『クルシェは殺すことにした』二十話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


〈白鴉屋〉に帰宅したスカイエは、クルシェの報告に〈巡回裁判所〉の名を聞いて手を引くよう進めるが、すでに両陣営に喧嘩を売ったあとだった。商人の長男でるソウイチが、父の考えとは違うやり方で金を稼ごうとしてクルシェたちの手伝いをしていると知った頃、街の郊外にリヒャルトたち〈巡回裁判所〉が泊まる宿にクオンたちが襲撃を駆けた。三人斬ったあと、ハチロウの抜刀によって随一の剣士であるギアーツまで倒された。


 ソウイチのことがわかってきて、ワクワクします。


〈白鴉屋〉で働きだして一年くらい経つという。

 長年フリードが雇われていた所、二年前にソナマナンがやってきて、一年前にソウイチが働き出し、フリードが殺されて半年前にクルシェが殺し屋として活躍しはじめたということだ。クルシェは半年前から〈白鴉屋〉に顔を出していたかもしれないので、ソウイチとは少なくとも半年以上一年未満の間柄のようです。

 働く理由を、これまでクルシェは彼に尋ねたことがなかったらしい。仮にあっても、「お金のため」と彼は答えていたのだろう。

 ソウイチが店で作って出していた飲み物は、売り物ではなかったらしい。つまり彼女たちはただ酒を飲んでいたのだ。

 私の友人の弟が酒にこりだし「道具を揃えていろいろ作って飲ませてくれたけど、上手だから店でも開けばいいのに」と話してくれたことを思い出す。

 そんな感覚で二人は飲んでいたのかもしれない。

 ちなみに友人はザルだったので、お酒が飲めれば何でも良かったみたいだけれど……それはさておき。

 だとするとソウイチが出していたお茶も、店の売り物ではなかった可能性がある。


 ソウイチは、布の商売をしている父を持つ長男。反発して飛び出し、自分のやり方で稼ごうとしているのがわかる。父親は、親の代から引き継いできた商売をしているので、長男であるソウイチに継がせようとするのはわかる。優秀な弟たちがいることから、おそらく家族経営しているのだろう。

 父親とソウイチの考えが対立して出ていくのは、どちらも正しいからだ。代々の仕事を継がせようとする父と、今までのやり方では駄目とするソウイチの考えは、車の両輪であって、どちらも不可欠である。

 実在する企業を見ても、車ばかり作っていたところが不動産に乗り出したり、電化製品を作っていたところが化粧業界に参入したり、これまでとは違う分野に事業を広げていくのは、専門性に特化してばかりでは駄目になったとき倒産を免れないからだ。

 倒産を防ぐためには余力のあるうちに別分野へと投資をし、幅を広げていく必要がある。大型恐竜が滅んで鳥や小型動物が生き残ったり、専門性に特化したダイエーが負けてバラエティーに飛んだイオンが勝ち残ったように、専門性から多様性へ分化していくのは生き残る上では必要な流れである。

 酒場でお茶を出しているのは、ひょっとするとソウイチのアイデアかも知れない。水華王国にはお茶の産地もあるので、仕入れるのは容易く、口に入るものは形が残らず消えてしまう。なので、気に入れば何度も購入してくれる。これからは口に入るもので商売しよう、と彼は思いついたのかもしれない。

 割の良い給金だったからスカイエの酒場で働くことにしたのは、そんな彼の考えがあってのことかもしれない。


 殺し屋の手伝いをするようになったのは、スカイエ曰く「気が利くから、クルシェを手助けしてくれる」と思ったと答えている。よくよく考えてみれば、現在この場にいる男性は彼だけである。以前はフリードがいたが、彼が店の手伝いをしていたかはわからない。

 少なくとも男性の手があったほうが、荷物を運んだり掃除を點せたりするのには重宝する。元来、女性は掃除は苦手なものだから。それに、置かないよりはソウイチでもいいから置いておけば、店に変な男が寄り付かなくなるとスカイエは判断したかもしれない。

 でもきっと、他にも理由があるに違いない。


 そもそも夜になっても、客が身内みたいなクルシェとソナマナンだけでは経営が成り立たない。それとも準備中か定休日なのかしらん。

 おそらく店の経営は、殺人依頼の報酬という安定(?)した収入源のおかげで維持できているため、客の入らない酒場を構えていられるのだろう。

 ということは、スカイエが毎日出かけているのは、営業に飛び回っているに違いない。「人殺しはいかがですか? いまなら一人の依頼料で二人まで引き受けます。ただいまキャンペーン中につき、次回予約をされたお客様には二十五パーセント依頼料から値引きします。お得ですよ、いかがですか」とプレゼンをして回っているのかもしれない。

 そう考えると、フリードなき今、クルシェには頑張って働いて稼いでもらわないといけない。だから〈巡回裁判所〉の名を聞いて、クオン殺害をやめようと言いかけたのかもしれない。

「クルシェとソウイチの二色の双眸の標的」「クルシェとソウイチの間に、不可視の火花が飛び散る」などの描写は、端的で状況を思い起こさせるいい表現だ。

 場に四人いながらソナマナンを寝かせることで、会話するキャラを三人に減らしているのはうまい削減。


 一般的なラノベ応募の枚数上限は四百枚。

 この辺りで原稿用紙換算百枚ほどなので、三部構成でいうところの第一幕が終わった感じでしょう。三部構成で考えると割合は、1対2対1。

 ここから第二幕がはじまるのかしらん。


 クオンたちは〈巡回裁判所〉が泊まる宿を襲撃する際、車で移動してきている。いまだに本作品世界の文明レベルを図りきれない。私たちが暮らす現代社会のように発展しているが、剣と魔法が存在するかわりにネットやスマホなどが普及していない二十世紀ぐらいの世界なのかもしれない。

 車とあるけれど、どのような車種だろう。

「芝生のなかに枝分かれした小道が幾つかの建物」「独立した平屋ごとに旅行客などが宿泊する型の施設」とあるので、コテージやグランピングできるような平屋の施設が点在し、そのうちの一つに〈巡回裁判所〉は宿泊しているのだ。

 他の施設に宿泊している人はいないのだろうか。いたとしても、騒ぎになっていないから、クオンたちの行動は気づかれていないのかもしれない。

 宿を経営している人は、おそらく管理施設にいる。なので、〈巡回裁判所〉が宿泊している平屋の中には、彼らしかいない。

 九紫美はともかく、ハチロウはどうやって侵入したのだろう。裏口からこっそりだろうか。正面玄関から堂々と入ったのだろうか。

 玄関に鍵はかけてなかったのかしらん。

 きっと、九紫美が魔力で開けたのだ。


 平屋の内部構造はどうなっていて、各部屋の広さはどのくらいだろう。二人部屋の寝室が三つあるらしい。キッチンやリビングはないのかしらん。話し合いなら、リビングですれば良いのに。きっとリビングがないのでしょう。

 二人一部屋だとし、「一間だけの室内は一組の寝台と冷蔵庫など最低限の家具が揃って」いるとしても、どのくらいの部屋の広さがあり、天井までの高さがどれほどかもわかりにくい。

 ハチロウの刀は二尺弱、柄を入れての長さだと思われるので、六十センチ弱。ポスターを丸めたくらいの長さと仮定する。

 対して〈巡回裁判所〉の刀は二尺以上あるので、ハチロウの持っているものよりも長い。

 部屋に入ったハチロウに対して、寝台に腰掛けて酒を飲んでいたリオッツは缶を投げつけ「胸元の拳銃に手を伸ばす」も、ハチロウは自身の刀を投げる。リオッツの胸に突き刺さり「声もなく寝台の後ろに転げ落ちる」様を目の当たりにしたロレンは「剣を振り下ろす」もハチロウは、「右半身になりつつ上体を沈めて回避」し、ロレンの胸部に右手を手刀の形で突き刺したのだ。

 ベッドに腰掛けていたリオッツが「寝台の後ろに転げ落ち」たとある。つまり、ベッドは部屋の壁際に置かれていなかったのだ。

 おそらく入り口から入ったとき、ベッドは縦でなく横、枕側を壁際にして置かれている部屋だと推測される。でなければ、「寝台の後ろに転げ落ちる」という表現を使わないから。

 ロレンは上段の構えから振り下ろしたのだろうか。普通刀は突き刺すもの。室内ならば、なおさら振り上げない。そもそも、それができるだけの天井の高さがあった部屋なのだろう。

 仲間を殺され逆上し、刀を投げ捨て丸腰になった相手を見て油断して振り上げてはハチロウに一撃を与えようとした。

 手刀を胸に突き刺して相手を倒すとは、ハチロウは日頃から砂の入った瓶に手刀を突き立てる訓練でもしていたのかもしれない。

 腹部ならまだしも肋骨のある胸部より、急所である喉を狙ったほうが確実な気もする。が、彼自身は胸部で絶命できると思っているから胸を狙ったのだろう。生身の右手ではないのかもしれない。

 また、缶ビールや缶酎ハイみたいなものがある世界だとわかる。


 二人が倒されたことを、リヒャルトたちは気づいていない。

 物音が聞こえなかったのだろう。壁が厚く、それなりの防音がなされているにちがいない。晩秋だから夜は寒く、窓が開いていないことも幸いしたのだろう。そもそも〈巡回裁判所〉が宿泊する宿は、安宿ではない、ということだ。それでも、隣接している部屋なら気づいたかもしれない。おそらく、ロレンたちがいた部屋の隣に泊まる二人は、リヒャルトのいる部屋にいたからだと推測する。

 窓際の寝台にリヒャルトが腰掛け、近くの備え付けのイスにギャーツともうひとりが腰掛け、扉側の寝台の脇に一人立っている。

 九紫美が忍び込んでリヒェルトの後頭部に銃を突きつけられる中、ハチロウが入口近くに立つ男の一撃を、時計回りに回転しながらかわしつつ胴を薙ぎ払う。つぎに、屈指の剣技を誇るギャーツの上段構えから〈胎破刀〉だと見抜きいたハチロウは、腕試しに師匠を斬ったと挑発、一刀のもとに倒した。

 上段の構えができるほど天井は高かったのかしらん。

 たとえそうだとしても、彼が習った刀法では、室内での抜刀の際も上段の構えをするよう教えていたのだろうか。きっとそうなのだろう。ハチロウのように中段の構えをして突き刺すような動きでないと、長物を振り回すのは不利ではないかしらん。

 水華王国の武官は剣の修練が必須。とはいえ、〈巡回裁判所〉も銃を携帯するようなので、実戦経験は乏しいのかもしれない。

 武官内での対抗試合では優秀だったギャーツも、実戦経験は足らなかったに違いない。だとすると、銃で迎え撃つほうが懸命なのではないだろうか。少なくともリオッツは銃を抜こうとしていた。剣の修練が必須な彼らは、銃の実戦経験は乏しかったかもしれない。


 敵側が強い、というのは良いですね。

〈巡回裁判所〉は名前倒れな感じがあります。

 今後のリヒェルトの活躍に期待しましょう。

 

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