エイプリルフール
奏羽
雄介の部屋にて
四月の一日、
特にすることもないので、スマホで動画を観ながら、大きなクッションの上にうつ伏せで寝転んでいた。
「そういえばさ、ここのアパート出るって噂あるんだ」
「なんでも、幼い少女の幽霊らしくて、一家心中した家族が昔いたらしいんだけど、その家族の娘だけがアパートの階段で座りながら泣いてるらしいんだ。こえーよな。まっ嘘なんだけどな」
さっきからこんな調子でペラペラとくだらない話をしてくる。最初は怖がったが、無視をすればいいと気付き、スマホの動画に集中することにした。
「今度は本当なんだけど、この近くの道路で昔事故があったんだ。女子高校生がでけえトラックに轢かれたらしくて、もうぐちゃぐちゃ。幽霊とかは出ないけど、毎年事故の日になると、赤い何かを引き摺ったような跡が道路にあるとかなんとか…」
「…その事故の日が…なんと今日!…嘘だけど」
観ていた動画が終わりそうだったので、関連動画から適当な動画を選び、新しく動画を観始める。
「じゃあ、これはマジ!これはガチでマジの話!実はこの部屋が事故物件なのよ。なんでも精神病の男が自分の首をカッターで切って自殺したとか、なんとか。よくわかんないけど、カッターの切れ味が悪かったのか、そもそもがすぐに死ねない死に方なのか、血だらけのままでこの部屋中を歩き回ったらしいぜ。だから、この部屋は他の部屋と比べて、内装が新しいらしい」
横目で部屋の壁を見る。確かにアパートの外見にしては、新しめの壁紙のように見える。
「あっ!今信じた?うそうそ、騙された?」
ケラケラと笑う声が聞こえる。スマホの音量を上げることにした。
「…こればっかりはガチな話なんだけど、この部屋が事故物件っていうのは本当なんだ」
「昔、この部屋にOLの女が一人暮らししてたんだって、それも美人で愛嬌も良くて、色々な人に好かれてたんだ。でもそんなに美人だと、やっぱり変な男が寄ってくるわけ」
「ある日、女が残業で遅くなって、夜中にこの部屋に帰ってきたんだ。かなり遅い時間で、早く寝なきゃと思っていると…突然インターホンが鳴ったんだ。流石に怪しいと思って、ドアスコープから覗くと一週間前に駅で落とし物拾ってあげた男が立っていた」
「なんで、どうして、と思っていると、今度はドアノブをガチャガチャとする音が聞こえてくる」
その時、背後の玄関の方から、ドアノブをいじる音が聞こえてくる。最初は軽くだったのに、次第にガチャガチャと大きな音をたてるようになった。
「ドアもドンドンと叩くようになり、女も怖くなって警察に通報しようとしたんだ」
ドアを強く叩く音が聞こえる。怖くなって、クッションに顔を押し付けて、目を瞑る。
「…突然ピタッと音が止んだ。長い間息を止めていた女だが、安心して大きく息を吐いた。すると今度は鍵がカチャッと開く音が静かに鳴った」
「ゆっくりとドアが開いていく、女は声も出なかった。そして…開いたドアの向こうには…」
ドアの錠がカチャッと音を出す。ドアが重々しく開いていく音が聞こえる。
「
雄介の声が聞こえてくる。恐る恐る振り向くと、雄介が両手にコンビニの袋を持って、立っていた。
「さて、映画観ようぜ。エイプリルフールと言えば、やっぱりこの 『四月一日の怪異 嘘子』シリーズ…」
「ね、ねえ」
震えた声で雄介に話しかける。雄介はキョトンとした顔で私のことを見つめる。
「や、やっぱり事故物件に住むのはやめなよ」
エイプリルフール 奏羽 @soubane
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