『なまくら冷衛の剣難録』第一章第八話までの感想
『なまくら冷衛の剣難録』
作者 小語
https://kakuyomu.jp/works/16816927863238741872
二人は事件現場を見に来て、夕方まで手がかりを探すも見つからない。途方に暮れる冷衛は、二年振りに知り合いの士郎次と再会する。
全体的なストーリーは、メロドラマと同じ中心軌道だと思う。
冷衛、小竜、それぞれの能力だけでは前に進めない。二人が共通してクリアしなければならない障害が用意され、クリアする度にサブキャラ退場やイベント終了して、個々に成長して前に進んでいく。
キャラに関しては、冷衛は女性神話の、小竜は男性神話の中心軌道で進んでいくのではと推測する。
夕方近くになって、「人間も建物も路上に影を長く這わせているなかで、二つの人影が忙しなく動き回っている」という表現がされ、冷衛と小竜が手がかりを探している。
つまり、人通りがないのだ。
あるいは少ない。
「道の片側には飲食店や小間物屋が並んでいる。小竜が言っていたのは、一番近くにある団子を提供する店のことだ」とあるように真人が殺されたあの夜、閉店していた通りの店には飲食店もあったことがわかる。その飲食店ですら閉まっていた時刻に殺害されたので、やはり晩ではないだろう。
飲食店が並んでいて、夕時に人通りが少ない。
これから人通りが増えてくるのかしらん。
そうでないなら、大通りから外れた裏通りにあるような、店舗が並ぶ一角かもしれない。
真人は住宅街を抜けて来たわけだから、大通りではないのだ。
これらの店舗も、近くの住民をターゲットとして店を開いていて、店舗面積も広くないのだろう。
稼ぎ時はランチやおやつ時であり、夜遅くに来店する客をターゲットにしていない。やはり電気がないため、灯りに使う燃料節約のため夜は店じまいにしているに違いない。
「どうですか、冷衛さん。何か分かりましたー?」と小竜が冷衛に尋ねたとき、彼は汗を吹き出して必死に手がかりを探している。
しかも、「冷衛さん、とりあえず、そこのお団子屋さんで小休止しませんか」と声をかけている。彼を気遣ってのことだろうけれども、小竜の行動がモヤモヤする。
四日前に幼馴染が殺されて、犯人を見つけて仇討ちしようと身銭を切って口入れ屋に頼み、ようやく冷衛が名乗りを上げてくれたから事件現場に来たのだ。それはいい。いいのだけれど、彼女からは第三者的に見ているような節がある。
自分で頼んでおいて、どこか他人事に見えるのだ。
仇討ちには別の思惑があるのではないか、と思えてならない。
冷衛も、喫茶店の支払いについて言及してみたらいい。
しないのは、元武官であり、男の意地があるのでしょう。
小さい男だと思われたくないのだ。
でも、さっきは払ったから今度は彼女に払ってもらったらいいのに。きっとそういうことも言い出せない性格なのだろう。
「凶事の面影を斜陽のなかで仄暗く主張している」や、士郎次の描写表現など、時代劇っぽいような、独特な本作の世界を言い表せていて、味のある文章である。
「士郎次は知己に向けるには相応しくない侮りの視線を冷衛に注いでいるし、声音にもどこか冷やかさが感じられる」から、ライバル的な関係が伺える。きっと仲の悪い同期なのだろう。
彼も武官なので、冷衛が辞めることになった事情を知るはず。おそらく真人の一件も、何かしら知っているに違いない。今後、彼に問いただすに違いない。
御馬前衆第三番隊隊長の炎衣士郎次が登場し、小竜は「紫光家の小竜です」と名乗っている。
冷衛には名乗らなかった家名を、ここで名乗っているのである。
武官の人だから、きちんと挨拶をしたのだろう。
つまり、挨拶の仕方は教わってきている。
だとすると冷衛に家名を名乗らなかったのは、名乗る必要がなかったか隠したかったか、大事にしたくなかったからか。あるいは、私事で動いているということだろう。
親とか家柄とか、武官とかは関係なく、彼女個人で、真相を解明して仇討ちをしたいという現れに違いない。
御馬前衆第三番隊は、主君の率いる軍隊の三番隊の隊長をしているのだろう。
「士郎次は閥族の出自」とある。
身分の高い家柄、その一族。閥をつくっている一族や集団の意味なので、彼はそれなりの家柄だということだ。
そんな彼が「紫光家ですか、良家の家柄ですな」ということは、自分の家柄よりも彼女の家は良いところかもしれない。
なので、「この人。バカですか……?」と彼女に言われてもすぐに腹を立てたりしないのだろう。
少なくとも、身分の高い家柄だし三番隊の隊長もしてるので、冷衛よりは自分のほうが確かだと、彼女にアピールしている。端的に言えば、口説いてるようなもの。
色々やり取りして小竜は「この人。バカですか……?」「ほら、やっぱバカでしょ」という始末。
小竜というキャラは、物を知らず、我儘で、思ったことをそのまま口にしてしまう幼子のような人。天然だと言えば天然だし、口が悪いといえば悪い。
悪気がないし、何を考えているのかわかりやすいけど、同性には嫌われそうなタイプだ。
物を知らないと言っても、閥族の意味はわかっているみたいなので、学がそれなりにあると思われる。でも「我が刃を以て、下手人の罪は己が血で贖われることになりましょう」といった士郎次の言葉の意味がちょっとわからない。
ちょっと難しい言葉、古風な言い回しは苦手のようだ。普段からそんな言葉を使っていない、聞いたこともないのでしょう。
平民ではないので、位が高く、我儘に育ったお姫様キャラかしらん。
「手の甲に朱唇で接吻」されても、彼女はそれに反応していない。
日本人女性が手の甲にキスされてもどう反応していいか困るのと同じで、手の甲のキスは外国の文化だから。中世ヨーロッパの騎士道文化で生まれ、騎士たちが貴婦人への尊敬、敬意を表す形として手の甲にキスをした名残りである。
おそらく本作でも、士郎次のした行為は、外国の文化のものだと思われる。なので小竜は、その知識を知らないので何をされたのか、どういう意味なのかわからず、反応していないのだ。
同じ武官でも、身分の高い家柄でも、異文化知識の有無からくるズレが二人の反応を生み出しているのだろう。
冷衛は士郎次のことを昔からどんな人かわかっているので、相変わらずだなと思いながら「教養があるんだ、奴は」といえる。
「少し白けた空気が漂ったが、小竜の荒い息がそれを吹き飛ばした」という表現が良い。漫画の一コマがふっと浮かぶ。
小竜は「でも、あの人、事件の捜査をしていると言っていましたね。警察なんですか? そうは見えなかったんですけど」と言っているところから、彼が何者かわからなかったのだろう。
でも士郎次は「御馬前衆第三番隊隊長」と名乗っている。
「平時には警察と協力して犯罪者の排除に当たる。警察と異なるのは、御馬前衆の目的は犯罪者の排除、つまり犯人の生死は問わない」と、冷衛の説明を聞いて理解したようなので、いくら親が武官でも、武官の組織には詳しくないのかしらん。
「やっぱり、私が真人の仇を討つには、あの人達と競わなければならないんですね」というのが、どちらの意味だろう。
彼女は自分の手で仇を討ちたいと考えていて、でも「御馬前衆が武官として仇を討つからお前は何もしなくていい」と親に言われたことで「私は自分の手で仇を討つ」と決意し、人を雇って仇を討とうとしたのか。
それとも、今日はじめて御馬前衆という存在を知って、冷衛の知り合いだったから協力してくれるのかと期待したけど、そうでもないと理解したのか。
どちらかといえば、前者のような気もする。
だとすると、小竜が親に言われたのは「別の者が仇を討つからお前は何もしなくていい」ということだったのだろう。
なので、別の者が「御馬前衆」という武官の組織だと、今日このとき初めて知ったのだ。そう考えると、なんとなくスッキリしてくる。
団子屋、殺害現場を訪ねた人物の報告を頼んだ男は誰だろう。警察や武官なら名乗るはずなので、彼らではない。
三通り考えられる。
一つは、殺害した人物側。どういう人間が、事件のことを嗅ぎ回っているか知りたいのだろう。
二つ目は小竜の親。仇討ちをするといった娘がほんとうにやろうとしているのか。現場をうろちょろしていないか、心配する親心から調べているのだろう。
三つ目は、別の組織。この事件には別の事件が絡んでいて、そちら側の人たちが何が起きたのか独自で調べているのかもしれない。
どれにしても、家紋が押してある封筒なので、水鋼公国の身分ある家臣が動いているには違いない。
どんな家紋なのだろう。
家紋について、平民は詳しくないに違いない。
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