第7話 サークル活動


 通された三階の角部屋は、廊下側に共用のリビングスペースがあり、奥側にそれぞれの個室、さらにシャワールームとトイレも備えた二人部屋だった。

 リビングには新緑色のカーペットと白木風のテーブルが設けられ、個室にもデスクとベッドが用意されている。南向きの窓からは、町並みの奥に太平洋の水面も確認できた。

「良いお部屋ですね、陽当たりも良くって」

 一通り見回って、桐華はニャーに笑顔を向けた。

「サツキ寮は、この街の女子寮の中でも、特に設備面で充実しているところだからね。競争率も高いのよ」

 そう答えつつ、ニャーはテーブルに茶器を並べる。急須にも茶碗にも、細やかな筆致で草花が描かれている。二人も順にテーブルの周りに腰を下ろした。

 そして、ニャーの入れた濃いめの緑茶を味わいつつ、寮に関する規則についていくつか説明を受けた。門限であったり、共用スペースの使い方であったり――

「……とりあえずは、こんなところかしら」

 ニャーが話を区切り、「訊きたいことはある?」と二人に目配りをする。

「はい」と桐華は挙手した。「ニャー先輩って日本語が上手ですね。どれくらい日本にいるんですか?」

 横手で睦美が怪訝けげんな顔をする。対して、ニャーはおおらかな笑みを崩さない。

「この春から六年目かしら。でも、ハノイの家が陶器専門の土産物屋をしていて、日本からのお客さんも多かったから、日本語には昔から慣れ親しんでいたのよ」

「以前から留学希望だったんですか?」

「そう、観光のこととか勉強してみたいなって。まぁ、今は留学費用を返すのに、寮長の仕事で忙しくもしてるんだけどね」

 ニャーいわく、この街は学生のほうが多いため、都市運営にも学生が関わっている。学生局員制度といって、勤労の対価として一定の奨学金ももらえる制度なのだとか。

「サークル活動とはまた違う、やりがいのある青春よ」とニャー。「二人は、サークルとかの活動に参加するつもりはあるの?」

「気になってはいるんですが、迷ってて。魔術酔いがするものですから、魔術関係の活動は敬遠してて」

 桐華の答えに、「それは返事に困るわね」とニャーは小さく笑う。睦美はさりげなく、急須に手を伸ばす。

「サークル活動って、どんなものがあるんですか?」と桐華。

「いろいろあるわよ」とニャー。「魔術と関係ない文化系や体育系のサークルもあるから、青木さんも探してみれば良いんじゃないかしら。でも、やっぱり花形は魔術系の活動なのよね」

「それって例えば、魔術格闘技とか? 知り合いがそこにサークルにいるんですけど」

「そう、魔術で身体を強くしたり、あるいは技を出したりして戦う対人競技ね。男子の人気は高いけど、怪我が多くて医務局泣かせだって、聞いたこともあるけれど」

 それと、とニャーは指を一本立てた。

「逆に、魔術を使って技術性や美しさを競うのが、アーティスティックマギアね。ほら、在校生代表の挨拶をしていた小笠原リサさん、彼女はそれの大会で全国制覇したのよ」

「へぇ、すごいですね」

 桐華は感嘆しつつ、横目で睦美を見る。こちらは会話に入らずに静かに茶をすすっている。

「でも」と目線を戻す。「やっぱりそう言うのって、魔術が得意じゃないと無理ですよね」

「確かに、魔術酔いがしちゃうなら難しいかもしれないわね。でも、裏方なら魔術プログラミングの勉強にうってつけだと思うわよ」

「裏方?」

「そう。演技する側じゃなくて、演目に合わせて魔術の構成やプログラミングを担う方。いわば、ダンスの振付師みたいなものね。アーティスティックマギアは、演技者と魔術がかみ合わないと得点にならないから。

 実際、小笠原リサさんも去年くらいにフィンランドのプログラマーと出会って、それから急成長したのよ」

「フィンランドですか?」

「らしいわよ。イルモ・ライネって人で、今年から彼も日本に来るんですって。男子寮に勤めてる友人が言ってたわ」

「へぇ、そうなんだ」と桐華は首を縦に振る。「なるほど、そういうことかぁ」

 ニャーと睦美がそろって不思議そうな目を桐華に向けた。

 桐華は睦実に向かって片えくぼを作った。

「睦美、私わかっちゃったよ、ようやく」

「……な、何が?」と睦美。

「そのイルモ・ライネって人、前に会ったことあるんでしょ?」





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