四六サンチ砲の威力

「四番ボイラー室に命中弾! 浸水発生! 速力落ちます!」

「水中弾とはついていない」


 オルデンドルフは舌打ちした。

 水中弾は、演習や実験で希に起こることは各国海軍では知られており、オルデンドルフも聞いている。

 だがまさか自分が実戦で喰らうとは思わなかった。

 日本海軍が水中弾効果が起こりやすい九一式徹甲弾を開発したことは、まだ米海軍は知らなかった。


「敵艦発砲! 砲撃来ます!」


 大和と武蔵が斉射を行ったのはその時だった。

 一八発の徹甲弾がウェストバージニアに襲いかかる。

 重量が一四六〇キロある徹甲弾の内、三発が命中、更に二発が水中弾として命中した。

 一発目は艦首を貫通しただけで大した被害は与えなかった。

 だが、二発目は真珠湾攻撃で破壊され新調されたマストに命中。周辺の機器を破壊し、通信機能を破壊した。

 三発目は、八九ミリの装甲板を破り機関室を破壊した。

 コロラド級は元々一四インチ砲艦として設計され、防御も一四インチ砲対応だったが、日本が長門型を建造したため急遽一六インチ砲戦艦として設計変更された。

 主砲は一四インチ砲三連装を一六インチ砲連装に切り替える事で解決したが、防御は船体設計からやり直す必要があるため、そのままにされた。

 だが重防御のため一六インチ砲にもある程度防御出来るとされていたが、命中したのは一八インチ――四六サンチ砲だ。

 装甲板を易々と貫通しボイラー室を破壊する。

 二発の水中弾は、五層に仕切られた防御層を貫き、一発は二番砲塔弾薬庫、そして一発は電動モーター室に浸水を発生させた。

 二番砲塔は誘爆しなかったが浸水により砲塔は発砲不能。

 電動モーター室は、浸水によりモーターがショート。ブレーカーが作動するまでの数秒で機関員を電気ショックで絶命させた。


「被害甚大です!」


 ウェストバージニアの艦長が報告する。

 最早戦闘不能と言って良かった。


「離脱する。後続に指揮を」

「司令官! マストが破壊され通信設備が失われました。僚艦への通信不能!」


 指揮不能になった状況で、大和、武蔵の斉射が降り注いだ。

 一八発の内、水中弾を含め半数が命中。

 その中で最も大きな被害を与えたのは、第三砲塔へ直撃した大和の砲弾だった。

 ポストユトランド海戦で建造されたコロラド級といえど、水平防御は不十分な上想定外の一八インチ。四六サンチ砲弾を受けては装甲板を貫かれ、砲塔基部三二〇ミリの装甲板で覆われた部分を貫通し、弾薬庫内で爆発した。

 瞬時に残弾に引火し誘爆を起こし船体を吹き飛ばした。

 パールハーバーで一度沈み、浮かび上がって復讐を果たした戦艦は今度こそ永遠の水底へ沈んだ。


「敵戦艦撃沈!」

「敵二番艦に目標を変更!」


 すぐさま大和と武蔵は後続する二番艦メリーランドへ狙いを変える。

 主砲射程内に入ったメリーランドは射撃を開始し武蔵を狙っていた。

 そのうちの一発が第三砲塔に命中したが、一六インチ砲弾では天蓋を破ることは出来ず、弾かれて海へ落ちていった。

 大和、武蔵は怯むことなく統制射撃による試射を行い、メリーランドを夾叉すると斉射に切り替える。

 第一斉射で命中した一発が艦橋を吹き飛ばし、指揮系統をズタズタに切り裂き、水中弾が機関室を浸水させる。

 混乱する艦内に第二斉射が着弾し、副砲弾薬庫に命中し爆発。大火災を発生させる。

 ダメコン班が出動し消火作業を行おうにも火の勢いが強すぎた。

 艦橋も破壊され艦長以下の首脳部が全滅したため初動が遅れたこともあり手が付けられなかった。

 だが、彼らが動けたとしても無駄だった。

 続く第三斉射がメリーランドを襲い、水中弾が多数命中。

 左舷の各所で浸水が発生し、メリーランドを急速に左へ傾斜させ、転覆させた。

 そこへ第四斉射が来襲。

 海面に露出した艦底に命中し、弾薬庫と機関室へ砲弾が貫通し炸裂。

 トドメとなり、弾薬庫内でかろうじて固定されていた砲弾がなだれの如く崩れ、一発が誘爆。

 一瞬で消滅してしまった。


「二隻目撃沈!」

「おおっ」


 大和の艦橋内ではどよめきが起こった。

 四〇サンチ砲では九発で敵戦艦を大破出来るとされていた。

 だが、四六サンチ砲は五発ほどで敵戦艦を撃沈出来た。

 武蔵との統制射撃があったとはいえ、仮想敵であったアメリカ戦艦を、特に脅威とされていたコロラド級を二隻、短時間で撃沈出来たことは驚きであった。


「やったぞ!」


 そして喜びでもあった。

 海軍へ入って以来、アメリカ海軍を仮想敵として訓練を積み、戦備を整えてきた彼らの長年の努力が報われた。

 それも最高の成果であった。

 だが、宇垣は冷静であり、落ち着いたことで尋ねた。


「長門はどうだ?」

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