『クルシェは殺すことにした』三十五話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


 昨夜の〈別離にさよなら亭〉での騒動について、〈月猟会〉会長ラザッタはクオンを咎める。だがクオンは、退けた自分こそが跡目であるから早く会長の座を譲れと要求する。そして今夜、決着をつけるべく九紫美は〈白鴉屋〉のスカイエに、ソウイチを生かして返してほしければクルシェ一人で〈月猟会〉事務所まで来いと伝えていた。

〈白鴉屋〉に顔を出したクルシェにスカイエは、ソナマナンは深手を負ったこと、ソウイチが人質になり事務所まで来いと要求していることを伝える。「あなたは水華王国の双子の王女片割れで風習より殺される所をフリードに助けられた」とスカイエは推測して告げるも、クルシェは興味はないと答えて店を出ていく。 


 ついに会長ラザッタが登場。

 加えて、新たな情報が次々出てきました。


〈月猟会〉を作ったのはクオンの父親であり、その後を引き継いだのが叔父のラザッタ五十二歳。二人は叔父と甥の間。つまりラザッタは、クオンの父親とは兄弟なのだ。

 六十二年前に〈月猟会〉を立ち上げたのは、クオンの祖父でありラザッタの父親だったわけです。

 クオンの年齢が明示されていないのでわかりませんが、十五年前に九紫美が起こした〈悪魔の降りた一夜〉と関係があると考え、この騒動、もしくは前にクオンの父が死んだと推測。

 たとえばクオンの父が会長になるのを良しと思わなかったラザッタが手を回し、それを契機に九紫美が暴走したのかもしれない。(十五年前クオンが九歳だと仮定すると、現在二十四歳)

 真偽はともかく、当時九歳だったクオンに成り代わり、暫定で会長となったラザッタは次期会長に自分の息子をと考え、邪魔者を消そうとしていたなど、クオンはラザッタに突きつけています。

 つまり、フリードはじめ多くの殺し屋が殺害しようとしてきたのはすべて、ラザッタから出された依頼だったわけです。

 ある意味ラザッタはずる賢い。

 なぜなら、街にはびこる敵対勢力や殺し屋をクオンにぶつけ、九紫美が一掃。結果、敵勢力の弱体化や壊滅を図り、縄張りを拡大していったからです。ひょっとすると、ラザッタの命令を聞かない九紫美の力を利用したかったのかもしれません。

 彼の誤算は想像以上に九紫美が強く、未だにクオンが生きており、自分の部下であるエンパの子分、ウィロウとコホシュが死んだことです。

 クオンはラザッタを脅すため、相手に気取られることなく九紫美がラザッタ部下の後頭部に銃を突きつけます。それができるなら、ラザッタをさっさと殺して、会長の座を手に入れたらいいのに。

 そうしないのは、大勢いるラザッタ陣営の逆激を受けたくないからでしょう。いくら九紫美が強くても、数の前ではクオンを守りきれる保証はありませんから。

 クオンも、ラザッタの暗殺依頼をしてみてはどうだろう。

 彼の性格からして、自分が欲しいものは自分で手に入れるところがありそうなので、どこの誰ともわからない人間を使って暗殺をするのは良しとしないのかもしれません。


 気になったのは、九紫美が相手の後頭部に銃を突きつけて脅すのに、いざ殺し合いとなったら頭を狙わないことです。フリードもソナマナンも胴体を撃たれています。

 おかげで今回、ソナマナンは九死に一生を得たわけです。ソウイチの場合は、威嚇ですかね。

 心臓が左胸にあるわけではありませんが、それでも急所を狙ったと思われます。

 三発撃たれたにもかかわらず、ソナマナンは死なずにすみました。

 殺し屋にとって、携帯電話は必須アイテムですね。フリードは持っていなかったのでしょう。

 なにより、彼女には専属の医者がいたことが幸いしたようです。

 電話の相手は医者でした。ソウイチを助けるために、死ぬわけにはいかないと思ったのでしょう。

 殺し屋家業に怪我はつきもの。おまけに、体液毒という特殊な能力を持った彼女を診れる医者は滅多にいないはず。二年前に他所から移ってきた彼女が一命をとりとめたのは、まさに医者のおかげ。ということは、医者も彼女とともに二年前、カナシアに移ってきたことになります。でなければ、すぐに駆けつけることはできません。ひょっとすると、彼女と同居しているやもしれません。


 クルシェの出生の秘密が、スカイエの口から出てきました。

 王族の子が双子だった場合、優劣をつけてどちらかを消す風習でクルシェは殺害依頼を受けてフリードに命を狙われたという。

 つまり、クルシェは親をはじめとする親族の依頼で殺されるところだったわけです。フリードが殺した彼女の周りにいたのは、王室の侍女や護衛、つまりクルシェをよく思っていた人たちです。

 親ではなくとも、クルシェにとって大切な人たちを殺した人と、一緒に暮らしていたことになります。

 でもクルシェは、すでに未清算の過去を振り切ってフリードを父親としたことでスカイエの話を聞くこともなく、ブレずに人質となったソウイチを助けにいけるのです。

 たとえ過去の話を聞かされても、実の親が自分を殺そうとした事実は変わらないので、フリードを父と思って前に進めるでしょう。

 王族の血を引くからクルシェは魔力があるのでしょか。だとすると、九紫美もソナマナンもそうなのかしらん。

 魔女とそうでない女性との差はどこにあるのだろう。それとも女性はみんな魔女で、多くの女性はしょぼい魔力しかもっていないかもしれない。たとえば、背中のかゆいところに手が届く魔力とか、入れすぎた塩分を料理から取り除ける魔力とか。


 仲介屋には守秘義務があるのでしょう。

 ソウイチにもなにやら秘密がありそうです。

 スカイエのセリフ、「その秘密がもしかしたらあなたの重荷になるかもしれないわ。あなたがその秘密を知る恐れもあるし、〈月猟会〉との戦いには危険が大きい」「私の命と引き換えに助けるように掛け合ってみるわ」から察するに、ラザッタの子供がソウイチかもしれません。

 そう考えると、クオン殺害の依頼を受けてフリードにさせたのもスカイエなので、依頼主がラザッタ陣営からだと知っていた可能性が浮上します。スカイエがラザッタ側の協力者とすれば、邪魔なクオンを殺害する仕事を請け負うのも自然な流れ。

 そんな彼女だからこそ、ソウイチを自分のもとに雇う形で預かることもできたのでしょう。そうする理由は、クオン側から命を狙われないようにするため……と考えると、現在人質になっているわけなので預かった甲斐がない。

 雑用係なら雑用係らしく、店番をさせていればいいのに。彼にクルシェの助けをさせているのはスカイエだった。次期会長になるには、それなりの死線をくぐらせる必要があったのかしらん。とはいえ、人質になってしまっては非常によろしくない。なので、この考えはどこかが間違っているのでしょう。

 だとすると、ハクランの王族関係かしらん。

 ソウイチの秘密とは、はたして……。


 サブキャラクターのソマナマンのサブプロットが、前回で畳まれたと思います。

 ちなみに、メインプロットはクオンの殺害をするです。そのあとサブキャラのサブプロット、ソマナマンとソウイチの恋愛スタート。そして前回、ソウイチを守って彼女は命を落とし(死んでない)サブプロット終了。次回、クルシェがソウイチの保護を担うべくソマナマンに会いに行き、メインプロットの推進力を得て、事務所へ乗り込み、物語は更に盛り上がっていくことでしょう。

 

 それはともかく、ギャグ要員のソウイチとソナマナンがいないと、シリアスな展開がどんどん進んでいきます。後半はハラハラドキドキする展開になっていくでしょうから、仕方ありません。

 スカイエは店で一人、自分の推測を語っています。が、仲介屋としておしゃべりでは務まらないし、聞いてくれる相手もいない。謎を抱えすぎるのも困りもの。きっと彼女、普段から独り言が多い生活を送っているのでしょう。

 

 リヒャルトの目的は九紫美ではなく、クルシェかもしれない。

 双子の片割れは本当に始末されたのか、確認のために出向いているのではと思えてきたけれど、果たして……。


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