役務群攻撃
「七番索敵機より報告、船団発見、空母二、駆逐艦六、タンカー二」
「二一番索敵機より報告、船団発見、空母二、駆逐艦六、タンカー二」
「三二番索敵機より報告、船団発見、駆逐艦六、タンカー四」
「二〇番索敵機より報告、駆逐艦三、タンカー一」
夜明けと共に旗艦信濃の艦橋には索敵機の報告が次々と報告が入ってきた。
「入れ食い状態だな」
報告を聞いた山口は、顔をほころばせた。
昨日のウルシー奇襲攻撃に成功し最後の艦載機を収容した後、機動部隊は全速力で北上を開始し、米軍からの離脱を図った。
だが、ウルシーに近づいていたため、夜間に移動できた距離は六〇〇キロほど。現在位置はウルシーの北西八〇〇キロだ。
「打ち漏らした船団がいるかもしれませんし、後方へ下がった敵機動部隊がいる可能性があります。索敵機を出しましょう」
離脱中、佐久田は山口に提言した。
日中、波状攻撃で何度も出撃した搭乗員もいるのに更に翌日索敵と攻撃に出すのは、躊躇した。
特に整備員は昨日の夜から整備で超過勤務気味であり、整備不十分による事故機さえ出かねない。
「準備させろ」
しかし、かつて「人殺し多聞丸」と呼ばれた山口である。
翌日の索敵と攻撃は必要と認め、佐久田の提案を了承した。
早速佐久田は、全方位を一二分割し、それぞれ三機ずつ、夜明け二時間前、一時間前、夜明け直前の三回に分けて発進させることにした。
彩雲の巡航速力はおよそ三五〇キロ。二時間後には七〇〇キロ先まで行ける。
夜明け前に発進させる事で、敵を見つけることが出来る夜明けから一時間で一〇〇〇キロ先までほぼ漏れなく全周囲索敵が出来る。
途中、雲やスコールなどで索敵不能の場合もあるので完璧とはいえないが、敵をほぼ確実に見つける事が出来る。
「長官、攻撃隊の振り分けは、第五から若い順としますか?」
「予定通りに」
「了解」
既に夜明けと共に攻撃隊の準備を終えるよう命じてあった。
攻撃隊の順番も決めてある。
米軍の役務群の編成はおよそ理解してる。
護衛空母二隻ならば最大でも六〇機。
一部隊が送り出せる攻撃隊は一〇八機。
一部隊を充てるだけで十分だ。
「発見順に、イ、ロ、ハ、二と名付ける。イには第三部隊、ロには第四部隊、ハと二は第五部隊の二隻から発進させろ」
佐久田は作戦計画に従って命令を出した。
こうした調整は参謀の役目だ。
敵の戦力に応じて対応する部隊を送り出すのだ。
指令が飛ぶと、徐々に空に味方機の数が増えていた。
昨日の攻撃で損害を受けており、稼働機は七割と言ったところだが、飛行甲板に発艦出来る目一杯の航空機、戦闘機一二機、ロケット装備戦闘機一二機、攻撃機一二機を並べる位は出来る。
空には空中集合する編隊が現れ、規模を大きくしていく。
「うん? どうしたんだあの機は」
その中に一機異常な動きをする機体があった。
どの編隊にも行かず、単独で行動している。
「疲労で寝ぼけているのか」
昨日、何度も出撃したパイロットが攻撃隊に加わり眠気でフラフラしていることは十分にあり得た。
だが、すぐに否定する。
その機体はまっすぐ旗艦であり、佐久田達の乗る信濃に向かって一直線に降下してきた。
近づいてきた機体のシルエットを認識した佐久田は、その機体の名前を叫んだ。
「ヘルダイバー!」
米海軍の艦載機運用――索敵機の運用は少し独特だった。
空母の能力は航空機運用能力、いかに航空機を多く飛ばすかに掛かっており、発着艦を行う飛行甲板を使用不能にすることが重要と考えた。
そこで先手必勝、索敵機が敵機動部隊を発見すると同時に、敵空母を攻撃させ、飛行甲板に爆弾を落として使用不能にすれば、敵は攻撃能力を失うと考えた。
その考えに沿って作られたのがドーントレスだった。
米空母には偵察爆撃飛行隊が編成され、雷撃機より航続距離が長いこともあって索敵を行うのは爆撃機だった。
この戦法により珊瑚海海戦で祥鳳が、南太平洋海戦で龍鳳が被弾し早々に戦闘不能となった。
後継機種であるヘルダイバーも同じであり索敵させ、敵空母発見と同時に攻撃を仕掛ける事を狙っていた。
特に、劣勢のマケインは、先制攻撃に期待していた。
日本機動部隊を発見したヘルダイバーはその期待に応え、見事爆弾を信濃へ向けて投下した。
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