【短編小説部門】コミックフラッパー奨励賞『異世界巨大生物VS元アスリート』の感想

異世界巨大生物VS元アスリート

作者 トム・ブラウンみちお

https://kakuyomu.jp/works/16816700429506389167


 守護天使によって現代世界の余命半年となったパルクール世界大会元王者フリークライマー・高月聖一と彼が助けようとした少年が融合して異世界に転生し、伝説の魔物ビックバンベヒーモスを倒す物語。


 第四回カクヨムweb小説短編賞2021において、

「短編賞を受賞した三作品はストーリー展開、キャラクター、文章力などが高いレベルでまとまり、小説として完成度が高く、なおかつコミカライズでさらに輝くポテンシャルを持っていました」

「短編特別賞の九作品はいずれも秀作で、わずかの工夫や見直しで短編賞を受賞した可能性がありました。作者の皆さまは力量十分ですので、次回にぜひ捲土重来を期してください。短編小説を書く方には参考になる作品ばかりなので、ご一読をおすすめします」

「コミックフラッパー奨励賞の1作品は短編小説としての完成度という点で他の受賞作と比較した場合、一歩足りないところはありますが、映像が情景として浮かびやすく、この物語を別の媒体で読みたいと思わせる作品でした」

「新設の実話・エッセイ・体験談部門では、七作品が短編特別賞に選ばれました。独自の経験、体験談を見事にアレンジし、読み手に届けることに成功した作品ばかりです。新しい知識が面白く得られる作品から、涙なしでは読めない感動の作品まで、幅広いラインナップとなっています。フィクションとはまた違った角度から、読む楽しみを味わわせてくれる作品ぞろいではありましたが、コミカライズという点では適さない部分もあり、惜しくも短編賞は該当なしとなりました」と総評されています。


 文章の書き方については目をつむる。

 グロは苦手です。


 三人称、神視点とパルクール世界大会元王者フリークライマー・高月聖一視点で書かれている。描写は少なく、地の文と会話文で説明している。漫画のネームか脚本のような文体。

 前半、裸である聖一のシモネタ的笑いどころや、除雪機に巻き込まれたりブラックホールに飲み込まれたりなど、グロい場面が見られる。


 女性神話の中心軌道で本作は書かれている。

 ある世界の守護天使が、手足が四本ずつあるサンショウウオのような伝説の魔物ビックバンベヒーモスに敗れた。体内に飲み込まれたとき、最後の力で遺跡を作ってパワー増幅させ、ビックバンベヒーモスを倒すために現代世界の余命半年となったパルクール世界大会元王者フリークライマー・高月聖一に助けられた少年の二人の力を借り、ブラックホールを使って守護天使のいる異世界へと誘った。

 時空が歪み発生したブラックホールに飲み込まえて肉体が溶け合う二人は、若返った体に聖一の主人格がやどり、一糸まとわぬ裸の姿で異世界の草原に現れる。守護天使は彼に身体能力向上パワー、ブラックホールパワー、力場パワーを得た聖一は、ロックゴーレムに襲われている老人ジャイと娘を助け、倒したロックゴーレムの力を得る。

 魔法使いのマホと出会い、冒険者として彼女とともに一カ月冒険していると、高尾山並みの巨体をした伝説の魔物ビックバンベヒーモス遭遇する。

 口の中に飛び込んで体内奥へ入ると遺跡があり、守護天使の肉片が祀られていた。守護天使の意識から、ビックバンベヒーモスに敗れ、残った力で遺跡を作り、聖一たちを呼んだと告げ、「今こそ三人の力を合わせましょう」と守護天使と聖一と少年はブラックホールの中で混ざりあい合体する。

 新たな力を得て全エネルギーを使って巨大な杭の形を生成し、巨大な脳をぶちまけながらビッグバンベヒーモスを貫いた。

 ビッグバンベヒーモスは倒され、その脳の海にマホは溺れた。


 ストーリーの流れは、メロドラマ的な中心軌道で書かれており、聖一だけではクリアできない障害が用意されていて、クリアするためのサブキャラが登場しては障害をクリアして、少しの成長と前へ話が進むようになっている。

 冒険するために、『ワガマチ』の商人ジャイと出会ったり、魔法使いのマホが訪ねてきて、一緒に冒険して強くなっていく。


 そもそもなぜ、パルクール世界大会元王者フリークライマー・高月聖一は、守護天使によって異世界転生することになったのだろう。


 パルクールとは、道具を使わず、身体能力を駆使し、壁を上ったり飛び越えたり飛び降りたりしながら素早く移動する運動やスポーツのこと。

 フリークライミングとは、道具に頼らず、自己のテクニックと体力を使って岩を登ること。

 どちらも共通するのは、道具を使わず素手でよじ登ったりして移動していくものだ。


 ビッグバンベヒーモスを倒すために彼が持つ技量が買われてだとするなら、除雪機に巻き込まれそうになった少年は、彼を若返らせるためだけに巻き込まれた事になってしまう。

 しかも、守護天使と二人が融合してとどめを刺したのは巨大な杭状のエネルギーで引き裂いたからであって、フリークライマーの技量とは関係ない。

 ピッケルと杭を使ってビッグバンベヒーモスをよじ登って体内へ入っていくときに技量を使っているのは間違いない。が、パルクールもフリークライミングもピッケルや杭といった道具は使わない。

 なので、パルクール世界大会元王者フリークライマーでなければならなかった理由がわからない。


 そもそも、なぜ守護天使なのだろう。

 異世界転生ものでお決まりの、転生させる役割は神様である。

 この辺りがモヤモヤして、考えて考えて気がついた。


 おそらく、この守護天使は異世界を守護しているだけでなく、高月聖一と少年を守護霊的に守護していた天使なのだ。

 守護天使はビッグバンベヒーモスに敗れたことで、守護されていた高月聖一と少年は守られなくなってしまった。

 だから彼は「ついこの前まで走り回っていた」にもかかわらず、突然「歩行器無しでは歩けない体になって」しまい、医者からは「余命半年」と言い渡されるまでになってしまったのだ。

 おまけに風船を追いかける男の子も守護されなくなったため、除雪機に巻き込まれそうになる。

 この出会いと死は偶然ではなく必然であり、当然の結果だった。


 ならばなぜ、守護天使の肉片は、はじめから二人をビッグバンベヒーモスの中に転移させなかったのか。

 おそらく三人で融合しても、ビッグバンベヒーモスを倒せるだけの力には遠く及ばなかったのだ。

 なので、融合させて若くなった聖一が冒険をし、倒したモンスターの力を吸収して強くさせ、それから融合する方法を守護天使は考えたのだろう。

 結果、三人融合して倒せたのだ。


 最後、魔法使いマホがビッグバンベヒーモスの脳みそでできた海で溺れかけたのは、彼女は生きていることを伝えたかったのかもしれない。

 巨大生物なので、脳みそだけでなく血液のほうが圧倒的に多い気がする。

 エヴァンゲリオンに登場する使徒の形象崩壊のようにドバーッと溢れたのではと想像するも、そうは書かれていない。

 つまり、魔法使いマホはビッグバンベヒーモスの頭部付近にいた、を示したいのかもしれない。

 

 一見すると荒唐無稽なように見えて、色々考えられて作られているのがよくわかった。

 

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