紗倉まなセレクト「カラダの芯に触れてくる」恋愛ショートストーリー特集
『もう何度目かの××』の感想
もう何度目かの××
作者 若奈
https://kakuyomu.jp/works/16816927861481504198
男らの望みに応じたために尻軽女と噂されながら相違相愛のセックスを求める唯は、ミチに何度目かの告白未遂をくり返しながら変わらぬ関係を継続させる話。
主人公は大学一年の唯、一人称わたしで書かれた文体。自分語りで実況中継しながら人物描写は最低限、説明に感情を付け加え、ときどきでどう考えているのかが綴られている。
女性神話の中心軌道で書かれているのかしらん。
どんなときでも変わらず友達でいてくれる高校のときからの友人であるミチに思いを寄せる主人公は、同じ一年生の三矢と経験済みだったが、赤点ばかりの留年寸前のコージに「テスト勉強をうちでやるか?」と誘われた彼の部屋で求め合う。
コージが自慢話をしたせいで、ふたりの男とやりまくった女だとウワサされ、男が望んだことなのに応じた主人公が悪者にされ、ネットに誰ともやる女と虚像が作られ、「きょう、やれる時間ある?」
と、見知らぬ学生から誘われる。
主人公は、虚像か実像か自分でもわからないままに「下手だったらそういうウワサが立つことになるけど、大丈夫?」と見下した物言いをすると、「こいつ、やべぇ」とあざ笑いながら男は尻込みして消えていった。
相手を選んでいいと悟った主人公はミチに、「さらされるなんてさ。ひどいよ」と泣き言を言う。ミチは、男は他の女と寝てもなにも言われないけど女の方は軽い女だといわれ、たとえ相思相愛の人と付き合うことになっても誰かがチクるのだと同情する。
高校の時からミチの腕にすがりつくのが好きだった主人公は、すがりたい気持ちに袖をつまむも距離を縮められない。
なにをしたら彼女は離れるのだろうと思いながら、何度目かの告白未遂をくり返し、彼女との変わらぬ関係を継続させる。
前半、受け身がちな主人公は、反転攻勢を経て、後半はドラマを動かしていく流れになっている。
とはいえ、主人公唯は受け身がちな前半でも、積極的に話を勧めている。
「はじめて触るのか?」
コージに聞かれたとき、主人公は「迷った」とある。
自分に選択肢があり、相手の思考を悟り、どう答えるべきかを迷っていたら、相手が勝手に勘違いした。
それを否定することもできたが、その選択肢を選ばなかった。
なぜか?
いつも自分自身でやっているような手順を教えるコージの手が内ももをなぞり、主人公はコージの胸に額を押し付ければ、彼の遠慮の知らない指先が奥へと滑り込んでいく、と淡々と状況を綴り、どうしてこうなったかの経緯を挟んで、彼の焦る行動をみながら、「待ちぼうけを食らったわたしは自分の胸に触れ」ている。
なぜか?
「どうせなら気持ちよくなりたい」と思っているからだ。しかも、「途中から、誰に抱かれているかなんて、どうでもよくなるんだもの。姑息な気遣いなんて、必要なかった」と、かなり達観した性格が伺える。
主人公が求めているのは、「相思相愛のセックスしたいひとを探すから、誰にも文句は言わせない」とあるように、相思相愛のセックスである。
つまり、三矢もコージも、そういう相手ではなかったのだ。相思相愛のセックスを求めて彼らとしたのかしらん。
「ふたりの男とやりまくった女」は事実。
主人公がいいたいのは、「彼らが率先して望んだことなのに。それに応じたわたしのほうがなぜか悪者だ」だろう。
ミチも語るように「コージも三矢もすぐに別の女と寝たとしてもさ、なにも言われないんだよ。でも、唯はずっと言われる。ずっと軽い女だって言われ続ける。それなのに、相思相愛のひとなんて現れると思う? このことを知らない相手が唯と付き合うことになっても、絶対誰かがチクるから」この部分が、言いたいことなのかしらん。
相思相愛の人は現れるかどうかは知らない。
現れるかもしれない。
現れたとしても、主人公と付き合ったら「実は昔、いろんな男と寝てたらしいよ」みたいな話をするやつが現れる。そんな話を聞いたら、相思相愛になりたいと思う人が遠のいていくかもしれない。
いつだって悪いのは女、となるのが納得いかない、と彼女たちは思っているのだ。
どちらが悪いかなんてケースバイケースかもしれないので、言及できないけれども、たしかにそういう風潮は現実として存在している。
見知らぬ男に襲われて警察沙汰になったら、「お前が誘ったから悪いのだ」とわけのわからない理屈で父親に怒られた、と教えてくれた知人の話を思い出す。
主人公とミチの掛け合いが、小気味よいリズムが面白い。
誰かがチクるから相思相愛の人なんて現れないと言われ、
「詰んでる」と唯が言い、
「あの棋士もお手上げ」ミチが続き、
「なら仕方ない」唯はつぶやき、
「あきらめんのかよ!」ミチは派手にずっこける。
「もう笑ってあきらめるしかないでしょ」嘆く唯。
「あきらめるな。わたしがいるじゃない」励ますミチ。
「どういうことよ」尋ねる唯。
「わたし、口堅いし、そういうことあっても、いいふらしたりしないから」
この流れはミチが唯を口説いているように思える。
カラオケ店をあとにした二人はこのあと、唯はミチの袖をつまむも、昔みたいにすがりつけなくて、恋人繋ぎもできなくて、あの女の手を話して並んで歩く。
できたのは、はだけた裾の長いカーディガンを直すだけ。
「これ、似合ってるね」と唯が褒め、
「わたし、たまに唯を壁ドンしたくなるときがある」ミチが唐突に言い出し、
「なんなのそれ」唯は尋ね、
「なんだろう」とぼけるミチ。
カラオケ店から、ミチは唯を口説こうとしているようにおもえてならない。
台詞ではミチが、行動では主人公が、互いに告白しあっているのだ。二人はお互い相思相愛。尻の軽い女と知り知られ、互いに告白未遂をくり返し、変わらぬ関係を継続させているのだろう。
「相思相愛のひとなんて現れると思う? このことを知らない相手が唯と付き合うことになっても、絶対誰かがチクるから」
このミチの台詞から穿った見方をするなら、主人公に男ができたら「唯は尻の軽い女だよ」とミチが言いふらしたではと邪推したくなる。
変な男に取られたくないミチの、唯に対する思いがどれほどのものなのか次第だと思う。
なので、今後の二人に興味が注がれるのだけれども……それは読者の想像に委ねられている。
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