第33話 異次元の民 チャプター6 久遠の神話

「やったやった! おねえちゃんすごい!」


「かっこよかった!」


「二人とも無事でよかったわ。ありがとう。それに、ケルーもね」


 そう、ケルーのおかげで無事二人を守り切れた。


「ごめんなさい、私あなたのことをずっと警戒していたわ。もしかしたら私たちを襲うんじゃないかって……でも違ったわ。あなたは私たちを守ってくれてたのよね」


『ケルルル……』


 半透明で表情は読み取れないけれど、きっと笑ってくれているのよね。


「良かったら私たちのところに来ない? みんな理解のある人たちばかりだからきっと受け入れて……っ!?」


 嫌な気配が背中に突き刺さった。振り返ると同時にまだ立ち込めていた霧からもう一体のマグニが飛び出してきた!


 さっきより若干小柄で長い髪のマグニは奇声を上げながら走って向かって来る。


「二人とも下がって!」


 剣を構える! でもマグニは私の間合いに入ることは無かった。


「グァッ!? グギギャアアアアァ!」


 マグニが横へ押し流されていく。側面から叩き込まれたビームによって押しのけられて宙を舞い、尚も照射し続けられる光線によって限界を迎えてあってなく爆発した。


「ナイスなタイミングよ、相沢君」


 光線の照射された方向へ目を向けるとパスを挿した銃を構えた相沢君の姿。そして最後のマグニが消滅したことで立ち込めていた霧も逃げるようにこの場から去っていった。これで本当に終わりね……


「憐人にいちゃん!」


「わぁ……」


『……』


「ケルー、そう、帰るのね」


 ケルーは私たちの下へ来ないことを選んだ。半透明な剣がするっと手から離れ、ゆっくりと回転しながらケルーの傍で回り続けている。


「ケルーまってよ! いっしょにきてよ! まだまだいっしょにあそぼうよ!」


「ダメよ蒼空君。ケルーには帰るお家があるのよきっと。ちゃんと、帰る場所があるの……」


「ケルー……」


 ケルーはゆっくりとこの場を去っていく。


「ケルー! またいっしょにあそぼうねー!」


 蒼空君のその言葉に振り向き、深く頷くと、剣と共に半透明な身体が完全に見えなくなった。


「ケルー……」


「今のは……」


「えっと、どういう状況?」


 涙をこらえる蒼空君の背中をさすりながら、状況を飲み込めていないトーラさんと相沢君に答える。


「友達と別れたよ。またいつか遊ぶ約束をしてね」

 


「結局、我妻さんたちが見たっていう生物は何だったんだろう?」


 報告が終わり、一段落着いた時を見計らって相沢君がポツリと呟く。


 誰に問いかけたわけでもないそれをトーラさんが拾った。


「おそらくですが私の力の元となったエントの神話“覗人”(つたえびと)内に登場する“星霊ピクホヌ”ではないかと考えてます。

 世界の危機に、とある純真無垢な青年が突如世界の裏側に迷い込み、そこで惑星の中心と呼ばれる場所へ案内し、世界に平穏を取り戻すための秘宝を貸し与えた使者の獣と言われています」


「へぇ、女教皇ハイプリーステスはエントでは覗人つたえびとって呼ばれてたんですね。世界の裏側か……位相間移動の能力って表と裏を行き来するってことだったわけか」


「それにしてもまさか本物のピクホヌがいたとは……はっきりとした姿を観れなかったのが残念です」


「トーラさんからしたら伝説上の生物が実在して今この時代にも生きていたってことになるのか、それは残念だな……僕も恐竜が生きてたけどさっき姿を消したって言われたら後悔するだろうし」


 あの剣が秘宝だったのかしら? 半透明だったのは別の、でもかなり近い位相にいたということなのかしら? だとしたらケルーはこちらへは来れない? まぁ、そんなことはどうでもいいことよね。 


「それにしても蒼空君の前に現れた理由って何なんだろう?」


「きっと蒼空君が子どもだったからよ」


「へ? 子どもだったから?」


「子どもって私たちが感じられなくなった目に見えない何かパワーみたいなのを、みんなが信じていた大きな意思の力を感じ取れるじゃない?」


「子どもにしかトト〇と出会えないみたいな?」


「そう、きっと彼はずっと近くにいたんだと思う。八百年前も、私たちがエントに来てからも。

 でもみんな気がつけなかった。最初に気付いたのが蒼空君だった。私はそう思ってる」


 きっと、そういうことなのよね。


「久遠の神話は蘇る。か……」



「「愛美おねえちゃん!」」


「蒼空君、和花ちゃん、約束通りお姉ちゃんと遊ぼっか」


「うん! ケル―のぶんまであそんで、こんどあったときにいっぱいおはなしするんだ!」


「そうね、ケルーもきっと楽しみにしているはずよ」


「うん!」



『ケルルルル』


 微かにケルーの雄たけびが聞こえたような気がした。きっと今もどこかで私たちを、惑星エントの行く末を見守ってくれている。


 彼の故郷を取り戻してあげることが、彼に出来るせめてものお礼なのかもしれない。


 いつか再び出会える時、その時には平穏なエントを返してあげる。私が一方的に結んだ彼との約束。


 だからこれからも見守り続けていて。久遠の神話のまま……


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