ジョンストン奮戦す
ジョンストンの行動は報われ護衛空母は煙幕に隠れた。
レーダー射撃装置がなく光学照準に頼る日本戦艦は視界を遮られ、護衛空母を狙うことが出来なくなってしまった。
だが、敵空母が見えなくなった大和や武蔵は、煙幕を展張するジョンストンに狙いを定めた。
たちまちの内にジョンストンの周りに水柱が立ち上がる。
「我々を狙っています。それも戦艦です」
「連中には我々が戦艦に見えるようだな」
エヴァンスの言葉は誇張されていたが間違いではなかった。
大和ではジョンストンの大きさを見誤り重巡洋艦と誤認。
砲撃を集中させていた。
四六サンチ砲弾が降り注ぐ中、ジョンストンは回避行動を続けた。
大口径主砲が生み出す柱は巨大で、ジョンストンはまるでトラックにはねられた子犬のように揺れた。
「水柱の元へ向かって走れ!」
「アイアイサー」
その中でもエヴァンスは水柱に近づくように命じた。
「そこに現れたぞ! 早くしろ!」
「ソーリーサー」
操舵手は命令通りジョンストンを水柱へ向けた。
勿論エヴァンスは狂ってはいないし冷静だった。そして水柱へ向かう命令も正しかった。
一度砲弾が落ちた場所には二度と砲弾が落ちないのだ。
幾ら正確に狙ったとしても、例え陸上の固定された砲台から同じ角度、方角へ砲身を向けても、決して同じ場所には着弾しない。
法が壊れているのではなく、砲身の微妙な変化――砲身内部の摩耗、加熱による膨張、装薬温度の変化による燃焼速度の増大と初速の増大、砲弾製造時に出来る微妙な差異による空気抵抗の変化、大気密度の違い、風速の変化など、様々な要因により弾道はズレてしまい同じ弾道を描くことはまずない。
二十キロ以上の遠距離射撃ではズレが、特に発砲した後、修正が一切不可能な砲撃では飛んでいる間に砲弾の弾道を狂わせる要素が増えるため尚更だ。
こうしてジョンストンは砲撃を回避し、第一部隊を魚雷の射程に収めるまで接近する事に成功した。
「連中の動きを牽制する! 雷撃用意! 全線斉射!」
「ラジャー。雷撃開始!」
エヴァンスの命令で水雷長は魚雷を発射した。
最大射程のため、低速にセットし少しでも遠くへ届くようにする。
当たるかどうかは未知数だが、雷跡を見て回避行動を強要するだけでも時間は稼げる。
「空母が逃げ切れるまで、回避行動を続けるぞ!」
だが、いくら回避行動が優れていても、多数の戦艦に狙われていては、当たる弾も出てくる。
運悪く、一発の九一式徹甲弾がジョンストンのマストを捉えた。
本来なら作動しないが砲弾に装着された不良信管の誤作動によりマストに触れた瞬間、爆発を起こした。
爆風が艦橋を襲い、窓ガラスを破って内部に侵入、致死性の激しい嵐を巻き起こした。
「か、艦長」
砲術士官のハーゲイ大尉は無事だった。
しかし、エヴァンスは爆風に推されて壁に叩き付けられた上に機材が落ちてきて頭部を負傷した。
「くそがっ」
エヴァンスは傷から流れ落ちる血の筋を拭おうとした。
だが、左手の指は先ほどの爆発で二本欠落しており新たに顔に血の筋を付けただけだった。
「くそう……ジャップめっ!」
悪態を吐いたエヴァンスだったが、顔を拭おうとして血を付けてしまった姿は、先祖の戦士が行った戦化粧文様を思わせ、些かも闘志を失わない姿は、まるで英雄だった。
「艦長! 敵艦が東方より回り込んできています!」
「戦艦の射線に入らないようにして空母に近づく気だ」
二水戦の突撃をみて意図をエヴァンスは見抜き命じた。
「回頭! 連中を牽制する!」
二水戦の攻撃を邪魔するべくエヴァンスはジョンストンを回頭させ最短距離、間にある煙幕を通って突撃させようとする。
「しかし艦長」
「分かっている」
ハーゲイ大尉の言いたいことをエヴァンスは理解していた。
「ボロボロだが、俺たちは空母を守る為にやんなきゃならないんだ」
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