『クルシェは殺すことにした』三十八話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


 十五年前、父を亡くしたクオンが九歳のとき、両親を亡くした九紫美と道で出会い知り合う。それから半年後、〈月猟会〉と縄張り争いをしている〈極峰会〉にクオンが攫われたと知った九紫美は、酒場にいる〈極峰会〉の構成員に銃を突きつけ居場所を聞き出しては殺すを繰り返して本部に乗り込み、四十二人を殺害してクオンを救い出し、クオンの願いである争いのない街を共に作る手助けをすると決意する。これが世に語り継がれる、カナシアを震撼させた〈悪魔の降りた一夜〉事件である。

〈月猟会〉支部、若頭クオンの執務室にて、クオンと九紫美、ハチロウがクルシェが来るのを待っていた。が、ハチロウは待つより出向いて殺すほうが得策といって部屋を出ていく。クオンは嫌な予感を抱いていた。 断章第二弾、クオンと九紫美の出会いが語られています。


 断章を飛ばして本編だけを読んでも一つのお話として成り立つように書かれていると思います。間に挟んで物語の勢いが下がらなければいいと思いますし、三十八話が引き続きクオンと九紫美が登場する回なので、違和感なく断章から引き続き読み進めることができます。


 幼少期から人が人を殺し合うのが当たり前の中で育ったクオンは、殺されたときは泣きはしたでしょうが、殺された悲しみを怒りに変えて敵対勢力を倒し、いずれは自分が統治して争いをなくそうとのし上がる決意ができたのです。だから、あっけらかんと九紫美に自身のことを話せたのだろう。

 かたや九紫美は三歳の頃、犯罪組織摘発の際に警察官である父が死に、のちに母が首を吊ってふさぎ込んでいた。

 彼女と出会ったクオンは、争いがない街だったら彼女の父親は死なずにすみ、不幸になることもなかっただろうと思ったに違いない。

 死を恐れ、行く宛もなく路上にいた九紫美がクオンと出会い、彼が〈月猟会〉の敵対勢力〈極峰会〉に拉致されたことを知って助け出した事をきっかけに、彼の願いを叶えることが彼女の生きる目的となったようです。

 つまり、互いの行動目的が互いのためになったのです。

 恋愛感情ではないということですね。

 

 九紫美は王族の血を引いているわけでもなさそうなので、水華王国の女性ならみんな、魔法が使えるのでしょう。両親をなくしてから、もしくは父親がなくなってから、魔力を使って盗みを働いていたのかもしれない。

 

 今回「〈月猟会〉支部、若頭クオンの執務室」と、場所の書き方がされました。これまで漠然としすぎていたので、わかりやすくなったと思います。

 ハチロウは出向いてクルシェを迎え討とうと、部屋を出ていきます。こういう行動からは裏切りの兆候を感じます。そもそも彼は、数カ月前まで敵勢力に雇われていた人間です。ひょっとすると、仲間を裏切って世渡りしているかもしれません。

 彼単独か、バックボーンがいるのか。

 前者ならこのまま逃げる可能性もある。後者の場合、どの組織に付いているかで分かれるでしょう。

 消滅した〈鬼牢会〉の残党、もしくは他の敵対勢力と考えてみる。消滅したとかいてあるので残党はない。敵対勢力はあるかもしれないけれど、断定できる情報はないので違うだろう。

 水華王国の〈巡回裁判所〉という可能性はあるかもしれない。リヒャルトを殺すタイミングがあったのに、ハチロウは殺さなかった。だけど、他の巡回裁判所の人間を殺している。こちらも違う。

 ハクラン側の刺客として入ってきた可能性はどうだろう。濡れ衣を着せられて流れてきたというのは作り話で、ハチロウはいまもハクラン側の命令で動いていると考えてみる。

 カナシアで内乱でも起きれば、ハクラン軍が攻め込みやすい。そのために一番力のある〈月猟会〉に潜り込んで、内輪もめで潰しあってもらいながら戦力を削ぎ落とす。クルシェがクオンを殺すのを利用して、ハチロウがラザッタを殺して〈月猟会〉を壊滅、ハクラン軍を攻め込ませる手はずかもしれない。

 とはいえ、ハクランが水華王国を狙っている様子はないし、〈月猟会〉は軍隊ではないので、彼らが壊滅しても他国の軍が介入するのは難しい。なにより、連絡を密に取らねばならないが、その様子は皆無。なのでこれもありえない。

 会長ラザッタのクオン殺害の指示を受けているのはどうだろう。半年前にフリードが返り討ちにあった後も、刺客が殺されている。だからハチロウも刺客の一人、という可能性もある。だけど、もっと早くに行動を起こしていても良さそう。なにより、九紫美には勝てていない。魔女には魔女を、ということでクルシェに九紫美を抑えてもらい、クオンを手に掛ける算段をしている可能性も考えられる。その場合、見返りはなんだろう。

 社会から外れ、身をやつして流れてきた男に、果たして裏の繋がりがあるだろうか。人は損得や悦楽に走りやすい。しかも男は群れで行動しない。

 むしろ、単独で行動していると考えたほうがいい。

 逃げるか、死に場所を求めているか、それとも殺すのが好きなのか。彼がハクラン国を追われた少女連続殺人は誰の仕業か。

 はたして彼の目的はなんだろう。

 リヒャルトの出番はあるのか、ソウイチの秘密とはなにか。

 クライマックスが近づいている感じです。

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