『なまくら冷衛の剣難録』おまけの感想

なまくら冷衛の剣難録

作者 小語 

https://kakuyomu.jp/works/16816927863238741872 


おまけ

もう一つの決着(第五章 第十話改稿)


 からめ取り話法のような展開である。

 美夜は冷衛とは信頼関係にあったが、跡継ぎ騒動による企みに巻き込まれ、二人の関係は不協和音が漂っていた。

 小竜の出現により、二人の関係は破綻する。小竜に固執する余り、美夜は本来の力を失い、殺すことのみに剣を振るい、襲いかかる。だが冷衛の存在にあらためて気づかせたのも小竜だった。

 美夜は、小竜を医者へ運ぶ冷衛を送り出すべく、屋敷内に残っている浪人たちと対峙し、駆逐する。

 美夜は本来の力を取り戻し、冷衛との信頼関係も復活するが、傷を追った彼女は、彼の中で力尽きるのだった。


 以前書いた感想の中の一つの案を参考に、もう一つの結末を生み出されたのかもしれない。

 傷を追った小竜の言葉で、冷衛の存在価値が復活するのがいい。

 一般的に、他人の言葉より本人の言葉のほうが説得力があるのだけれど、同性からの肯定的な意見は耳に入りやすい。自分が欲しい言葉ならばなおさらだ。

 

「意識を取り戻した小竜が立ち上がり、懸命な表情を冷衛に向けていた」とある。立ち上がれる元気があるらしい。

 この後、医者へと急ぐのなら、起き上がるぐらいで良かったかもしれない。

 

 読者を泣かすには主人公を泣かせればいい。ただ涙を流せばいいのではなく、どんな感情になって欲しいのかも、シチュエーションで変えることができる。

 冷衛は理性的なキャラとして書かれてきたので、最後は感情的に、みっともなく号泣させると、変化がよりわかりやすくなる。


 今回は殺人鬼の道具として使われてきた彼女を、好きな男を守るために戦う一人の女として生まれ変えさせたところも、良かった。

 ただ切り捨てるのではなく、剣で生かすことが冷衛にも(小竜がしたのだけれども)できたので、これからの彼の生き方に何かしらプラスに働くと予感させてくれている。


 もう一つの結末のある作品をみると、仮面ライダー剣のTV版と映画版を思い出す。2つの結末があって、どっちも捨てがたかったので映画版と違うエンディングをTV版で描いた、と聞いたことがある。

 本作ではどちらも美夜はなくなるが、なくなり方が違うことで、読後の印象がガラリと変わる。こちらのほうが、希望をもって明るく読み終えられると感じた。

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