レイテ上陸

1944年10月20日


 この日の早朝、マッカーサー指揮下にある米軍第六軍所属の四個師団十万の兵力が戦闘艦艇157隻、輸送船420隻、特務艦船157隻の艦艇の支援を受けレイテ島に上陸した。

 上陸予定地点の海岸へは前日から艦砲射撃が行われ、予め設置されていた防御陣地を破壊していった。

 上陸直前には、特に激しい艦砲射撃と第七艦隊と第三艦隊による空襲が行われ、守備陣地へ猛打撃が加えられた。

 上陸地点周辺が破壊されると、第六軍は上陸を開始。

 十万の兵力がレイテの海岸に足を踏み入れた。

 レイテ島の日本側守備兵力は第十六師団のみ。

 彼らは浜辺に上陸した第六軍に対して迎撃に出たが、一時間交戦した後、内陸部へ後退した。

 ただ、これは第一六師団の作戦通りの行動でもあった。

 マリアナでの水際防御戦術が米軍の圧倒的な火力により撃滅された戦訓に基づき、敵の火力が最大となる海岸部での交戦を極力避けることが新たな方針となった。

 この方針に従い第十六師団は艦砲射撃の射程外である内陸部に陣地を構築。

 ここで上陸した第六軍に抵抗し持久戦へ持ち込むことを狙った為でもあった。

 事実、戦艦を含む艦砲射撃は圧倒的であり、海辺での戦闘は自殺と同義だ。

 第一六師団は予定通り艦砲射撃の及ばない地域へ撤退していき、損害を最小限に抑えた。

 一方、日本軍防衛部隊の撤退により米軍は、大した妨害もなく続々と上陸。

 上陸した海岸に橋頭堡を確保し大量の物資を揚陸し態勢を整えると、レイテ島を制圧するべく内陸部へ進撃していった。


「フィリピン国民諸君。私は帰ってきたぞ」


 軽巡ナッシュビルからマッカーサーは演説した。

 最初の一声の後、感極まって演説を始めるのに一呼吸が必要だった程、マッカーサーはこの瞬間を、四二年のフィリピン脱出以来抱いていた。

 演説が終わった後、すぐさま上陸用舟艇に乗り込み、第三波上陸部隊と共に浜辺に向かったくらいだ。

 流行る気持ちを抑えられないマッカーサーは、舟艇が浜辺にたどり着くのも待ちきれず、遠浅の浜辺に飛び込み、海水に足を濡らしながら上陸した。


「日本軍を一掃するぞ」


 浜辺にたどり着いたマッカーサーは宣言し、陸上から指揮を執ることにした。

 その時司令部として選ばれた建物に挿話がある。

 アメリカ人実業家の元邸宅が上陸地点近くにあり、米軍上陸前は日本軍が司令官用のクラブとして使用していた。

 万が一の時、指揮が出来るようにと日本軍は通信設備や発電機を備えた掩体壕を建設した。

 米軍の上陸により内陸部に撤退したが、施設は残っており、米軍の前線指揮所としても申し分の無い場所だった。

 だが、マッカーサーは直ちに壕を埋めるよう命じた。

 四二年の戦いで、指揮所に籠もったままのマッカーサーに将兵が「Dugout Doug(壕に籠ったまま出てこないダグラス)」と馬鹿にしていたのを気にして、また言われないよう「埋めてしまえ」と命じ実行してしまった。

 そして二年前の雪辱を果たすように、狙撃兵に狙われることも構わず前線を歩き周り、攻撃を指示し、指揮下の兵力をレイテ制圧のために前進させていった。

 だが後退した第一六師団は、艦砲射撃が及ばない内陸部に着くと建設されていた陣地を頼りに粘り強い抵抗を始めた。

 初めての抵抗に米軍は戸惑った。艦砲射撃の支援がなくなった事もあり陣地への攻撃は空爆と自らの砲兵のみとなり、攻撃を加えた。

 だが、巧妙に稜線の裏側に作られた日本軍陣地は砲撃を受けにくく、周囲の密林も邪魔して、効果は無く、膠着状態に陥った。

 同時に第十六師団は予め用意していた通信施設を使い、全軍に米軍のレイテ上陸を至急電で伝えた。

 至急電はすぐさま日本の大本営へ通報されレイテへの上陸を日本軍上層部は確認。

 米軍のフィリピンへの大規模反攻と断定され、発動条件が揃った捷一号作戦が各部隊に発令された。

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