシャールとサイパン級軽空母サイパンとライトだった。

 サイパン級は空母の不足を心配したルーズベルトが、急場のしのぎに建造を命じたインディペンデンス級を元に作られた空母だ。。

 戦争が迫った四一年八月、四四年まで正規空母が就役しないと聞いたルーズベルトが当時大量建造中の巡洋艦の一部を空母にする様に命じた。

 当初海軍当局は改造空母では性能に限界があるとして反対したが真珠湾攻撃が始まると多くの航空母艦を配備する必要に迫られ、正規空母の建造を加速すると共にクリーブランド級の一部を改装することにした

 実際に設計を始めると上手く行きそうであり、海軍は手の平を返して、更に改装する隻数を追加。

 一番艦インディペンデンスは急ピッチで建造され四二年末に就役、翌年にはすぐさまソロモンに投入され、ガダルカナル攻略戦に参加し貴重な航空戦力として活躍した。

 この戦績と正規空母の損失をカバーするため、一二隻も建造され、米軍の苦しい時代を支え、反攻の一翼を担った。

 この成功を元にボルチモア級巡洋艦の一部を転用して作った軽空母がサイパン級軽空母だ。

 成功したインディペンデンス級があった上、インディペンデンスの元になったクリーブランド級軽巡洋艦から更に大型のボルチモア級重巡洋艦の船体を使ってるため、船体は大きく能力も高かった。

 ソロモンでの消耗戦が終わり、巡洋艦戦力が回復したため被害の大きかった空母の代替として二四隻が建造される予定だったボルチモア級を転用するのに何ら支障はなかった。

 むしろエセックス級の建造でドックが手一杯のため、二万トン以下のドックで建造出来るサイパン級は手頃で作りやすい空母と言えた。

 空母を必要とする太平洋戦線へ送り出すためサイパン級は急速に整備され、起工から一年で進水し、その四ヶ月後の去年の末に就役した。

 同型艦のライト共に、ボノム・リシャールと組んで新たな機動部隊を編成するべくオアフ島近海で護衛となる巡洋艦と駆逐艦数隻と共に訓練中だった。

 本土より前線に近い上、航空基地も多く海軍工廠もあり、何より南海のリゾート地で娯楽施設が整い乗員の休養が行えるハワイ近海は訓練にもってこいの場所だった。

 オアフ島が再び攻撃された当日も訓練のため、出港しており空襲を避けることが出来た。

 実弾演習を予定していたため、武器弾薬も十分に保有していた。

 特に艦載機は、最大で何機搭載して運用出来るか実験するために、通常の五割増し、ボノム・リシャールは一〇〇機前後のところを一五〇機、サイパン級も五〇機前後が標準のところを七五機も搭載していた。

 オアフ島が攻撃を受けたことを知った司令官は、近くに日本艦隊がいると判断。

 直ちに攻撃する事を決断し、索敵機を放つと共に攻撃隊の準備を急がせた。

 多分、機数から想像するにして敵は十隻以上の空母がいる。

 ハワイの航空基地が壊滅し、孤立した現状、自分たちが戦力的に圧倒的劣勢である事は明白。

 逃げ延び再起を図るのが正しい。

 だが足の長い日本機の作戦行動範囲内にいるだろう。

 そして、猛将であり優秀な空母部隊指揮官である日本の山口多聞は見敵必殺の真の海軍軍人。

 自分たちを決して見逃しはしない。

 一撃を加えて、混乱させその隙に本土へ逃げ込む。

 それ以外に、彼らが生き延びる道はなかった。

 何とか逃れようとあの手この手を使っているのだ。

 搭載機の大半を攻撃隊にして放ったのも、そのためだ。

 大量に艦載機を積み込んだ状態で攻撃を受けたら、破損する。

 ならば攻撃される前に攻撃に使ってしまえと考えたのだ。

 運良く索敵に出したヘルダイバーが、日本の攻撃隊を見つけ、追尾。空母を含む日本艦隊を見つけ出し、位置を打電してきた。

 攻撃隊の準備も整い、直ちに出撃を命令。

 百機以上の攻撃機が直ちに発艦し、日本艦隊攻撃に向かった。

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