『夫婦も17年経てば』の感想

夫婦も17年経てば

作者 野牛島 南

https://kakuyomu.jp/works/16816927860775911969


 趣味の恋愛小説のために「気持ちいいキス」を旦那に懇願し、五年ぶりにキスしてセックスした話。


 サブタイトルは『結婚して17年も経てば』と、タイトルに似ている。結婚して夫婦となって十七年、という意味だろう。


 主人公は三十七歳の主婦、一人称私で書かれた文体。自分語りで実況中継で書かれている。描写より説明が多く、説明と感情をセットにしているため伝わりやすい。

 

 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 二十歳でデキちゃった結婚をし、子供は最低三人はいて、五年前に未子が生まれて以降セックスレス。互いに好きでも嫌いでもなく空気な関係にある。自分が求める理想の恋愛を脳内で想像しては、恋愛小説を趣味で書いている。

 優しく気持ちいいキスを書こうとするも、経験したことがなくて書けない。そこで旦那に「キスしたい。……気持ちいいやつ」と懇願する。

 五年ぶりにキスするも全然気持ちよくない。翌日、「気持ちいいキスがしたい。優しくて、一時間くらい出来そうなやつがいい。優しぃい、優しぃいヤツ」と望みを言い、再度する。

 はじめて主人公がリードし、長々とキスしたことで五年ぶりにセックスをする。

 事後、普段は見向きもしない旦那が気づかって話しかけて、触れてこようとする。

 日頃は全然興味がないくせに、事後だけ興味を示すのが嫌な主人公は、物語の二人に思いを馳せてあれこれ想像する。

 翌日、互いに無関心の夫婦に戻ってしまう。

 セックスレスで人生が終わるのは嫌だが不倫もできず、小説の「気持ちいいセックス」描写を求めて旦那を使う時が来るかは判らないが、セックスレスが解消するとしたらその時だと思いつつ、趣味の執筆にフラストレーションを吐き出していく。


 主人公は二十歳で子供ができたから、今の旦那と結婚。現在は三十七歳。

 五年前に末子が生まれたとあるので、そのときは三十二歳。

 末小は兄弟の中で一番下の子供のことを指す。なので、次男でも未子といえるけれども、次男で末っ子とは使われない。

 なので、たとえば長男長女次男、みたいな三人目を末っ子と表現するのが一般的ではないかしらん。

 なので、少なくとも子供は三人いると想像する。とすると、たとえば二十歳、二十六歳、三十二歳で産まれたとすると、六歳違いの兄弟になる。いないわけではないだろうけれども、間が空きすぎているので、四人や五人兄弟の可能性も考えられる。

「旦那が消防団の集まりで風俗に行って、帰ってきた時に無理矢理されたのが最後だ。なにをそんなに興奮したのか、ほぼレイプみたいにされて、また子どもが出来た」とあるので、子沢山なのではと邪推する。

 ただ、「ほぼレイプみたいにされて」とは、旦那さんには反省を促したいところである。

 きっと、二十歳の頃から旦那さんの、主人公である妻の接し方はかわっていないと思われる。


 普段互いの存在が「空気。壁。インテリア?」と表現されている。

 説明かつ感情がセットになった表現は、読者に伝わりやすい。

 そのかわり、だんだん形を帯びていくのが面白い。

 空気は目に見えなくてその辺にあり、なかったら生きていけない。壁は部屋の隅っこに追いやられて、いるのかいないのかもわからないけど、外と内を明確にして内部を守ってくれるもの。インテリアとなると、目につく調度品で気に入って手に入れたけれど、飽きたら邪魔で、ピンからキリまである替えがきく代用品。たとえが言い得て妙である。

 

 恋愛小説や漫画を描く人は、昔から他の作品を読んできているからかと思っていたけれども、本作の主人公は、それらに一切触れてきたわけではないらしい。

 自分が体験したかった恋愛を、脳内で想像して楽しんでいたとある。

 こういった恋愛を想像するのは、昔から妄想なり想像なりしていないと、できないことが多い。

 それに恋愛ドラマ、恋愛小説、恋愛漫画を読んでいなくとも、恋愛やミステリーは物語の中では必ずしも主となるものではなく、ちょっとしたエッセンスやおまけみたいに忍ばせて入れてあることのほうが多い。

 なので、ジャンルとして恋愛作品を読んでいなくとも、全く触れずに生きてきたとは考えにくい。考えられるなら、子供の頃から漫画も小説も買ってもらえず、テレビも見せてもらえずゲームも買ってもらえず、友達もいなく、映画館にもいかせてもらえず、図書館や本屋に足を運んだこともない生き方をしてきたのかもしれない。

 友達がいない分、一人で妄想を巡らせてきたのかもしれない。

 まじめに勉強ばかりしてきて大学生のときに出会った相手と強引に迫られて子供ができたから結婚し、今に至るような感じかしらん。


 主人公は行動的である。

 気持ちいいキスを買おうとし、調べ、さっぱりわからないから、するしかない。

「キスしたい。……気持ちいいやつ」

 旦那もまた、主人公と同じく行動的である。

 歯を磨きに行き、お願いされたようにキスをする。

 はじめはうまくいかない。

 翌日、再度挑戦。今度は望みを説明する。

「気持ちいいキスがしたい。優しくて、一時間くらい出来そうなやつがいい。優しぃい、優しぃいヤツ」

 それでも旦那は、変な顔をしつつも、歯を磨いて、ちゃんとしてくれる。

 似た者夫婦である。

 流れで五年ぶりにして、「普段こっちの事なんか見向きもしないのに、気づかって、話しかけて、触れてこようとする」旦那を嫌に思う主人公。

 ここも、キスのときのように普段から触れ合って欲しいとかいえば、きっと旦那はしてくれると思う。これまで、お互いにそういうことを話してこなかったから、お互い無関心みたいな関係になってしまいセックスレスになったのだと推測する。

 この先、主人公が恋愛小説を書きながら、「このシーンがわからん」となって、旦那にあれこれお願いしながら協力していったら、二人の仲も良くなっていくのではないかしらん。

 

 本作において、恋愛小説が、夫婦円満の鍵かもしれない。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る