講和を急かす佐久田
「大本営陸海軍部発表! 10月26日! レイテ島へ上陸した米上陸船団に対して連合艦隊が決死的突入を敢行! 戦艦を含む上陸船団を撃破せり! 敵マッカーサー将軍は戦死! 残った兵士は全て降伏! 我が方の損害、極めて軽微!」
アナウンサーの名調子がラジオから流れてきた。
マリアナ沖海戦の敗北後、サイパンが陥落。
沖縄、台湾が空襲を受け、北九州も空爆を受けた。
無敵のハズだった日本軍が徐々に後退していく様を見て国民は不安を抱いていた。
そこへフィリピンを守り切ったという大戦果。
国民は狂喜し、提灯行列を作り、戦果を祝った。
「遊んでいる暇はありませんよ」
横須賀に戻った信濃から報告の為、日吉の連合艦隊司令部へ入った佐久田は、ラジオを聞きながら、つまらなそうに、いや明らかに不機嫌そうに言う。
滅多に感情を表さない佐久田に周りは驚いたが、それだけ事態は重大という事だ。
「早急に、講和を行わなければ」
「それは政府のやることだ」
勝利の報告に水を差された豊田大将は不機嫌そうに言う。
「連合艦隊がこれ以上戦えると?」
佐久田に尋ねられて豊田は黙り込んだ。
戦えない事は佐久田の報告で理解していた。
ウルシー泊地攻撃とその後の空母群との海戦で日本機動部隊は大戦果を上げた。
引き換えに、艦載機を大量におよそ半数を失っている。
着艦後廃棄した機体も多いため一概には言えないが搭乗員の戦死も多い。
事実上、機動部隊は壊滅している。
予備の航空隊も錬成途中でまた一から訓練のし直しだ。
まともに飛べる、作戦行動可能になるのに四ヶ月はかかるだろう。
水上艦部隊も酷い。
戦艦三隻を撃沈されたのも痛いが、戦艦や巡洋艦も大なり小なり損傷を受けている。
その修理のためにドックを使う、増産している商船や量産艦の製造を中断して行う必要がある。
北山の辣腕により大東亜共栄圏を曲がりなりにも実現させてしまったたため、アジアの物流を日本が担う必要が出てきており商船の需要がうなぎ登りの中で行う必要があるのだ。
とても、修理が進むような状況ではない。
また燃料も多く使った。
連合艦隊の全力出撃であり、平時の半年から一年分は使っただろう。
タンカーが足りない状況であり、内地の燃料タンクは底を突く。
残存艦をリングへ送ってパレンバンの油田から直接補給させたりタンカー代わりに使う手もあるが兎に角油が足りない。
日本は戦争継続能力が無いのだ。
北山のおかげで開戦前からは考えられないほど国力が、一部強権を使ったとはいえ、国力が倍加したと言っても過言ではない。
だが、代償として相応の負担、必要な資源の量が、輸送船の必要量が増えてしまった。
戦標船増産と捕獲した商船の流用、磁気探知機などの新兵器による米潜水艦の撃破で損害を抑えることで、何とか必要量を賄ってきたが、これ以上は無理だ。
どだい、アメリカと戦うなど無謀なのだ。
「早く終わらせないと日本全土は焦土となりますよ」
先日、北九州がB29により空襲され被害が出た。
中国から航続距離の関係もあり九州に限定される上、補給、B29が飛行するのに必要な大量のガソリンを運び込む必要があり、活動は低調だ。
ヒマラヤを輸送機で飛び越えて運び込むという、非効率極まりない輸送方法を行っている。
だが、マリアナが陥落した今は違う。
マリアナを基地にすれば日本全土がB29の爆撃範囲に入る。
既に建設を始めている事は硫黄島からの偵察情報で把握している。
マリアナに向かう米船団を潜水艦で狙っているが、護衛が多くて手出しできない。
機動部隊を訓練がてら出撃させようと考えているが、動かすための燃料も少ない。
「海軍からも継戦は難しく、早急に講和を結ぶべきだと伝えるべきです」
「それは分かっている」
「何故しないのです。一撃講和ではなかったのですか? 一撃を与えれば講和するだろうと」
「その通りだ。だが何故か米国が交渉の席に着かないのだ」
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