沿岸警備隊員 カーターの受難2

「おい! 早く出すんだ!」


 カーターの艇も全員乗り込んだため、早く発進するよう甲板から士官に怒鳴られる。激しい攻撃を受ける上陸海岸へ行くのは嫌だった。だが命令で仕方なく艇を発進させ、海岸へ向かった。

 他の艇も乗り込みが終わり輸送艦から離れ、周囲で円陣を組んだあと、目的地へ向かう。

 海岸に向かったと言ってもすぐには向かわない。

 単独で向かえば、敵の集中砲火を浴びかねないし、味方と接触事故を起こし最悪、双方とも転覆してしまう。

 それを避けるため、

 陣形を組んで海岸へ向かう。

 一般的には、海岸に対して一列の横隊列となり、同時に突進する。

 カーターは艇を操り指揮艇に続行して沖合に向かう。

 そして一列縦隊で進み、海岸と平行に走ると指揮艇の合図と共に一斉に九十度転舵して海岸へ向かった。

 ここからは下手に舵を切れない。

 左右には仲間の上陸艇がいるのだ。

 接触を避けるためにも不用意に切らない。

 だが、日本軍はそんな事お構いなく砲撃してくる。

 数少ない部下の一人、二人の内一人が担当する7.62ミリ機関銃で反撃する。


「止せ! 弾の無駄だ!」


 まだ海岸まで遠く射程外だ。

 下手に打つと狙われてしまう。

 実際、日本軍が次々とカーターを狙って砲撃を浴びせる。

 しかし、幸運にもカーターの艇には命中せず左を航行していた不幸な同僚が直撃を受けて沈んで仕舞った。


「畜生!」


 悪態を吐く間も舟艇は前進を止めない。

 だが日本軍の攻撃は続く。カーターの艇の近くに水柱が徐々に近づき、艇をゆらすと共に直撃のカウントダウンを告げる。

 その時、日本軍の陣地に連続した爆発が起きた。

 次々と林立する爆発にカーターは驚いた。


「スピットキットの砲撃だ!」


 部下の一人が真横を併走してきた揚陸艇、いやロケット放つ火力支援艇を見て叫んだ。

 揚陸艇にロケット発射機を並べた火力支援艇が日本軍の陣地に向かってロケット弾攻撃をかけたのだ。


「良いぞ! 連中は黙ったぞ!」


 舟艇の中で喜んでいる奴もいるが、ロケット弾の命中精度は悪い。広範囲に大量のロケット弾を放つのが基本であり面制圧、敵味方問わず着弾点を吹き飛ばすのだ。

 味方の兵隊さえ巻き込みかねない攻撃をしなければ成らないほど激しい戦闘となっているのだ。

 味方が巻き込まれただろうが、カーターへの攻撃は無くなった。

 日本軍が黙っている間にさっさと海岸へ接岸するべくカーターは速力を上げた。


「上陸まで五分!」


 海岸までの距離を測り、カーターは告げた。


「うえっ」


 海兵隊の一人が吐いた。今朝朝食に出されたステーキの一部が見えた。

 上陸前の朝食では必ずステーキが出されるのだが、恐怖で吐き出してしまった。

 胃酸の酸っぱい匂いが立ちこめるが舟艇は突進する。

 だが、上陸を前にして速度を緩めなくてはならなかった。


「くそっ! 撃破された舟艇やアムトラックで塞がっていやがる!」


 海岸は日本軍によって撃破された舟艇やアムトラックの残骸が埋め尽くし海岸を漂っていた。

 何とかすり抜けようとカーターは試みるが着る隙間が見えない。


「何処に上陸すれば良いんだ」


 やがて、スピットキットの支援攻撃が終わり、火柱が見えなくなる。日本軍の反撃も始まり、近くに迫撃砲が落ち始める。

 敵前でまごまごしていられないが、上陸出来る場所がない。


「おい! 艇長! とにかく海岸に着けてくれ! 上陸するんだ!」


 海兵隊の軍曹が怒鳴った。

 このまま舟艇に乗っていたら不幸な一発で全員纏めて死にかねない。ならば上陸して散開したほうがまだ生き残れる可能性が高い。

 カーターも彼らを下ろして離脱した方が生き残れる。


「よし!」


 カーターは意を決して比較的間隔が広い場所を狙って舟艇を進めた。

 だが、漂う舟艇に押されて進路がずれ、アムトラックの残骸に接触してしまう。


「ぎゃああっっ」


 悲鳴が上がった。撃破されたアムトラックの陰で日本軍の砲撃に耐えていた海兵隊員がカーターの舟艇に押されたアムトラックに引かれたのだ。


「何しやがるんだ!」


 死んだ仲間の一人が悪態を吐く。


「構わない! 前進しろ!」


 だが海兵隊の軍曹が命じたためカーターは全速で海岸に上陸させる。

 浜辺に接岸するとカーターの部下がすぐさまランプを下ろた。

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