『クルシェは殺すことにした』断章までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


〈巡回裁判所〉が泊まる宿にクオンたちが襲撃をかけて四人を殺害。剣技に優れたギャーツを倒したハチロウはこんなものかと戦意を失う。九紫美はリヒェルトに引き金を引こうとするも、先に動いた部下に発砲した隙をつかれて、彼に逃げられる。

 断章では、かつて九紫美の銃弾に倒れたフリードの回想が綴られる。貧しい村に生まれ、妹が死に、人殺しが一番稼げると知って殺し屋となり、依頼でクルシェを殺そうとしたとき妹を思い出して助け、故郷の花の名前を名付けたこと。戦いの技術を教えたこと。命を粗末にしないでくれと願いながら彼は果てた。


 本作をここまで読んできて、ふと物語が進むのは養父フリードに関係したときなのではと気づく。なので、クルシェの行動にはフリードが関わっているのでしょう。

 序章でクルシェは「勝手にソウイチが横道に入っていったんでしょう」といっていたけれど、養父が殺されたことを何処か引きずっていたためにソウイチを見失い、彼が殺されかけた場面に遭遇、養父が殺害された時の状況がよぎるも彼が無事だったとわかり安堵し戦闘に入る流れでは、と思う。

 思うのだけれど、その辺が今ひとつぼんやりしてる気がする。釣り糸を垂らして空をぼんやりな眺めているのも、養父が殺されて心ここにあらずだったのかしらん。

 クルシェが牛乳割りを飲んでいたのは、ひょっとするとお酒を飲んでいたフリードの真似をしているのかもしれない。ストレートでは強すぎるから、牛乳で割って飲んでいるのかも、と妄想してみる。


 それはさておき、強いと言われていた巡回裁判所の人たちと手合わせするも、あっさり倒してしまったせいでハチロウは興が冷めてしまった。とはいえ、まだ二人残っているので、気を抜くのはまだ早い。

 己の力を過信し慢心する者は、慢心によって滅びる。

 手負いの獣ほど恐ろしいものはない。

 せめてリヒャルトだけになるまで緊張を解いてはいけなかったのに。クオンのために邪魔者を排除するなら、ハチロウは最後まで斬り続けなくてはいけなかった。打ち合わせで、九紫美がとどめを刺すことになっていたのかもしれない。


 結果的に上司を生かすために犠牲となった名も知らぬ部下は、リヒャルトへの忠誠心が強かったのかもしれない。

 リヒャルトが九紫美の体をすり抜けて逃げたのは、虚を突いていて良かったです。

 ただ、窓はどういう作りになっていたのか気になりました。

 ボロ宿ならいざしらず、彼らが泊まっていたのは安宿ではない感じがする。そんな宿の窓を、勢いをつけて突き破ったのだから、リヒャルトは凄い。なにか硬いものを持っていたのかしらん。それとも、生き延びようとする意志の強さが爆発的に出たのかもしれない。

 彼は何処へ逃げただろう。

 自分たちの組織があるところへ戻ったのか。

 あるいは、誰かの助けを得ようと向かったか。

 前者である可能性もあるが、物語としては後者かもしれない。

 目的がとりあえず同じ方向を向いているクルシェたちの〈白鴉屋〉へ向かい、共闘する可能性が考えられる。


 クオンとエンパは、外でなにをしていたのだろう。

 リヒャルトがいたのは角部屋だったけれど、クオンたちは把握していたのだろうか。もし把握していたなら、窓の外にクオンたちが待ち構えていたはずなので、窓をぶち破って出てきたリヒャルトを仕留めることができたはず。逃したのは、リヒャルトの部屋の外にいたわけではないからだ。

 襲撃する際、綿密な打ち合わせをしなかったのだろうか。

 少ない人員で作戦を成功させるには、敵の退路を断つべき。だけど、襲撃よりもクオンの護衛にエンパを当てたのかもしれない。

 ひょっとすると、あの二人なら失敗はないだろうとクオンとエンパは思っていたのだろう。油断か、人手不足か。どちらにしてもクオンたちは連携がうまく取れていない。一人ひとりは能力が高くても、このメンバー全員で仕事をするのは初めてだったのかもしれない。


 クオンはどこに作戦成功のラインを持っていたのだろう。

 彼は九紫美に「君とハチロウがいて逃したのなら仕方がない」といっている。

 なので、全滅を目標としていたにちがいない。

「リヒャルト個人はともかく、〈巡回裁判所〉が組織として仕返しに来ることは無いだろう」「少なくともウチの実力は示したのだし、奴らが報復を考えるにしても、すぐに戦力を揃えることもできない」戦力を揃えた頃には「俺達がカナシアの支配者だ。もう簡単に手出しできるわけない」と、クオンは口にしている。が、根拠はなんだろう。リヒェルトよりも偉い人もいるはずなのに。巡回裁判所側も人員が乏しいのだろうか。

 クオンはどうして知っているのだろう。

 敵側の情報を掴んでいるのかしらん。


 断章では、九紫美の凶弾に倒れたフリードの最期が書かれている。

 このタイミングでフリードの話が入るのも、わかる気がする。

 以前クルシェがフリードを回想した際、「フリードが殺されたときの詳しい状況をスカイエは教えてくれなかったが、その遺体を目にすると腹から胸にかけて銃創があった」とあり、断章で九紫美に殺されたことがわかる。

 フリードを殺したのが九紫美、と読者にわかって良かったのかしらん。犯人探しではなく別な所に、本作のウリがあるのでしょう。

 また、貧しい村に生まれたフリードに妹がいて、貧しさ故に死んだ経緯があって、クルシェを助けるに至ったことも描かれている。

 命を狙われたから今後もあり得る、と彼女に戦い方を教えたのは、フリードなりの親心かもしれない。

 ろくに会話も成り立たない中、自分が知るのは人殺しのやり方だけ。他に教えてあげられるものを、彼は知らなかったのだ。

 教えてもらったのは、フリードが亡くなる三年ほど前からだとわかる。他にも、クルシェの殺害依頼をフリードは受けていたこと。彼女だけを殺せばいいのに、他の大人たちを殺しているのは、周りの大人が彼女をかばったからなのかもしれない。

 生かしておいてはためにならない理由が、クルシェにはあったのだろう。ある勢力の後継者か、恐ろしい魔力を引き継いだのか。

 フリードはクルシェが魔女だと知っていたところからも、クルシェは魔女だから、殺害依頼されたのではないかしらん。

 いまのところ、登場してきた女性でスカイエとエンパは魔女ではなさそうだけど……。


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