第7回カクヨムWeb小説コンテスト
【異世界ファンタジー部門大賞】『チュートリアルが始まる前に~ボスキャラ達を破滅させない為に俺ができる幾つかの事』の感想
異世界ファンタジー部門大賞
チュートリアルが始まる前に~ボスキャラ達を破滅させない為に俺ができる幾つかの事
作者 ハイブリッジこたつ
https://kakuyomu.jp/works/16816700429191462823
伝説の恋愛シミュレーションRPG『精霊大戦ダンジョンマギア』のチュートリアルの中ボス担当、清水凶一郎に転生した主人公が、自分や姉文香にやがて訪れるバッドエンドを回避するべく自己を磨いて苦難を乗り越えていく物語。
感想を書きはじめる際、長編を読むことを目標にしてきた。『クルシェは殺すことにした』をはじめ、いくつか読んできたので今回、『カクヨムWeb小説コンテスト作品』の受賞作を読んでいこうと踏み切る。
ただ本作は長いため、一章のみを読んで感想を書いた。
四百字詰め原稿用紙換算二百五十枚程度と推定。
誤字等は気にしない。
主人公は人生をギャルゲーとウェブ小説に明け暮れ、ギャルゲー世界に転生出来たらと夢見ていたら、伝説の恋愛シミュレーションRPG『精霊大戦ダンジョンマギア』シリーズにおけるやられ役の代名詞的存在であり、最雑魚イキリ糞野郎にしてチュートリアルの中ボス担当、どのルートでも必ず死ぬ哀れな清水凶一郎に転生してしまった男、一人称俺で書かれた文体。
自分語りの実況中継の地の文で、描写と説明に感情をそえており、会話文の延長に思える。脳内ダダ漏れ状態なので、主人公が何を考え行動しているのか読者にわかりやすく、おまけに物事がテンポよく進んでいく。
また、時間制限を設けている。
今のままでは三年後、確実に主人公はバッドエンドを迎え、姉も同じ道をたどってしまう。果たして、タイムリミットまでに主人公は目的を達せられるのか、読者は主人公の行方をたどる形で読み進めることができる。
本作は異世界転生ものであり、ゲーム世界に転生した作品である。
悪役令嬢やモブキャラなどに転生する作品と同じ系統で、チュートリアルでゲーム主人公に必ず死ぬ中ボス雑魚キャラに転生してしまう。
大きく異なるのは、主人公の行動動機である。
多くの類似作品(悪役令嬢ものやモブや不遇キャラ等)が、ゲームをプレイしている主人公がそのキャラに転生、自分や好きなキャラにやがて訪れるバッドエンド展開を知っているため、回避すべく悪戦苦闘する姿が物語で描かれる。
だが、本作では転生したキャラは今から三年後にゲーム主人公にイキッた挙げ句、フルぼっこにされ、その後ポッと出のボス敵に食われて死ぬのが確定しているのだが、姉の文香が推しキャラであり、このまま無為に時間を過ごせば、ゲーム主人公の踏み台&感動盛り上げキャラとして姉弟仲良く死に絶える事になってしまう。
自分も死にたくないし、推しキャラの姉も助けたいし、本来の清水凶一郎というキャラも姉を助けようと行動していたのでその願いも叶えたい。
つまり、自分が生き残る動機が姉を救うためにという点が他作品と大きく異なる所であり、目新しさであり、本作のウリの一つでもある。
作品には三種類あるといわれる。
第一にお決まりのストーリー展開を楽しむ作品。
第二は頭を使う謎解きやミステリーなどの頭を使う作品。
第三はその中間作品である。
本作は、ゲーム世界に転生した主人公が自分と姉を救うべく、生前知り得たギャルゲーとWeb小説の知識を駆使して、悪戦苦闘しながら前へ進んでいく姿を楽しむ作品。なので、第一と思われる。
また、女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
ギャルゲーとWeb小説に明け暮れていた主人公が、恋愛シミュレーションRPG『精霊大戦ダンジョンマギア』のチュートリアルの中ボス担当、清水凶一郎に転生していた。しかも姉文香は推しキャラだった。このままでは三年後、姉弟共々バッドエンドを迎えることが確定している。
回避するために裏ボスである、『精霊大戦ダンジョンマギア』シリーズ内で別格の《アルテマ》の一柱、アルテマⅣ、始原の終末装置こと『ヒミングレーヴァ・アルビオン』に会い、自分はやりこみゲーマー転生者だと告げ、『ヒミングレーヴァ・アルビオン』が求める全アルテマとの対面の情報を伝えることで、協力してもらえることとなる。
ただし、如何せん転生した清水凶一郎は雑魚キャラで弱いため、裏ボスのもつ本来の力を発揮できない。せいぜい一時的に時を止める程度。
裏ボスの力を借りず、姉の呪いの進行も初期段階なら万能快癒薬エリクサーの力で完治できるはず。だが、手に入れるためのダンジョンボスは限りなく強い。一人で挑んだところで返り討ちにあってしまう。
姉を救うために主人公は体を鍛え、ゲーム本筋に支障が出ないよう、一流を通り越して超一流の武芸家であると同時に本筋では死すべき定めにあった蒼乃遥を助け、仲間とするのだった。
本作の書き方は概ね、説明、簡略化あるいはわかりやすい比喩、感想の順番である。
たとえば、転生してしまった雑魚キャラが本ゲームではどういう展開に遭うのか書かれている場面では、以下のようになっている。
まず、ゲームの「主人公達は三人パーティーな上、その中の一人は聖女の名を冠するぶっ壊れヒーラーなのである。単体糞雑魚野郎に勝ち目などあるはずがない。約束された敗北に向かってレッツゴーというわけさ」とある。
単体糞雑魚野郎というのが、本作の主人公である清水凶一郎。
「約束された敗北に向かってレッツゴー」がどんな展開を迎えるのかが次に続く。
「主人公達にフルボッコにされたポッと出のイキリ糞雑魚野郎清水凶一郎は、その後突如として現れたボス敵に食われて死ぬのである」と説明しておきながら、さらに簡単な表現として、「イキッて、ボコられて、食われて死ぬ」と簡略化され、「これがダンマギにおける凶一郎の唯一にして無二の役割である。醜態しゅうたいさらして死ぬのがお仕事なんて、とっても楽チンだね。ハハッ」と、主人公の感想が語られ、こみ上げる笑いからやがて、わかっている末路から込み上がる絶望に「しこたま泣いた」とつづくのである。
小説に限らず、物事を相手に伝えるときは説明と感情の二つが必要である。一人称作品だからこそ、スムーズにできる方法だ。
また、特徴としてわかりやすく面白い喩えが用いられる。
たとえば、骸骨の集団をカルシウム軍団。
たとえば、ヒミングレーヴァ・アルビオンを懐からこぶし大のおにぎりを取り出すアルや風呂上がりのアイスに勤しむ裏ボス様、肉まんをもそもそ食べ続ける白髪少女など。
難しい状況を色々説明して、「つまり〇〇」といった具合に、わかりやすく別な言い回している箇所が多く見られる。
このような表現を多用するのは、どのようなことが起きているのかを伝えながら同時に、見た目はゲームの雑魚キャラ清水凶一郎だけれども中身は転生してきた別人格だということを、読者にわかってもらうためだと考える。
なにより、わかりやすくなければ、架空のゲーム世界の話に読者はついていけないからだ。
展開をスムーズにしているのは、裏ボスであるアルの存在が大きいと感じる。
ダンジョン時、彼女は一緒にダンジョンへは入れない。が、「契約者と契約を交わした精霊の間でのみ使用可能な常在発動型パッシブスキル《思念共有テレパシー》の効能で、今現在、我が家で寛ぎ中の相棒の声がはっきりくっきりと聞くことが出来る」と説明されている。
おかげで戦闘中も彼女と会話し、どう戦うか相談してストーリーを前へ進めることができる。
また、『精霊大戦ダンジョンマギア』の裏ボスのアルは読者に近い立ち位置にいる。ゲーム設定は読者以上に詳しいが、転生してきた主人公が知っているような先の展開を知らない。
知っているのは、転生したゲーマの主人公だけ。
どういう展開が待ち受けているのか彼が説明するのを、アルは聞いて知るしかない。という点が、読者と近い立ち位置にいると思えるので、主人公とアルに感情移入することで、物語を読み進めることができるのだ。
「強者が許せない。他人を踏みにじりたい。努力を否定したい。勝利を汚したい。弱い者をいたぶりたい。強さを掠め取りたい。理不尽でありたい。無敵でありたい。絶対でありたい。あぁ、あぁ、あぁ傷つきたくない」という思いを抱えていそうな死神に、
「テメェの醜いコンプレックスを、見ず知らずの他人にぶつけるなよ馬鹿野郎ッ!」
と最後に言い放ってとどめを刺すところがある。
ここが作者の言いたいことかしらん。
自分の愚かさを棚に上げて他人を羨んだり罵ったり、ネットに書き込んだり八つ当たりで他人を傷つけたり、そういったことをする人達に向けた叫びにも思えた。
どちらかといえば、清水凶一郎というキャラもまた、そういうキャラなのだと思われる。だけれども、ゲーマ転生者は少なくとも違う。彼のこれまでの行動を見ればわかるように、抗うすべもないような状況にありながら、知識と情報からできることを模索し、自己を鍛錬し、地道に積み上げてダンジョンまできたのだ。
ようするに、以前の自分と対峙して打ち勝ったのが、死神戦だったのではと思われる。
本作は、ゲーム世界に入りたい願望、自分の好きなキャラを救いたい思い、行動して自分を鍛えなければ自分は死んでしまう切羽詰まった状況。逃げることはできないゲーム内の人生を必死に生きる主人公の生き様を通して、読者に追体験させている。
駄目な雑魚キャラをいかにして鍛え上げ、試練をくぐり抜けていくのかが本作の見所の一つ。
やり込むほどゲームを遊んだ経験がないので、主人公の思い入れには些か引いてしまう面もあるものの、一生懸命さや必死さは十分伝わってくる。
はたして、姉を救えるのか。
本当のゲーム主人公が登場したとき敗れてしまうのか否か。
今後の展開は、続きを読まなければわからない。
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