『クルシェは殺すことにした』十四話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


 依頼を受けたクルシェは支度を整え、ソウイチとソナマナンと共に〈月猟会〉が縄張りとするカナシア北部の街、サクラノに向かう。〈月猟会〉の居場所はわかっているが、多勢に無勢。そこで、向こうから出てきてもらうべく、歓楽街の店々を訪ね歩いて、わざと目立つ行動をとる。

 クルシェたちは〈別離にさよなら亭〉で、水華王国の害悪となりうる魔女を駆除する〈巡回裁判所〉がうちの一人、上級審問官のリヒャルトと、〈月猟会〉で用心棒をしているハチロウ・ヤマナミと対面し、退散する。邪魔と判断して排除しに来ることを願いつつ、クルシェは養父を殺した相手が誰かを聞き出そうと決意する。



 盛り上がってまいりました。

 九話から第二章がはじまった感じがします。

 やや説明的なところが気になるものの、伏線かもしれません。


 手のひらに短刀を突き立てては、体内にしまい込んでいくクルシェの特殊能力が実に興味深い。

 女性のみ、特殊能力を有していて彼女たちを魔女と呼び、個体差によって魔力の質が違うという。個性のように、有している特殊能力が異なっているようです。

 EATMANという作品がふと浮かぶ。

 映像にしたとき、クルシェが黙々と短刀を手の中に入れる姿を描くだけにして戦うときは次々と短刀を出していく戦闘描写をすれば、あのとき短刀を体にしまっていたのはそういうことだったんだ、と読者はクルシェの特殊能力がわかる気もする。

 なにも知らないキャラクターがここにいて、彼女はなにしてるんですかとソウイチに尋ねて説明してもらう方法もあったと思う。なにも知らないキャラクターがいないので、この方法は使えない。

 ソウイチはクルシェが魔女だと知っているのは、それだけ長く働いているからと思われます。あるいは、魔女はそういうものだという認識を持っているのかもしれない。

 

 気になったのが、飲み物の説明。

 これまでにソウイチはルイボスティー、ソウナマナンはクコ茶、クリシェは蒸留酒の牛乳割りを飲んでいました。

 面白いのは、ルイボスティーもクコも蒸留酒にも、不老長寿に効くとされた飲み物である点。一見、それぞれ違うものを飲みながら、効能が同じなのは何かしら意味があるのかもしれないと想像すると、読むのも楽しくなってきます。

 今回クリシェが飲む甜茶には、「水華王朝でしか栽培されていないバラ科のテンヨウケンコウシという茶葉」で作られ、「茶葉に含まれる成分、甜茶糖は甘味が強いにもかかわらず、砂糖などと異なり熱量カロリイが少ないため太りづらい。また独特の成分が花粉症などの免疫系の症状を抑える働きがあるとされている」とやけに説明されています。

 水華王国には、女王が居住する首都の『メレオリア』、茶葉生産地帯の『フィオーリア』、第三の新興都市『カナシア』の三都市を有しています。

 物語の舞台は第三の新興都市カナシアだが、水華王国は茶葉生産地帯のフォーリアを有していることを考えると、王国内ではお茶を飲むのが一般的なのかしらん。

 また、水華王国成立には、魔女であった者が初代女王となり、歴代君主には初代女王の強力な魔力を受け継いだ娘が君臨してきている。また、古くからの神話では、世界を創生した神々はすべて女神であったとされ、人外の魔力を有するのは女性に限られているのは、女神の力を受け継いでいるから、とあります。

 甜茶には不老長寿の効能はないですが、アレルギー抑制効果があります。

 短刀という異物を体内に取り込むため、免疫を上げるために飲むのかしらん。

 そもそも〈白鴉屋〉は酒場であるにもかかわらず、お茶を飲んでいるのは気になって仕方がない。

 ひょっとすると、魔力の源はお茶にあるのかもしれない。そう考えるとクリシェが牛乳割りを飲んだのはどうしてだろう。仕事が終わったけど、魔力をさほど消費しなかったから、お茶を飲まなくても済んだのかしらん。だったらストレートではなく、なぜ牛乳割りなのだろう。ここは素直に、お酒は苦手だから牛乳で割って飲みやすくしているのかも。

 けど、ソウイチはルイボスティー、ソウナマナンはクコ茶を飲んでいる。二人こそ、大した働きをしてないような……。

 不思議なのは、酒場であるはずの〈白鴉屋〉でなぜお茶を出せるのか。ひょっとして日中は喫茶店、夜は酒場と変えて営業をしている可能性も考えられる。そう考えると、昼間は魔女が利用する店として営業しているのかもしれない。

 だとすると、ソウイチがルイボスティーを飲んでいるのが引っかかる。ひょっとすると、彼も能力持ちかもしれない。今後の彼の活躍に期待したいところです。


 ソウイチが囮になるのを、色仕掛けで迫るソナマナンには首を縦に振らず、クリシェが迫ると「やりましょう」と引き受け、ソナマナンが打ちのめされて「ロリコンめっ」みたいに揶揄するところは面白く、実際は彼に金を握らせ承諾させたところが素晴らしい。彼の、お金で動く性格がぶれていないからだ。

 ソウイチは忍たま乱太郎に出てくる、きり丸のような子。今後、大金を積まれたら寝返る可能性もあるので、その時が来たら彼がどのような判断をするのか、想像すると実に興味深い。

 一話冒頭の釣りが、ソウイチを囮に〈月猟会〉を釣ろうとするところにつながるのは実に面白い。

 

 クオンの容姿や室内などが書かれている。彼は「長身の細面は眉目の整った美男」とあり、イケメンさんだ。とはいえ、座った状態だと彼が長身かどうかわかりにくい。足を組んでいたのかもしれない。映像にしたときは立ちながら電話をして何かと比較させると、長身が映える気がする。ハチロウと対面するので彼に見上げてもらうのもいいかもしれない。

 ハチロウはこのとき、どこへ行っていたのだろう。用心棒の彼はクオンの傍にいなくて良いのだろうか。「この時間なら、どこかの酒場に顔を出しているだろう」とあるので、日中は酒場で飲んだくれているのを雇っている彼は把握し、また許している。いざとなったら役に立つからそれくらいは大目に見ている、ということなのかしらん。酒場にいるからといって飲んでいるとは限らず、見回りをしているのかもしれない。

 ハチロウの説明で「本国にて随一の剣技を誇った男が少女連続殺人の濡れ衣を着せられ、大陸に逃れて犯罪集団の用心棒にまで零落した姿がそこにあった」とある。

 ソウイチからの報告でも、ハチロウが少女連続殺人容疑をかけられた話が出ていたので、この場面であらためて重複する必要があるのかしらん。自分はやっていない、と主張したいハチロウの思いの現れかもしれない。

 クオンは誰かを匿っている女性がいるらしい。ハチロウも知っていて、〈巡回裁判所〉を警戒しているのがわかる。また、現会長を蹴落としてのし上がろうとする野心ももっているようだ。


〈別離にさよなら亭〉を訪ねるクルシェ達。この店に限らず、ネーミングが特徴的で、なにやら可愛らしい。

 店内で出会った〈巡回裁判所〉上級審問官のリヒャルトとの会話で、ソナマナンが「多分あなたと目的は同じじゃないかしら」と答えたとき、「当面はそうだとしても、私達の最終目的は〈月猟会〉ではないので」と、別の目的があるんですよと教えてくれている。喋りたがり屋の性格なのかもしれない。仕事抜きながら、しゃべってくれそうな雰囲気がある。

 リヒャルトは「私達は民間人にはとても優しいのです。ま、魔女はその限りではありませんがね。……わっ‼」と、ソウイチに顔を近づけて声を上げて驚かしている。ソウイチになにかしら興味をいだいた、ということかしらん。色んな意味で。

 ハチロウが店に来て彼らと対峙し、名乗ったとき、「……キャシーです」「あ、ずっこい! じゃ、俺もツヨシです!」と答えたソナマナンとソウイチが面白い。この二人はお笑い担当かもしれない。いいコンビである。二人がいなければ、全体的にシリアスで重い作品になるのだろう。

 店を出た後、〈月猟会〉に雇われているハチロウに顔を知られ、当初の目的は達せられた。邪魔と判断されれば排除に来る。クルシェたちの目的は、クオンなので、やってくる用心棒を一人ずつ片付けていくという戦法をとることにしたのだろう。

 でも、「誰が目の前に現れても、力ずくで情報を聞き出すまでよ」と、クリシェは養父フリードを殺した相手が誰かを聞き出そうとしている。仕事の依頼を引き受けたのは、私怨だったのがわかる。

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