第一機動艦隊

「敵の戦力は分かるか?」

「はいスプールアンス率いる第五艦隊です。空母九隻、軽空母三隻、戦艦六、旧式戦艦六、護衛空母一一隻、巡洋艦二四隻、駆逐艦一五二、他多数です」

「我が第一機動艦隊とほぼ互角か」


第一機動艦隊編成表

第一部隊

 空母 信濃、大鳳、海鳳

 戦艦 大和、武蔵

 重巡 利根 筑摩 摩耶 鳥海

 防巡 綾瀬 久慈 狩野

 軽巡 阿賀野

 駆逐艦 一六隻(陽炎型、夕雲型、改夕雲型四隻、秋月型、改秋月型四隻、松型八隻)


第二部隊

 空母 加賀、翔鶴、瑞鶴

 戦艦 金剛 榛名

 重巡 愛宕 高雄

 防巡 鶴見

 駆逐艦 一六隻


第三部隊

 空母 飛龍、雲龍、天城

 戦艦 比叡 霧島

 重巡 妙高 羽黒

 防巡 淀

 駆逐艦 一六隻


第四部隊

 空母 洋鶴、鳳鶴、葛城

 重巡 那智 足柄

 防巡 石狩

 駆逐艦 一六隻


第五部隊

 空母 瑞鳳、飛鷹、隼鷹

 戦艦 長門 陸奥 伊勢 日向

 重巡 最上、三隈、鈴谷、熊野

 防巡 高瀬 黒部

 軽巡 矢矧 能代

 駆逐艦 一六隻


補給部隊

 空母 笠置 阿蘇(訓練未了のため艦載機補充用、対潜哨戒用として参加)

 駆逐艦一六隻(松型)

 給油艦 一二隻 


 日本軍が編成した第一機動艦隊は信濃と大鳳、海鳳の三隻の装甲空母を中心とする第一部隊にミッドウェーで生き残った加賀と飛龍、瑞鶴、翔鶴、それに戦時建造で作られた改翔鶴型洋鶴、鳳鶴に改飛龍型雲龍と天城、葛城が加わって第二、第三、第四部隊を編成している。

 他に上空警戒用として第五部隊に瑞鳳と隼鷹、飛鷹が加わっている。

 合わせて一五隻の空母であり空母の数で米軍の第五艦隊を上回っている。

 他に戦艦十隻、巡洋艦、駆逐艦も加わっている。

 日本海軍史上、最大最強の艦隊であると断言できる戦力を第一機動艦隊は持っていた。

 部隊は更に二つの艦隊に分かれており前衛としての第二艦隊に第一部隊と第五部隊、そこから後方へ一〇〇キロ後方に第三艦隊として第二、第三、第四部隊が航行している。

 敵の攻撃があった場合、前衛の第二艦隊が盾となり敵の攻撃隊を防ぐ。

 その間に後方の第三艦隊から攻撃隊を出すという作戦だ。

 そして敵が退却するときには第二艦隊が突入し敵を追撃する。

 劣勢であっても勝つための算段は立てていた。


「しかし、敵は他にも揚陸部隊とその支援艦艇を有しています」


 マリアナ上陸のために米軍は多くの輸送船と護衛艦艇を送り出している。

 特に護衛空母一一隻は恐ろしい敵だ。

 一万トンの船体に最大42機の艦載機を積める。

 搭載機を上陸支援だけでなく、正規空母への送り出し艦載機補充も行える。

 彼らが攻撃に加わるだけでも厄介だ。


「敵の艦載機は一千機を超えると予想されます。後方からの補給もあり、決して容易な戦いではありません」

「そうだな。だが大した戦力です」

「全くです」


 佐久田は同意した。

 日米開戦が決まった後、日本海軍は手早く建艦計画を仕立て直し、戦時増産に入った。

 建造中の各艦の建造を早めると共に、戦時量産艦、製造加工が難しい特殊鋼では無く通常鋼を使い、建造しやすいよう設計を改めた艦への建造へ切り替えた。

 特に、造船台に乗っていた信濃は早々に装甲空母への改造が決定し、マリアナ沖に間に合った。

 空母も量産され、改翔鶴型の洋鶴、鳳鶴が戦時中に加わってくれたのは嬉しい。

 出来れば装甲空母が欲しかったが、数が揃うことが大事だ。

 通常の艦より性能が劣ることに文句を言う者もいたが、米軍の物量を考えれば、これだけの艦が出来上がったのは開戦前に準備できたからだ。

 米軍の増強スピードは更に増しており、この後は差が広がるばかりだ。

 拡張された八幡製鉄所、呉の製鉄所、そして満州の鞍山製鉄所から大量の鉄鋼が生産されているがとてもアメリカの生産量には敵わない。

 これ以上艦艇の建造ペースを上げるのは不可能だ。

 これまで艦艇の損害少なく、修理にドックを使う必要が無かったのでこのペースを維持できているが、最早無理だ。

 損害は多くなっているし、出来た艦艇の定期整備を考えると、これ以上の建造は無理だ。

 装甲空母は現在艤装中の信濃型空母である紀伊、尾張、改大鳳級の二隻でお終い。

 あとは建造が比較的容易な雲龍級で凌ぐしかない。

 仮に無理をして建造しても今度は、艦載機のパイロットが足りない。

 機体の生産は生産専門の北山重工が大量生産を請け負ってくれたが、パイロットの教育に時間が掛かる。

 航空事業振興のために北山が青少年の飛行倶楽部を作ってくれたお陰で、いくらかはマシだが、その人材さえつきようとしている。

 素人を一から教育するのは大変だ。

 学徒動員で大学生をパイロットにしようと養成を進めているが、それでも数が足りない。

 空母機動部隊だけでなく、定数二〇〇〇機を越える第一航空艦隊にもパイロットが必要なのだ。

 あと陸軍も航空戦力を増強しており彼らもパイロットを必要としている。

 だが、既に不足が出ている。

 これが日本の国力の限界であり、実力、いや既に実力を超えた状態だろう。

 しかしアメリカにはまだ余裕がある。

 なんとしてもこの決戦に勝たなければならなかった。


「敵の目標は判っても日時は不明か」


 猛将の山口でさえ、現状を認識して弱気になり、小さな声で尋ねてきている。


「いえ、今日明日辺りかと思われます」

「何故だ?」


 当たり前のように答える佐久田に山口は驚いて尋ねた。


「米軍は作戦行動を起こすとき、攻撃の三~四日前から無線封止を行います。一昨日から、米軍のマリアナ作戦参加部隊の無線が止みました。そろそろ攻撃を仕掛けてくるはずです」


 その日の夜、通信兵が艦橋内に駆け込んできた。


「報告します! 只今緊急電が入りました。硫黄島、マリアナ、パラオに米軍による空襲が行われました」

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