信濃被弾

「敵機直上! 急降下!」


 見張り員が叫んだときには爆弾は落とされていた。

 ヘルダイバーが放った爆弾は、信濃の飛行甲板、発艦待機中の艦載機が密集する中へ落ちた。

 燃料満タンで待機していたロケット弾装備の零戦改を貫通し、飛行甲板に接触すると同時に爆発。

 周辺の零戦改を含めて吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた機体はバラバラとなり燃料をぶちまけ火災を広げる。

 ロケット弾も誘爆し、ロケット燃料に引火、誤射され、周囲の機体へロケット弾が放たれ前方の制空任務――満タンの増槽を装備した零戦改、後方で魚雷を積んだ天山を破壊していった。

 破壊された機体は次々と誘爆を起こし、飛行甲板に大火災を起こした。


「消火装置作動急げ!」


 副長の命令で泡沫消火装置が作動し、飛行甲板各所から石けん水を混ぜた水が空気と混ぜられ泡となって放たれる。

 泡が火を包んで酸素の供給を絶ち火災を消していく。

 ミッドウェー海戦で空母が大炎上し鎮火出来ず、失われた戦訓に鑑み日本海軍が開発した装置だった。

 装置の威力は凄まじく、発生した大火災をすぐさま鎮火した。


「被害報告!」


 副長の声が響く。


「甲板上の艦載機はほぼ全滅! ですが装甲は破られておらず、下の格納庫は無事です!」


 五〇番――五〇〇キロ爆弾にも耐えられる装甲板を飛行甲板に信濃は貼っている。

 当初は甲板に装甲という重たいモノを貼ることをいやがった艦政本部だったが無理矢理押し通し、実現させた甲斐があった。

 米軍の急降下爆撃機が使用する爆弾は一〇〇〇ポンド爆弾――五〇〇キロ爆弾クラスが多く、これに耐えられるなら、飛行甲板の下は無事だ。


「通信設備は大丈夫か!」


 佐久田は尋ねた。

 指揮系統から逸脱するが、司令部の参謀として艦隊へ指示を出したり軍令部殻の情報を得られるかどうかが気がかりだった。


「通信に異常なし。送受信可能です」

「そうか」


 佐久田は報告にホッとした。

 戦いは情報が命だ。

 特に水平線の向こう側の敵と戦う空母戦では、通信の優劣が勝敗を分けると言っても過言ではない。

 下手をすれば旗艦変更の決断も必要だった。

 だが、大和型の船体を使った信濃の防御力は良く、通信設備も強固だった。

 アンテナも、被弾箇所から離れていたため、無事なようだ。


「敵機は?」

「上空へ発進した戦闘機が仕留めました。ですが、敵信傍受班が、発信を確認しております」

「護衛空母の艦載機か」

「いや、その可能性は少ないでしょう」


 山口の呟きを佐久田は否定した。

 ヘルダイバーは、無理に作り上げられた機体で、米海軍の無茶な要求――エレベーターに同時に格納状態で二機乗せるよう求められた。

 要求はまともだが、エレベーターの大きさが小さすぎて機体を小さくする必要があった。

 そのため、機体は小さくしたため、安定性を欠いている。

 急降下も困難な上に、発着艦能力も疑問があり、小型の護衛空母で活用するには不安な機体だ。


「近くに敵の空母群が、正規空母が居るはずです。」


 ヘルダイバーが運用されているのは、飛行甲板が広い正規空母のみであるはずだ。

 何処かに敵空母、それも正規空母がいるはずだ。

 戦闘海域に近いことから、一隻ではなく複数の空母で艦隊を組んだ空母群がいるはず。

 伝令が慌てて駆け込んで来た。


「索敵一九番機から緊急電! 敵空母見ゆ!」


 二段目の索敵機からの報告だ。およそ四〇〇キロぐらい、双方の航空攻撃圏内にいる。


「長官、直ちに攻撃隊を発艦させてください」

「役務群攻撃に向かった攻撃隊を向かわせなくて良いのか?」

「既に出撃した攻撃隊もあります。

 今から変更した場合迷子になる可能性が。幸い攻撃隊が待機している空母はまだ多くいます。彼らを向かわせましょう」


 第四部隊、第五部隊は全力、第三部隊は一隻だけ攻撃隊を発艦させたが、被弾した信濃を除けば、まだ七隻もいる。

 彼らだけで二〇〇機の艦載機が待機している。

 敵の空母群は正規空母と軽空母合わせて四隻、艦載機の数は総数でも四〇〇は越えないはず。

 今から発進する攻撃隊だけでも十分に戦果を挙げられる。


「良しその案でいこう」

 

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