レイテ沖海戦 前哨戦
「やはり、向こうが速力は上か」
旗艦ウェストバージニアから日本艦隊の行動を見ていたオルデンドルフ少将は、舌打ち混じりに言った。
ウェストバージニアを始め旧式戦艦は、フィリピンに来るため――二〇世紀初頭に策定されたオレンジプラン、アメリカと日本が開戦した場合の作戦計画で、日本はフィリピンに来襲、占領すると想定していた。
アメリカ海軍はフィリピンを攻める日本艦隊を撃破するため、本土から出撃し太平洋を横断しフィリピンに到達することを求められた。
当時アメリカ海軍は燃費を良くするために必要な低速タービンの開発が遅れていたこともあり、ターボエレクトリック、蒸気タービンで発電機を回し、スクリューを回す方式を採用したのも燃費を抑え、航続距離を稼ぐためだ。
更に、アメリカの建艦方針として防御力を重視したため、最高速力は遅く、二一ノットしか出せない。
長門が二五ノットを出せるのは関東大震災で確認済みであり、優位な位置をとられるのは織り込み済みだった。
「水雷戦隊に通達。雷撃戦を行い敵艦隊の頭を抑えよ」
「ラジャー」
オルデンドルフの作戦は、鼻先を押さえようとする日本艦隊の先端に駆逐艦を送り込み雷撃。
魚雷を回避する為に回頭したところを戦艦隊で砲撃する作戦だ。
此方が撃った魚雷で日本艦隊の動きを誘導しようというのである。
直ちに駆逐艦が突入していくが、日本の水雷戦隊も突入してくる。
だが、一万メートルを割り込む前に日本の水雷戦隊は反転していった。
「どうした。臆したのか」
オルデンドルフは日本艦隊の動きをぶかしがった。
後ろから猛一段が来ているのでそいつらと合流して攻撃する野かと判断した。
「駆逐艦には日本の戦艦を雷撃するように命令を」
その時、駆逐艦の一隻に水柱が上がった。
「どうした! 事故か!」
砲撃はまだ始まっていないはずだ。
事故としたら付いていない。
しかし、立て続けに二隻が雷撃されたのを見ると、事故ではないことは、オルデンドルフ少将も理解した。
「潜水艦の魚雷か、アスディックはどうだ!」
アスディック――ソナーを使って周囲を探知させようとするがいるわけがなかった。
撃ったのは、第一水雷戦隊だ。
彼らは自慢の酸素魚雷の長射程改良型一式酸素魚雷を放ち、不用意に接近してきた駆逐艦を料理したのだ。
しかもプログラムにより発射して一万メートル走ると円運動するように仕組まれているため、米駆逐艦の前に魚雷が鮫のように回る海域が出来た。
不用意に入ろうとすれば酸素魚雷を受け、撃沈される。
長射程にするため、炸薬量は減らされているが駆逐艦を吹き飛ばせるだけの威力は残されていた。
雷撃のために突入していた米駆逐艦部隊は、次々と餌食になっていく。
地獄は二〇分ほど続き、駆逐艦の半数が沈んだあと、各所で水柱が立ち上がった。
「全艦突撃!」
水柱、一式酸素魚雷が自爆したのを確認した第一水雷戦隊は、突入を開始した。
数で勝る上に一式酸素魚雷によって陣形を乱された米駆逐艦は、水雷戦隊の突撃をまともに受け大打撃を被る。
各所で勇敢な駆逐艦が味方を守るべく砲撃を行うが、駆逐隊ごとに陣形を作り突入、砲撃を行う第一水雷戦隊の前に沈んでいくしかなかった。
「なんてことだ」
駆逐艦が撃破されていく光景をオルデンドルフ少将は驚愕しながらウェストバージニアから見ているしかなかった。
本来ならやってくる日本艦隊、特に戦艦を自分の戦艦の真横に誘導しT字に持ち込みたかった。
だが、魚雷を発射する味方駆逐艦が撃破されては、作戦は実行不能だ。
「左舷前方の敵戦艦まで三万を切りました! 本艦正面を横断しつつあり!」
「面舵! 同航戦だ!」
新型戦艦と長門の三隻しかいない戦艦をみてオルデンドルフ少将は、この三隻から仕留めることにした。
七隻の圧倒的な火力で始末し、いずれやってくる金剛シスターズ、金剛級四隻を迎撃すれば良いと考えた。
だが、その考えは叩きのめされることになる。
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