『クルシェは殺すことにした』二十九話までの感想
クルシェは殺すことにした
作者 小語
https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367
クルシェたちが〈別離にさよなら亭〉を襲撃していることを知ったクオンは食事を済ませると、ハチロウ達を向かわせ、九紫美をつれて彼自身も出向くことにする。
一方、クルシェはウィロウの蹴りを受けつつ、亡きフリードから受け継いだ短刀〈死期視〉を奮って銃弾を弾く。ウィロウの一蹴に吹き飛ばされるクルシェ。飛んでくる銃弾に対してソウイチを盾に使って踏み込み、相手の一撃を受けながらもつれ込み、ウィロウの胸に〈死期視〉を突き刺した。
四百枚ほどの分量ならば折り返し点に入り、展開した物語が結末へ向かって動き出す頃です。
お話にメインプロットがあるのはもちろん、長編にはサブプロットが必要と言われます。本作のメインプロットが、「殺害依頼のクオンを殺せるか」なら、サブプロットは「養父のフリード殺害の仇を討てるか」だと思う。「クルシェは元の少女に戻れるか」もあるかもしれないけど、この仕事が終わった後も殺し屋を続けていく気がするので、これはないだろう。
サブプロットはメインプロットと結末に絡むことは必要だけど、第二幕に置かれることが多い。前すぎる位置に置くとメインプロットと勘違いされるから。
第一幕の中盤で、クルシェに同僚のフリードが返り討ちにあった依頼と同じ仕事が舞い込み、実行するかが問われる。フリードが養父だったことも明かされているので、メインとサブが一緒になっている感じがする。
第二幕の断章でフリードのことが語られているので、養父であることはそこまで明かさなくても良かったかもしれないのでは、と考えてみる。
リヒャルトを探していること、九紫美とクオンの関係、ウィロウとコホシュの素性、食事を終えたらクオンも向かうことが語られている。
状況が淡々と説明され、描写はクオンの食事と九紫美との会話に終止している印象。食事をメインに書きたい作品ではないので、力を入れるところと抜くところの、バランスを取っているように見受けられる。
店から逃げ出した人がクオンに通報したのでしょう。連絡を受けたクオンが動き出す、そのまえにお食事を堪能する。どんな料理だったのだろう。具体的なことは肉と苺くらいしかわからない。
ハチロウが、エンパと部下とともにリヒャルトを探している。
彼は〈白鴉屋〉を去った後、どこへ言ったのだろう。街に潜伏するにしても不慣れた土地だろうに。それとも、クオンやハチロウが探せないところに潜んでいるのかもしれない。
そもそも、ハチロウが始末しておけば、このような自体にはならなかった。その責任を感じて探し回っているのかもしれないけれど、どうしてハチロウは戦いをやめたのだろう。ひょっとしたら、ハチロウとリヒャルトは通じているのではと邪推したくなる。
盲点というのなら、リヒャルトは〈月猟会〉の現会長ラザッタのところに潜んでいるかもしれない。〈巡回裁判所〉を呼んだのがラザッタの差し金なら、充分可能性がある。
とはいえ、なにも証拠はない。
リヒャルトは応援を頼みに戻ったと考えるのが自然。だけど、部下を殺されておめおめ戻れるほどプライドがないようにはみえない。やはりどこかに潜んで今の状況をやり過ごしながら、彼の目的を成し遂げる機会が到来するのを、密かに待っているのだろう。
戦闘の描写が良い。
本作のウリの一つ。
人間ドラマをうまく書けたとしても、見せ場がいい加減だと全体の話がつまらなくなってしまう。なので、惜しげもなく書き込んでいく姿勢がいい。
ソウイチが背負っている背嚢には、雑誌等がいれられて、弾除けになることを序章で書いているし、〈別離にさよなら亭〉に乗り込む前に彼自身が準備していることも書かれていた。
なので余計な説明なく、すんなりクルシェに弾除けに使われるシーンが読める。
小気味よいシーン。
だけど、ソウイチにしたら酷い扱われようだ。
頭に直撃したら即死だった。
確実に仕留めるなら頭を狙う。が、外れるかもしれないので、まず動きを止めるために足を狙うか、的の大きな胴を狙うはず。
クルシェは一応、「ソウイチを後ろ向きにして円卓から引きずり出し」ているので、背嚢に撃ち込まれるよう気を使っている。
ウィロウは、どうして頭や脚を狙わなかったのだろう。
九紫美が〈月猟会〉に在籍して日が浅い彼女たちの経歴を思い出しているとき、ウィロウは「興行の格闘技選手をしていた」とあるので、肉弾戦は得意だが銃の扱いには不慣れなのだ。
もし相手が「かつて別大陸で警官をしていた」コホシュだったら、ソウイチは死んでたかもしれない。
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