『クルシェは殺すことにした』十八話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


 夕暮れにクオンの事務所に戻ったハチロウを待ち構えていたのは、現会長のラザッタの息がかかった〈月猟会〉の構成員である〈蜂の巣〉エンパとその部下二名、そしてクオンと『影嬢』とも呼ばれる九紫美だった。〈白鴉屋〉の依頼で動いているクルシェ達三人と〈巡回裁判所〉上級審問官のリヒャルトが自分たちを嗅ぎ回っていると話したクオンは、まずは〈巡回裁判所〉を掃討することにした。

〈白鴉屋〉に戻ったクリシェ達は酒を飲みながら、〈月猟会〉と〈巡回裁判所〉が共倒れしてくれたら楽なのにと思いつつ、そう簡単にいかないと予期もしていた。


 敵側のクオン陣営は一枚岩ではなく、それぞれ思惑がありそうです。


 クオンの配下にいる〈蜂の巣〉エンパは、正式な〈月猟会〉の構成員であり、現会長のラザッタからクオンの支援という名目で貸しだされているが、仕入れた情報を飼い主である現会長に逐一報告するためのスパイをしているらしい。

 エンパの二人の部下が有能で利用できるから、クオンはエンパを受け入れている、と説明されている。

 つまり、クオンはエンパが現会長のスパイをしていることを把握しているということだ。現会長を蹴落としたい彼としては、それ以外の情報を彼女に与え、ハチロウと九紫美を信用しているということでしょう。

 エンパがいつ裏切るのか、あるいは、信用していたハチロウたちがクオンを裏切る可能性もありえる。インパクトが大きいのは後者だけれども、今後どうなっていくのかが楽しみ。


 二つ名があるのが面白い。

〈蜂の巣〉エンパは機関銃を乱射するからなのはわかりやすい。

〈花散らしのハチロウ〉は、若い女性が花散るように命を失った〈花散らし事件〉の濡れ衣からきているらしい。少女連続殺人事件の犯人でもないのに二つ名で呼ばれるのは、彼として嬉しくないし不愉快に違いない。

 九紫美は、ハチロウから『影嬢』と呼ばれている。あだ名だろう。「壁をすり抜けたとしか思えない方法で出現した」とあるが、ハチロウからの呼び名でもわかるように、普段は影の中にいて、自在に出入りする。それが彼女の能力であり、彼女も魔女なのだろう。素直に考えれば、〈巡回裁判所〉の目的は彼女に違いない。

 だとすると、巡回裁判所に破れたクオン側が、連れ去られた九紫美を助けるためにクルシェたちに助力を頼む流れが思い浮かぶも、そのためには先にクルシェたちと一線交えておかなくてはならない(対面はしたけど、まだ互いの実力を測りきれていない)ので、そうはならないはず。今後の展開はどうなるのか、実に楽しみである。


 有名な仲介人である〈白鴉屋〉のスカイエからの依頼を専属で請ける殺し屋のクルシェには、〈黙約のクルシェ〉という二つ名がつけられていた。「狙われた人物は必ず命を落とす、それが暗黙のうちに約束されている」という意味らしい。

 他者から、主人公はどういう存在なのかが語られていると、余計な説明をせずにすむ。一番素直に展開させるなら、序章の戦闘で死んだ男は〈月猟会〉の構成員の一人だったとしておけば、クオンは「あいつは俺達の中では最弱なやつだった。とはいえ、殺ったやつの腕は大したものだ」と、クルシェの力量を測れたのに……と妄想してみる。

 また、「クルシェも活動期間はここ半年だけで、それなりの実績を上げている」とあるので、おそらくスカイエの下で殺し屋をはじめたのは半年前から。養父のフリードが死んだのも、半年前なのだろう。

 だとするならば、ソウイチが〈白鴉屋〉で働き出したのは、いつだろう。フリードのことを知っているみたいだし、ソナマナンと親しいので、ソナマナンがやってきた二年くらい前から働き出したのかもしれない。


〈毒婦〉のソナマナンは、クオンやエンパたちには有名だった。彼女は「ここ二年ほど前にカナシアに流れてきた」らしい。とはいえ、九紫美とハチロウは知らない。理由は「二人ともこの街の裏社会に精通しているとは言い難いから」とある。

 九紫美は、今ひとつどのような経緯でクオンとともにいるのかわからないため、彼女が知らないのは不思議に感じない。でもハチロウは三年前に少女連続殺人の容疑で憲兵隊に拘束されかけ、大陸に逃れてきたのだ。なので、ソナマナンが二年前から活躍していたことを、クオンの下で働いているなら耳に入れていても良さそうな気がする。それとも、雇われたのはもっと日が浅く、半年か一年ほど前からなのかもしれない。

 彼女の魔力は、体液毒で相手を確実に絶命させるという。ハニートラップ的な色仕掛けで男を籠絡しては、ベッドの上で肌を重ねて至らしめているのかもしれない。ソウイチが彼女の色仕掛けに靡かないのも、彼女の魔力がなにかを知っているからではないかしらん。

 年間四十人以上を殺害し、殺害ランキングではベスト5に入るらしい。まだその上がいると思うと、この町ではどれだけの人間が殺されているのだろうか。実に物騒な世界である。

 ソウイチに関して、「クオンが情報を上げても声を出す者はいない」とある。ソウイチがハチロウの情報を語ったとき、誰も反応を示さなかった。

 ハチロウは同じハクラン人だが、早くに大陸へ渡ったソウイチの一族のことを知らなかったと思われる。早々と、見せしめとして殺されることが決定したソウイチ。敵味方からも軽んじられてしまう彼の今後の活躍に期待します。


 クオンは、クルシェたち〈白鴉屋〉の件は後回しにした。経験の浅さを加味してクルシェにソナマナンをつけ、もう一人は雑用係。彼らにとって取るに足りない相手だった。仲介屋の〈白鴉屋〉の場所も把握しているのだろう。いつでも殺れる、と思い、〈巡回裁判所〉を先に排除することを決定する。

 水華王国にとって害悪となる魔女を狩るための〈巡回裁判所〉を、クオンは警戒している。ハチロウも十二話で、彼らが巡察しているのをしって「彼女を狙っているので?」とクオンに聞き返しているところからみても、九紫美は魔女なのだろう。


 なぜ彼女はクオンのもとにいるのか?

 エンパを除いて、ハチロウと九紫美はクオンの考えに賛同しているから傍にいるのだろう。

 つまり、現会長を蹴落とし〈月猟会〉を手中にいれ、さらなる勢力拡大に乗り出すクオンと同じ目的だから、九紫美は傍にいる。

 ベタな考えをするなら、クオンが好きだから一緒にいるのかもしれない。

 現会長は、のし上がってくるクオンを面白くないとみて潰しにかかっていると仮定すると、〈巡回裁判所〉を招いたのは現会長のラザッタの差し金かもしれない。だとすると、ラザッタは九紫美の存在を知っていることになる。知っているなら、魔女である彼女の能力についても当然知っているにちがいない。

 もともと九紫美はラザッタに仕えていたが、彼女の能力をうまく使えず、クオンに与えたのではないだろうか。きっとラザッタは、力づくでいうことを聞かせていたのだろう。

 クオンはラザッタとは違い、彼女を大事に扱ったのだろう。そういう経緯があって、のし上がろうとするクオンのために九紫美は力を奮い、クオンは九紫美を守ろうと現会長を倒そうと励み、ハチロウは助けてもらった恩で動いているのかもしれない。

 そのために、邪魔者は排除の対象となる。

 だから、クオン側の動きを待っているクリシェたちより、〈巡回裁判所〉を先に始末しようと行動するのだろう。


 夜の街の様子が描かれている。「天空から降りかかる闇に抵抗するように人工の明かりで暗黒を払拭し」「昼間は無表情だった電飾も今は煌々と華やかな光を放」つ街灯の存在が伺える。

 昼間は閑散としている〈白鴉屋〉のある通りの夜は明るそうだ。

「媚びを売って腹のなかへと客を収めようと必死な面持ち」というのがモヤッとした。きっと、店の中へ集客しようと光が一役買っている様をえがいているのだろうけれども、わかりにくい。これだと、光の腹の中に客を収めようとしてるみたい。

 通りは喧騒としているのに、〈白鴉屋〉は「端然と静謐を保って営業」している。おまけに「少数の常連しかいない」店らしく、その常連がこなければ「クルシェとソナマナンしか席を埋める存在はいない」状態なのだ。

 常に閑古鳥が鳴いていては、経営が成り立たない。非常に心配になってくる。


 その夜、〈白鴉屋〉でクルシェたちは酒を飲んでいる。ソナマナンは湯気の立つ黒い液体、麦焼酎の珈琲割りを飲んでいる。

 ソウイチは麦酒ビアを飲み、クルシェは何を飲んでいるかわからないがお酒を飲んでいるみたい。宵の口ではあるが夜なので、酒が出されるのだろう。今日は魔力消費をしていないため、お酒を飲んでいるのかしらん。

「ソウイチはクルシェの酒杯が空になったのを見計らって新しい酒を差し出した。スカイエに店番を任されるだけあって、こういうところは如才ない」とある。

 店の売上のためには、酒を飲んで支払ってもらうに限る。だから、カラになったグラスに注いではどんどん飲んでもらい、まいどありと勘定を頂くに越したことはない。

 でも、カラになったからといって、すぐ新しい酒を差し出すのはどうなんだろう。客が注文していないのに商品が出てきて、飲んだら支払わされるのでは、うかつに飲めなくなるのではないかしらん。

 お金が大好きなソウイチとしては、自身の給料は店の売上から来ていることを知っているからこそ、彼女たちにはじゃんじゃん飲んでもらって、しっかり払ってもらい、ガッポガッポと稼ごうとする考えが身に染み付いている現れかもしれない。

 つまり、スカイエはお金稼ぎが好きなのだ。

 え、この後を読んだら違う?

 作ってるお酒は……そうだったのか。

 ところで、スカイエは所用で留守にしていることが多い気がする。普段はなにをしているのかしらん。

 そういえば、ソナマナンは何歳くらいなのかしらん。ソウイチやクルシェよりも歳上なのが伺える。

 彼女はソウイチに「あとで家まで送ってちょうだいね」といって断られているが、彼を気に入っているのかもしれないし、あるいは、彼を襲おうとしているのかもしれない。色んな意味で。

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