第一遊撃部隊 レイテ沖到達

「間もなくレイテ湾です」


 サマール沖での戦闘を終え、進撃を再開した第一遊撃部隊は、レイテを目指していた。

 損傷艦は出ていたが、いずれも戦闘可能であり、問題はなかった。

 砲撃戦に終始しいち早く進撃を再開した第一部隊が前に、タッフィー3を追撃していた第二部隊は再集結に手間取り、後方にいた。

 本来なら高速の第二部隊が、敵艦隊に斬り込み、混乱したところを第一部隊が砲撃で仕留めるのが本来の作戦、戦策だ。

 だが時間が無いと判断した南雲は、このままの陣形で突入することを決断。

 第一部隊の後に第二部隊が続く形で突き進んでいた。


「レイテ湾より多数の船影あり、煙も出ています」


 見張が報告してくる。

 敵の大船団がいるのだから当然だろう。

 だが煙の多さに、圧倒される。


「艦影多数発進。駆逐艦、巡洋艦出てきます」


 船団には護衛艦艇がいるので阻止しようと出てくるのは、予想していた。

 だが、次の報告は司令部を驚かせた。


「後方に新たな艦艇群、大型艦あり……戦艦です! 戦艦が出てきました!」

「戦艦だと!」


 見張りの報告に艦橋の一同は驚く。


「本当に戦艦なのか!」

「間違いありません! 前部に連装の主砲二基。三番艦には籠形マストがあります。戦艦です!」


 戦前の米海軍はマストの軽量化と強靱化のために特徴的な籠形マストを装備させていた。思ったほど強度がない上、修理に手間がかかるので廃れた。

 パールハーバーで損傷を受けた戦艦は、修理と同時に塔型のマストに変更されたが、損傷を受けなかったコロラドは改修する時間がなく、そのまま残されており、容易に識別できた。

 見張の他、艦隊首脳部も戦艦を認めると驚き、血を滾らせた。


「空母に続いて戦艦……信じられん」


 日露戦争より四〇年近く。

 世界史上に残る戦勝、日本海海戦の栄光。

 その栄光を糧に、日本海軍は歴史を刻み拡大していった。

 将兵達は艦隊決戦に備え腕を磨き、艦艇と装備を調えていった。

 だが、艦隊決戦は日本海海戦以後起きず、太平洋戦争が始まってからも、航空戦が殆どで、時に海戦が起きても夜戦が多く、主力艦同士の昼間砲撃戦は起きなかった。

 開戦しても戦えず、彼らは艦隊決戦を夢見ながらも戦うときに備えて訓練を続けた。

 その時が、遂に起きようとしている。

 興奮しない方がおかしい。


「長官。戦艦です。艦隊決戦です。敵は戦艦を出してきました。決戦です。天佑だ。天佑だ!」


 黄金仮面と呼ばれ、いつもは寡黙な宇垣中将が饒舌に言う。

 南雲も戦艦を視認し、命じた。


「第一遊撃部隊全艦砲撃戦用意! 第一水雷戦隊及び巡洋艦は直ちに突撃! 敵巡洋艦と駆逐艦を排除! 第一戦隊は左へ転舵! 敵の頭を抑え砲撃せよ。宇垣中将! 第一戦隊の指揮を! 私は第一遊撃部隊全体と巡洋艦駆逐艦を指揮する」

「はっ」


 大和以下第一戦隊は砲撃が専門の宇垣に任せ戦艦を叩かせる。

 水雷出身の南雲は、敵水雷戦隊を水雷戦隊に抑えさせ、第一戦隊が、砲術を専門とする宇垣が仕事をしやすいようにすることに専念した。


「第二部隊に通達! 敵戦艦発見! 決戦を行う。戦策に従い、適切なる自由行動をとれと命令!」

「宜候!」


 南雲の命令で艦内は俄然活気づいた。


「敵戦艦発見! 砲撃戦用意!」

「何! 敵戦艦だと」

「ようやく主砲を敵戦艦に叩き付けられる」


 大和の艦内はざわめきに包まれた。

 新造されたばかりで最新の設備を有する大和と武蔵は大和ホテル、武蔵旅館と呼ばれ芸専のソロモンで戦う駆逐艦や第三戦隊からさげすまれていた。

 その汚名を晴らし、真価を見せつける時が、ハレの舞台が来たのだ。

 マリアナで夜戦をおこなっていたが、あくまで夜戦。

 混乱の中、戦果を上げたかどうか不明瞭だ。

 だが今回は昼戦。

 大和の威力をハッキリと見せつけられる、いや己の目に刻み込むことが出来る。

 これほど嬉しい事はなく、何時にも増して気合いが入っていた。


「機関最大戦速、艦隊速力二五ノットへ」

「宜候!」

「武蔵、長門! 応答信号確認! 本艦に続行します」

「第一水雷戦隊突撃を開始! 統制水雷戦へ入ります!」


 戦端は開かれようとしていた。

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