米海軍史上 最悪の海軍記念日

 10月26日

 この日は米海軍の海軍記念日だったが、朝から絶望的な空気が支配していた。

 フィリピン侵攻作戦は滑り出しは上々だった。

 日本軍の反撃は少なく、マリアナの損害が回復せず攻略可能と判断していた。

 陸軍、それもマッカーサー主導の作戦だというのが気に入らなかったが、作戦は可能と判断していた。

 ペリリューに上陸したが、ここから想定外が始まった。

 数日で攻略しフィリピンへの航空基地となるはずが、一ヶ月経った今でも攻略できない。

 モロタイ島を基地にしているが十分ではない。

 それでも上陸支援の第七艦隊の援護と空母機動部隊、ハルゼーの第三艦隊がいれば完璧なはずだった。

 実際、日本艦隊が来ても、ハルゼーが戦艦一隻を撃沈し、撃退。スガリオでも戦艦二隻を含む艦隊を撃退した。

 だが、ウルシー奇襲から全てが変わった。

 後方拠点となったウルシーが日本機動部隊の反復攻撃で全滅。

 周囲にいた船団、空母機動部隊への補給部隊も壊滅。補給に赴いた空母群も壊滅した。

 ハルゼーは日本機動部隊攻撃のため反転したが、その隙に日本の水上艦艇部隊がレイテへ突入。

 上陸船団を全滅させた。

 艦砲射撃により上陸部隊も壊滅。

 マッカーサーも戦死した。

 残った第六軍も指揮系統が混乱する中、夕方頃より始まった日本陸軍の反撃を受ける。日付が変わっても日本軍の攻撃は続き、夜明け頃に降伏した。

 しかも前線だけでなく後方の部隊も降伏することを強要された。

 元々第六軍が四個軍団八個師団を有する部隊で、後方の部隊とローテーションさせながら常に新鮮な兵力を前線に送り届けてきた。

 攻略を迅速に行うための便利で有効な方法だったが、これが事情を複雑にした。

 後方の部隊さえ降伏する羽目になったからだ。

 さらに拙いことに第六軍司令官クルーガー中将がマッカーサーの後任として南西太平洋方面軍の指揮を行っていた。

 レイテの部隊だけでなく南西太平洋方面の各部隊、モロタイ島やニューギニアの部隊さえ降伏することになってしまった。

 後方に残した休養、再編成中の部隊まで降伏するのだ。

 慌てて米軍は日付を遡って所属を太平洋艦隊へ変更する羽目になる。

 この日は米海軍の海軍記念日だったが、二年ぶり二度目の最悪の海軍記念日となった。

 二年前は南太平洋海戦で、ガダルカナルへの再侵攻中、援護していた米機動部隊が出撃したが、エスピリシスサット空襲で、後方からの支援が受けられなくなった。

 そこへ空襲を終えた日本軍がやって来て南太平洋海戦が勃発。

 激しい戦いの結果、米軍は機動部隊が孤立した事もあり稼働空母を全て喪失。

 ガダルカナルへの再侵攻は中止となった。

 丁度、海軍記念日と重なったため米海軍史上最悪の海軍記念日だと嘆いた。だが、その記録を今回の失敗は易々と更新してしまった。


「畜生! ジャップめ!」


 レイテへの日本艦隊突入、船団壊滅、マッカーサー戦死の報告を受けたハルゼーは怒り狂い、反転を命令。

 第一遊撃部隊を追撃しようとしたが、既にスガリオ海峡を通過しブルネイへ向けて凱旋していた。

 間にはフィリピンがあり、展開した第一航空艦隊と第四航空軍が迎撃してきたため、ハルゼーは日本艦隊を捕捉することさえ出来なかった。

 かつてソロモン時代上官だったマッカーサーの弔い合戦だと意気込んだが、出来なかった。


「第三艦隊はレイテ撤収作戦の為の支援を行え」


 更に太平洋艦隊司令部から命令を受けてはハルゼーも従うしかない。

 レイテ周辺に残った艦艇と降伏しなかった部隊を収容し後退していった。


「マリアナ以西から撤退する」


 マッカーサーの戦死により太平洋方面の最高司令官となったニミッツの命令は妥当だった。

 兵力は勝っているが、補給拠点、ウルシーが使えなくなったことが痛かった。

 いくら屈強な人間でも食糧がなければ餓死してしまう。

 武器も燃料弾薬を与えられなければ、動かない。

 特に圧倒的な物量を叩き付けることが米軍の基本方針であり、補給拠点と補給部隊がなくなれば、物量を送り込めないとなれば、撤退しかなかった。

 レイテ周辺のエアカバーを終えた第三艦隊は、ペリリュー攻略部隊を収容するとマリアナ諸島の東側へ撤退した。

 第三艦隊の補給さえ十分行えない為、第三艦隊の手持ち分が尽きる前に撤収しなければならなかった。

 モロタイ島やビアク周辺の航空基地も、補給が整えられなかった。

 第三艦隊の撤収により、エアカバーに穴が空いたため、船団が潜水艦によって攻撃された。

 さらに、日本機動部隊の一部が南シナ海経由で奇襲攻撃を敢行。

 モロタイ島とビアクの航空基地を破壊した。

 周辺の維持が難しいと判断した米軍は、モロタイ島、ビアクからも撤退を開始。

 戦線整理を行う羽目になった。

 直後、日本軍が米軍が撤退した地域へ進出。

 現地でしぶとく持久してた部隊は、救援部隊、連合艦隊が水平線を埋め尽くす様子を見て感激し万歳をして迎えた。

 11月上旬までの間に全てを終え、フィリピンの戦いは日本の勝利で終わった。

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