佐久田のハワイ作戦
佐久田が立案したのは機動部隊全力によるハワイ再攻撃だった。
硫黄島へ米軍が攻略している最中、特に空母部隊が日本近海に接近している。
つまり、他は、特に後方はがら空きだ。
警戒はしているだろうが、完璧ではない。
北太平洋は今、冬の厳しい時期で激しい嵐で碌に哨戒機も飛ばせない状況だ。
開戦劈頭のハワイ作戦の時のように警戒が薄いことは、把握していた。
勿論、米軍も再度の攻撃を警戒して監視態勢を開戦直後から強化していた。
だが、二年も経ち、攻撃の気配がなくなると徐々に警戒を解いていき、殆ど監視態勢は解かれていった。
そのことを佐久田は知っている。
ソ連への援助船団が航行しているが、ソ連籍のため中立を守る為、航路と現在位置を予め伝えており、回避する事は可能だ。
空母十数隻からなる機動部隊を送り込む事は不可能ではなかった。
遙か後方だが、タンカーの準備も終えた。
さすがに機動部隊に随伴出来る高速タンカーの数が足りないため、予め低速のタンカーを先発させ、機動部隊が追いつき給油するようにした。
戦艦空母などの大型艦から小型の駆逐艦へ給油しておき、タンカーからの給油を短時間で済ませ、移動速度を落とさないよう工夫していた。
勿論、準備には時間が必要だが、短時間で済ませる事が出来た。
何故なら二年前から佐久田はハワイ攻撃を考えており準備を進めていたからだ。
敵の根拠地であり策源地であるハワイを潰せば米軍の動きは鈍る。
しかも前線に近い。
わざわざ米本土から艦隊を出撃させる事無く、近くのハワイから出撃出来るのは艦隊運用、戦場への到達日数の削減を考えても合理的だった。
しかもハワイの海軍工廠の能力は高く、ミッドウェー海戦で珊瑚海海戦で大破したヨークタウンを七二時間で修理して送り出した。
応急修理程度だったが、再び発艦可能な状態にまで復帰させたのは見事だった。
ミッドウェー海戦で沈んだが、日本軍の航空攻撃を耐えきり、最後は潜水艦攻撃でようやく沈んだことからも決して手抜きを行ったわけではない。
その時大破したエンタープライズとホーネットも迅速に修理され、ガダルカナル島攻略に参加させている。
ソロモンの激戦で日本軍の攻撃で激しく損傷した艦がすぐに復帰出来たのもハワイの工廠による能力が大きかった。
だから佐久田は本気でハワイへの再攻撃を機動部隊参謀となってから考えており、実際の作戦立案まで行っている。それも三ヶ月毎に最新情報を元に作戦案を更新するほどの入れ込みようだ。
しかし、相次ぐ転戦とインド洋封鎖を優先したため実現出来なかった。
米軍の反攻が始まってからは敵機動部隊を撃破するため、あるいは味方の撤退を援護するための作戦が多く、実行出来ずにいた。
作ったハワイ再攻撃作戦案も米軍を牽制するための偽装作戦として活用するしかなかった。
だが、ここに来て実現する機会が訪れた。
米軍機動部隊は硫黄島攻略の為、日本近海までやって来ている。
ハワイを攻撃しても引き返すまでに波状攻撃を仕掛け、離脱するだけの時間的余裕は十分にある。
硫黄島が最低でも半月保つかどうか佐久田が尋ねたのは、日本近海から出撃し、ハワイに到達するにはどうしても十日ほど掛かかる。
米軍を攻略支援の為に、上陸部隊援護で硫黄島周辺に張り付いている米機動部隊を引きつけておくために、背後を気にせず反復攻撃を行いハワイを壊滅させるのに必要な時間なのだ。
勿論、反対意見は多かった。
ハワイを奇襲するのは無謀すぎる。
硫黄島を見捨てるのか、本土を攻撃した敵機動部隊を逃すのか、という批判だ。
だが、ハワイを空襲し無力化出来れば、敵は重要な補給路を断たれ、後方支援施設を失う。
ハワイは重要な寄港地であり船団編成には必要な拠点だ。
それに、何度も書いたが工廠の能力も高く、前線で損傷した艦艇をすぐに収容し修理し前線に送り返す事が出来る。
死力を尽くして、時に五割以上の損耗を受けてようやく味方攻撃隊が敵艦に爆弾魚雷を当て空母を大破させても、すぐにハワイに回航され修理され、復帰されては、攻撃で散っていた搭乗員たちの死は無駄死だ。
だがハワイを機能不能にすれば米軍の継戦能力、戦力回復は遅れる。
ハワイが機能不全となれば、最高で一年は米軍の攻略スケジュールが遅れると佐久田は分析、判断していた。
だから是が非でも、日本の敗北を先延ばし、講和の機会を得るチャンスが巡ってくる確率を増やしたいがために、ハワイ再攻撃を佐久田は行いたかった。
勿論硫黄島は見捨てない。
空襲に成功すれば補給路を断たれた米軍は撤退するはず。
もし撤退しなくても、帰投した機動部隊で攻撃すれば良い。
攻略につきっきりで逃げ損ねた米軍など機動部隊で一ひねりだ。
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