攻撃隊の進撃

 機動部隊を飛び立った攻撃隊は闇夜の中をハワイに向かって飛び続けた。

 先頭には電子装備を積み込んだ電子彩雲が飛んでおり、攻撃隊を誘導すると共に米軍のレーダー波を監視していた。

 彼らの優れた誘導能力がなければ、夜間の飛行は困難だっただろう。

 出撃前、日本海と東シナ海周辺で、連日、夜間発艦黎明奇襲攻撃の訓練を繰り返し、攻撃隊の練度は上がっていたが、やはり誘導の正確さは専門の彩雲に任せた方がよい。

 おかげで江草は指揮に集中、部下達が編隊を維持しているか確認する事に集中出来る。

 出撃から二時間ほどして、彩雲が米軍の対空レーダーを探知し、警告を発すしてきた。


「攻撃隊全機に通達! 敵レーダーの探知を避けるため、高度を下げ低空へ、海面近くまで降りろ」


 警告を受けた江草は、探知されるのを避けるため攻撃隊を予定通り、低空へ下げる。

 地球のの丸みの下に攻撃隊は隠れ、レーダーが捕らえられない影の部分を飛び、オアフ島へ接近する。

 だが、何時までも隠れていることは出来ない。

 近づけば、さすがに水平線の上に出てしまう。かといって影に隠れるため低く飛び続けると、海面と衝突し墜落する機体も出てくる。

 だからオアフ島まで五〇キロに迫ると江草は上昇を命じ攻撃目標へ向かわせる予定だ。

 探知されてしまうが、計画では探知されないよう手を打つことになっている。

 上手く行けば良いが、失敗してもトラトラトラからトバトバトバに変わるだけ。

 米軍が待ち構える中、後続の攻撃隊のために強襲してハワイの航空戦力と反撃能力を叩きのめすだけだ。

 丁度夜が明け、東の空には太陽が昇り始めていた。

 低く垂れ込めた雲により太陽は見えなかったが隙間から光が伸び軍艦旗のように輝き、攻撃隊の日の丸を照らしていた。




「また障害だ」


 その時、オアフ島北端カフク岬近くに設けられた陸軍第五一五対空警戒隊オパナレーダーサイトの当直員が、画面が白くなるのを見て舌打ちした。

 冬の嵐のせいか、レーダー画面がホワイトアウト、真っ白になることが多い。

 レーダーは電波を発し、物体に当たると返ってくる電波をディスプレイに映すことで目標を探知する。だが、反射する物体が問題だった。

 敵機なら良いが、鳥だろうが、虫だろが、雲だろうが電波を反射してしまう。

 しかも大気の状態によっては、大気そのものが電波を反射したり、太陽が放出する電波を捕らえてしまう。

 おまけに新型になるほど酷くなる。

 アンテナの解像度、感度が高くなるほど、余計な電波を捕らえてしまって見にくくなってしまうようだった。


「リメンバーパールハーバーといってもレーダーがこれだとな」


 パールハーバーの時、レーダー画面は確かに日本機を探知していた。

 しかし同時刻に本土から接近中のB17の編隊がいたため、当直士官が彼らと誤認し、日本軍機を見逃してしまった。

 そんな事がないよう、確認手順を決めているが、レーダーが使用不能では意味がない。


「もうパールハーバーから二年も経つんだ。ジャップの連中ももう来るまい」


 仲間の軽口に当直員は頷く。

 配属された当初こそは緊張し、再び悲劇を起こすまいと厳密にマニュアルに従って職務にあたった。

 だが、探知するのは、友軍機や鳥だけだ。

 緊張しすぎて敵機と誤認し警報を出したことも一度や二度ではない。

 その度に叱責されたため何か探知しても、暫く放っておく癖が彼らに付いてしまった。

 毎日の行事になりつつあるホワイトアウトも、何をしても改善されず日に日に酷くなり、処置なしと考えていた。

 技術者も分からず自然現象であると予測され対処不能、こうなっては仕方ないとされ雨が降るようなものだと彼らは考えていた。

 だが、彼らは知らなかった。

 ホワイトアウトの原因が日本軍潜水艦による妨害電波照射によるものであることに。

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