ハワイ再攻撃 第一撃

 レーダーは、アンテナから発信した電波が跳ね返ってきた方向と時間で目標を探知できる。

 だが、もしアンテナに向かってレーダーと同じ周波数の電波が流されたとしたらどうなるか。

 レーダーは常に電波を受けている状態になり、画面は真っ白になる。

 電波妨害の意義はここにあった。

 しかし、露骨に最初から電波妨害を行っていては、すぐにバレてしまう。

 そこで、日本軍は42年にドーバー海峡で行われたケルベロス作戦――チャンネルダッシュを参考にした。

 大西洋のブレストにいるドイツ主力艦を本土へ帰還させるため、ドーバー海峡を白昼堂々と航行させるのだ。

 危険だが、昼間の方が戦闘旗の援護を受けられる分安全と判断されたからだ。

 しかし、発見されるのは遅い方が良い。特に、海峡の一番狭い部分に行くまでにレーダー探知されたくない。

 そこでドイツ軍は英国軍のレーダーを騙すために電波妨害を行った。

 妨害は一月前から、自然現象に見せかけるため徐々に妨害する時間を長く、そして出力を高くした。

 そのため英国軍は一部の新型を除き、レーダーが探知不能となりドイツ艦隊の接近に気が付くのが遅れた。

 迎撃が遅れた英国軍を振り切り、ドイツ艦隊はそのまま本土に逃げ込んだのだ。

 日本軍はこの作戦を参考にした。

 真珠湾奇襲前から潜水艦を派遣し、夜明け頃、攻撃開始時刻の前後から電波妨害を実施。

 日に日に妨害の時間と強度を強めていった。

 米軍はまんまと自然現象と思い込み、妨害とは思わなかった。

 そのため、江草率いる攻撃隊の接近に寸前までオパナレーダーサイトは気が付かなかった。




「上昇せよ!」


 江草は攻撃隊に高度をあげるよう指示した。

 電波妨害が効かない新型を恐れて海面すれすれを飛んでいたが、攻撃の為には高度を上げなければならない。

 万が一敵の戦闘機がやってきたときは制空隊が上空にいた方が有利だ。

 探知されてしまうが、やむを得ない。

 だが運良く江草達は電波妨害のおかげで敵に見つからず、そして通報されずに済んでいた。


「全軍突撃体制!」


 江草機からトツレ――突撃体制作れの号令が下り、各機は低空での進撃陣形から攻撃態勢へ移る。

 制空隊は上昇し、攻撃隊は各目標へ向けて行く。

 各機が動いていると確信し、江草は命じた。


「全軍突入せよ!」


 ト連送――トの連打で、全軍に目標への突撃を命じる。

 スロットルを全開にし、ブーストをかけて各機突進していく。

 真っ先に標的になったのは、オパナレーダーサイトだった。

 周囲の状況を把握出来るレーダーは最優秀の目であり、戦場において敵の目を潰すのは定石だ。

 一二機からなる零戦改は八機と四機の編隊に分かれ、四機が上空を制圧しつつ、先頭の八機が両翼に積み込んだ一二発のロケット弾を発射。

 九六発のロケットがレーダサイトを襲う。

 百発近い面制圧でレーダーも周辺機器も破壊されレーダーサイトは使用不能となった。

 他のレーダーサイトも攻撃を受け、米軍の早期警戒網は全滅し、上空監視網は大幅に機能を低下させた。




 この時点で各所で起きた爆発と日本軍機を確認した通報からフォート・シャフターにある防空指揮所は日本軍による空襲と認識。各所に通報した。


「真珠湾に再び空襲! これは訓練でも誤報でもない!」


 最初こそ半信半疑――二年間で度重なる誤報で戦闘配置に就かされていたことから、また誤報か、と思っていたが爆発音を聞いて、直ちに警報が鳴った。

 オアフ島中心近くにあるホイラー陸軍飛行場をはじめ、島南部にあるヒッカム陸軍、エヴァ海軍飛行場、フォード島海軍飛行場などに四〇〇機以上の航空機がハワイ島に存在した。

 しかし、いずれの機体も空母への補充用か太平洋各地へ移動中の航空機であり、ハワイに駐留する航空機は少数だった。

 しかも陸軍航空隊、海軍、海兵隊と軍種が別々、つまり、統一した指揮系統がなかった。

 一応、戦闘時にはハワイの航空部隊指揮官がハワイにある全ての指揮統率を行える事になっていたが、日々米本土から飛来し任地へ飛び立っていく機体を把握するのは容易ではなかった。


「全機! 飛べる機体は飛べ! 武装していなくても空中退避しろ!」


 それでもできる限りの命令を出し、飛ばそうとした。

 だが、日本軍機が襲撃する数分前では遅すぎた。

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