『クルシェは殺すことにした』二十七話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


 クルシェたちが〈白鴉屋〉に戻り、〈月猟会〉へ殴り込む準備をする。支度を整えながらソウイチは今夜の作戦に思いを馳せつつ、フリードが死んだ夜を思い出す。クルシェは「ソナマナンが逃げるかも」と呟くも、彼女自身の魔力のことを知っても気軽に接する二人に感謝してるから、と、スカイエは彼女が逃げない根拠を話した。

 クルシェたちは〈別離にさよなら亭〉を占拠して戦力を削ぐ作戦に出た。が、構成員であるウィロウ・ホワイトとコホシュ・ブラックが、クルシェとソナマナンの前に立ちふさがる。


 本作の良いところは、緩急のリズムがある点です。

 緩やかな場面があって、緊張する展開が生きてくる。

 ずっと張り詰めている状態だと、読む側も苦しくなるからだ。

 本作は人殺しをしている。だから、どうしても殺伐とした内容にならざる得ない。そこに、くつろぎ、笑い、ゆったりとした場面が挟まれている。

 いわゆる「遊び」だ。

 全力で書き絞りながら、どうやって面白くしてやろうかと楽しんで書いている余裕があるように感じられる。

 深刻な修羅場で不謹慎な冗談を口にしたり、ときに泣きながら笑ってしまったりするのが人間です。

 小説は虚構の世界を書いているのだけれども、そんな人間の精神が作品から受け取れたとき、一人の人格を持った他者に出会ったような体験となれるのである。


 ソウイチは昼食後、クルシェたちと〈白鴉屋〉に戻って、夜襲の準備をしています。つまり彼は、ここしばらくずっと大学に行っていないようです。

 以前、彼は家を出たと言っていましたが、進学か家業を継ぐかで親と揉め、進学を選んで家を出て一人暮らしをし、現在は学業よりも白鴉屋で働くことを優先しているわけです。このままでは彼は、大学を中退し、裏稼業へ就職することになるのではないかしらん。

 

 回想する中で、クルシェのことがいろいろと分かります。

 ただ、回想がすこしわかりにくく感じました。賢くて冷静な殺し屋なクルシェも、少女の一面があることを語りたいのなら、スカイエとのやり取りは割愛しててもよかったかもしれません。それでもあえて書かれているのは、このころのソウイチは今よりも大学に出席して後、店で働いていたことを伝えたかったのかもしれない。

 彼が差し出して使ったハンカチ、クルシェは洗って彼に返したのかしらん。


 ソナマナンの、強力な神経毒にする体液について考えてみる。

 体液とは、動物の体内にあるすべての液体のこと。

 なので、血液やリンパ液、組織液だけでなく、涙も涎も入る。汗や尿が含まれるかは微妙(分泌液や排出物だから)だけれども、若干の効果があるかもしれない。

 彼女の毒性はどの程度なのだろう。

 即効性があり口に入れたら神経麻痺に襲われ即死すると仮定すると、触れただけでも致命傷になりうるだろうか。持続性はどうだろう。

 もし即効性と持続性を兼ね備えているなら、体液を凍らせるか含ませた弾丸、あるいは水鉄砲で敵を狙っても殺すことができるだろう。手作りの飲食に忍ばせて、相手に送って食べさせて毒殺することも容易に行える。

 彼女から出る液体全てに毒性があるとした場合、彼女が店で飲んだグラスや席、テーブルには涎や汗が付着している。それらを洗うために触れると、掃除する者は間接的に毒に侵される可能性がでてくる。

 海でクラゲにうっかり触れただけで刺されたみたいに侵されるなら、彼女の汗などに触れただけで危険だ。スカイエやソウイチが掃除をする際は、ゴム手袋をしなければならない。なによりソウイチは以前、ソナマナンに抱きつかれている。いくら晩秋とはいえ、汗は年中かく。ソウイチは彼女の毒にあっという間に侵され……る描写はないので、汗の毒性はないかもしれない。

 吐息は危険かもしれない。冬に吐く白い息を吹きかけられただけでしびれる可能性もあるのでは、と想像する。

 彼女の血を輸血するのはアウトだし、キスもセックスも自殺行為。とはいえ、ハニートラップ的な暗殺には向いている。

 インドの「毒娘」の物語のように、彼女の体液は恐ろしい猛毒であり、触れた人間は即死するのだろう。

 首尾よく敵の妻として嫁がせることができれば、新婚初夜が最期となる。

 おそらく当初は、その手段で暗殺をくり返したことで、裏社会にその名を知らしめたことだろう。だから二年前、他所から移ってきたのだ。が、彼女の名が知れ渡り過ぎた現在、彼女を警戒して誰も近寄ろうとはしない。

 でも、クルシェとソウイチは一緒にいてくれる。

 だから、彼女は嬉しいのだ。 


 クルシェたちは〈月猟会〉へ殴り込むことにしました。

 少人数で大勢を相手にするとき、トップを狙うか弱点をつくか、人質を取るか。あるいは時間を駆けて弱体化を図るか、内部に潜伏し油断したころを見計らって襲うなど、手段は限られている。しかも、長い時間は駆けられないらしい。

 明確に依頼期限が決まっていると、彼女たちの緊迫感が増すかもしれない。

 それはともかく、クルシェたちが取った手段が〈別離にさよなら亭〉を占拠して、クオンの用心棒のどちらかがかけつけてくるだろうから、そいつを倒し、戦力をそいでいくというもの。

 なぜなのだろう。

 奇襲をかけるなら〈別離にさよなら亭〉ではなく、ターゲットであるクオンを狙って、彼のいる事務所へのりこむべきではないだろうか。

〈別離にさよなら亭〉で暴れるなら、こちらを囮とし、クオンの護衛人数を減らさせたところを見計らい、別動隊がクオンを襲う方法が成功性は高い気がする。

 なので、クルシェとソウイチは〈別離にさよなら亭〉で暴れ、ソナマナンがクオンの事務所を襲う二正面作戦を取りたかったはず。

 でも人員不足だし、九紫美とハチロウを共に相手にできるほどクルシェは強くもなく、またソナマナン一人が犠牲になる方法をクルシェたちは取りたくなかったから、本作戦となったみたい。

 彼女たちは、自分たちの誰かが犠牲になっても必ずやり遂げる、という強い使命感を持っているわけではないのだ。

 養父の仇を取りたいかもしれないけれど、国家に忠誠を誓っているわけでもなく、所詮はスカイエに雇われて金で動いているにすぎない。なにより、ソナマナンはともかく、クルシェとソウイチはまだ駆け出しで幼く、優しい。

 本作線のデメリットは、次から次にやってくる構成員を一人ずつ倒し続けなければならないため、クルシェたちの体力がいつまで持つのかわからない点だろう。


 クルシェとソナマナンの前に現れた、ウィロウ・ホワイトとコホシュ・ブラックは、エンパの手下だろう。

 彼女たちも、魔女かもしれない。


 よくよく考えてみると、本作では女性が戦っていることが多い。

 水華王国は魔女の系譜による女王が治めているため、魔女となれる女性が戦いに出てくるのだろう。

 こういう設定があるおかげで、異世界転生ものやファンタジーもので見られるハーレム状態の主人公という違和感が、本作ではあまり感じないのかもしれない。

  

 

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