『クルシェは殺すことにした』三十三話までの感想
クルシェは殺すことにした
作者 小語
https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367
クルシェと九紫美の戦いに釘付けになっているクオンを殺そうとソナマナンが銃で狙うも、背後からハチロウが現れる。
クルシェを撃とうとする九紫美へソウイチが懐中電灯を点灯して注意をそらす。が、弾丸は彼のこめかみを掠め、鮮血が飛び散った。二人を逃がすために果敢にクオンたちに挑んでいくクルシェ。二人は裏口から逃げ出し、店内の電源を落とす。暗転して戸惑うクオンたちから、クルシェもその場を離れた。
負傷したソウイチを連れて逃げるソナマナンは、追手の九紫美に気づき、彼をかばって撃たれてしまう。クルシェをおびき出す餌として連れていかれるソウイチ。血を流して倒れているソナマナンは、携帯電話でどこかへ電話を掛ける。
怒涛の展開です。
素直にハチロウが現れました。
ソナマナンは、どんなときでもとぼけた感じがあり、それがまたおちゃめで素敵なのだけれども、危機感があるのかないのか、どこまで本気でどこまでが演技なのか測りかねる。
そもそもソナマナンのようなタイプは罠を張って相手を陥れる暗殺が向いていて、近接格闘には不向き。裏方に徹していたほうが、彼女の能力が活かせるでしょう。
当初の予定では、クオン側が一人ずつやってくるのを各個撃破していくはずだったのに、全員が勢揃いしてしまった。
発想は悪くない。戦力差を考えると、相手が少人数のときに全員で攻撃すれば、数の上で勝るため、勝率が高くなるからだ。だからといって、敵も馬鹿じゃない。クルシェたちが有利な条件でわざわざ戦う義理などありません。
クオンは兵力の逐次投入は戦火の拡大と消耗を招くと見て、全兵力をもって急行し、万が一増援がくることも考えて一戦で殲滅することを考えていたかもしれない。だから彼自身も戦力の一つになるべく、酒場へ急行したのでしょう。
エンパの部下二人が生きていたら、クオン側は六人。対して〈白鴉屋〉は三人。数の上で圧倒的にクオン側が有利である。
クルシェたちの敗因は、自分たちの都合のいいように戦場を作れなかったところにあります。
最初〈別離にさよなら亭〉に訪れたとき、三人でハチロウを襲っておくべきでした。そうすれば、リヒャルトと共闘し、一人ずつ倒していくこともできたかもしれません。
また、クルシェたちが命を狙っていると知られる前に、ソナマナンを主軸にしたクオン暗殺に挑んだほうが成功確率は高かったでしょう。
仕事に私情を挟んではいけない。
クルシェは復讐に走らず、ソナマナンの犠牲をいとわず彼女を使って暗殺計画を進めればよかったのです。
ジアがいない現在、〈白鴉屋〉の戦力は三人。ソウイチは論外なので実質二人です。
戦力が明確になった現在、クオン側とクルシェ側とでは、大人と子供くらいの兵力差がある気がします。
ソウイチは、武器を持っていないのかしらん。
弾除けの背嚢と懐中電灯だけで裏稼業の仕事に参加するなんて無貌すぎます。戦場カメラマンより生還率が低いでしょう。
二人を逃がすために四人相手に挑むクルシェの姿から、身体能力が高いことがわかります。一対一で戦えば、エンパを倒せたかもしれないし、ハチロウとは互角の勝負にもちこめたかもしれない。
クオンを殺せば依頼を達成できる。でも、クルシェとしてはどうしても九紫美を倒さなくてはならない。どうしたら勝てるのだろう。
拳銃にしろクオンからの苺にしろ、自分が掴みたいときは体は透過していません。また、彼女の行動動機はクオンにあるので、クオンを餌にして、彼女に爆弾をもたせて爆殺すれば倒せるかもしれません。
ソウイチを連れながら、ソナマナンは王国を逃げる考えをしています。顔と名前を知られた以上、追手が届かない所まで逃げるのは賢明な判断だと思います。
クオン達〈月猟会〉は、カナシナのサクラノ街をまずは手中に収め、ゆくゆくはカナシナを縄張りにする野望を抱いているので、王国外へ逃げれば、まず追っては来ないでしょう。
とはいえ、敵に先手を取られました。
ソウイチをかばって、九紫美による三発の銃弾に倒れてしまいました。
あまりにおとぼけな二人なので、ソナマナンが撃たれて、そういえば殺し合いをしていたんだと思い出しました。
しかも彼女の体液は毒なので、うかつに触ることもできない。だとしたら、彼女は病院へ行けないし、普段から治療を行うことも困難ですね。医者が体液に触れないよう、完全防備の服装で治療行為に当たらなければならない。しかも、流れて血は触れてもいけないので扱いに気をつける必要があります。諸々考えて、彼女は前線に立たせてはいけない人だったと思います。
水華王国を出ようと考えるソナマナンは、なぜソウイチを置いて一人で逃亡しなかったのかを考えてみます。
仲間だから、というのもあるでしょう。でもここは素直に、ソナマナンはソウイチに好意があったからだと思われます。
一年前、スカイエが〈白鴉屋〉に雑用係として雇い入れたソウイチとは仕事の関係上、クルシェよりも先にソナマナンは親しくなっています。
半年前から殺し屋をするようになったクルシェと年齢の近いソウイチは、仕事のサポートをするようになっていった。しかも、ソナマナンはクルシェのお守役みたいな仕事が増えていき、クルシェとソウイチが仲良くしていくのを目の当たりにしていくのです。
これは、ソナマナンとしては面白くなかったのではないかしらん。
〈月猟会〉について酒場や遊郭に聞き込ませてソウイチに囮となってもらうとき、ソナマナンはソウイチに身を預け、すがりつくように頼んでいます。
体液毒となる魔力持ちの彼女にとって、キスや性行為は殺人行為であり、好きな異性には使えません。そんな彼女が唯一できたのは抱擁だけ。なので、彼女にとってこの場面は求愛だったのではないかしらん。
その後、お金を握らされたソウイチはクルシェのお願いを聞きます。ソナマナンにしてみたら、理由はどうあれ彼に振られたわけです。その夜、〈白鴉屋〉にてソウイチにお酌をしてもらいながら飲んで酔いつぶれている。これは、振られたことに対するやけ酒です。
議論するクルシェとソウイチに対してソナマナンは、
「お二人さんてば、本当に若いわね。私にもそういうときがあったわ」と言っています。
意味合いとしては、語り合うほど仲がいい二人に、「お熱いことで」とぼやいているのです。
なので、「〈月猟会〉を〈巡回裁判所〉が調べているなら、邪魔者同士相食んでもらえばいいのよ」というのは、そのまま二人して言い争って喧嘩別れしてくれたらいいのに、とソナマナンは自分の気持ちを重ねて言っているのです。
「まったく。これで最後にしときなよ」
「はーい。ソウイチちゃん、あとで家まで送ってちょうだいね」
「厭っす」
というのは、飲みすぎている自分を気にかけてくれるソウイチの優しさがうれしくて、家まで送ってと甘える。なのに、断られてしまう。だからナマナンはその後、上半身を卓上に預けてふて寝してしまうのです。
翌朝、誰よりも早く白鴉屋に来ていたソナマナンは、出勤したソウイチに早いですねと声をかけられ、
「ゆっくり寝ていられる気分ではなかったのよ」
失恋のショックからそう簡単に立ち直れなかったわけです。しかもその後、「何か、気分が悪くなるようなことでもあったんすか?」と原因であるソウイチから聞かれるわけです。すねて凹んでいる彼女は彼に教えてあげるつもりもなく、かわりに「ま、この新聞を読んでみてくれる」と、仕事に関する話題を振るわけです。
昼ごはんを食べに街にでかけ、クルシェには年下に話す感じで声をかけています。でも、ソナマナンには、
「ソナマナンは何がいいっすか?」
と、仲のいい相手に気兼ねなく話すみたいに聞いています。
それが嬉しかったのか、
「ハクランのスシも好きなのよね」
と、ソナマナンは答えます。
ソウイチはハクラン人の末裔なので、彼に関するものを取り上げながら、彼のことが好きなのだと伝えるわけです。それに対するソウイチの答えが、「回るやつなら俺も好きっすよ」でした。前半は耳に入らず、後半の「俺も好きっすよ」と聞けて、上機嫌になったにちがいありません。
奢ると言った彼が連れて行った店は牛丼屋。吉野家や松屋並みに値段もリーズナブルな店だったので、「こんなので恩に着せられても困っちゃうわよねえ」と言いつつも、彼からの奢りに嬉しくていそいそと入店していきます。
座る位置も、クルシェがソウイチの隣、ソナマナンがその正面、という具合に、ソウイチの顔が正面からみえる位置に座っています。
「ソウイチ、もう少し落ち着いて食べなさいな」と、気軽に彼の食べ方に注意するところは、長く付き合ってきた同士の会話です。しかも「あなたのお父様は確か存命でしょ」と、彼から話してくれたことをちゃんと覚えているし、「お父様」と丁寧な言葉を用いています。いつ紹介してくれるの、と尋ねている感じです。
その夜、白鴉屋の奥で銃の手入れをするソナマナンは、クルシェたちの会話を聞いていたかもしれない。逃げ出すかもという彼女の言葉にソウイチは、「ソナマナンはあんなだけど、信用できるだろう」と、自分を養護する発言をしています。
聞いていたから、「どうしたの、みんな? 私がいなくて寂しかった?」と尋ねたのに、だれも寂しかったと答えてくれなくてかわいそうに、肩を落としながら椅子に座ってしまいます。
すねてしまったため、その後酒場での戦闘のあと、クルシェがソウイチに「私の傍から離れないで」といったとき、「きゃー、ヒューヒュー」とからかい気味に妬いてる声をあげています。
クルシェが二人のために時間稼ぎを取っているとき、ソナマナンは「クルシェを残しては行けないよ!」と叫ぶソウイチ連れていきます。やはり彼女にとって、彼のほうが大事だからでしょう。
だけど彼は「クルシェは大丈夫かな」と、自分が怪我をしているにも関わらず、クルシェの心配ばかり。
九紫美の魔力を目の当たりにして勝ち目がないとし、王国を出ることを決める。自分を振った男をこの場に置いてくこともできたが、好きだった男を死なせたくないので、せめて病院へと連れて行こうとするわけです。
「そう。私、決して、あなたのことは忘れないわ」
まさに別れの言葉です。
九紫美の気配を察知し、彼を突き飛ばして助けようとします。自身の返り血がかかっただけで、彼は絶命してしまうからです。自分のせいで死なせるわけにはいかないから。
ソウイチが咄嗟にソナマナンを支えようとしたときは、嬉しい反面、それだけはさせてはいけなくて手を掲げて押し止める。実に切ない。
「てめー! よくもソナマナンを!」
と、叫びながらソウイチは九紫美に殴りかかっていきます。敵わないと知りながらも自分のために危険を顧みず殴りかかっていく姿を見て、きっと嬉しかったに違いありません。
だから連れ去られた彼を助けようと、残りの命でどこかへ電話かけたのでしょう。
どこに電話をかけたのか。
スカイエ、ジア、クルシェの三人が浮かびます。が、クルシェが携帯電話を持っていた描写がないし、スカイエも同様。だからといって持っていないことにはならない。
普通に考えるなら、スカイエに連絡を入れます。チーム内での情報を共有し、連携を強化するためには、報告連絡相談は大事だからです。報告を入れたついでに、ジアに言伝を頼んだかもしれません。なぜならソナマナンはジアのことを「ジアお姉様」と呼んでいるので、信頼している間柄と思えるからです。
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