第33話 異次元の民 チャプター5 剣と炎

 剣から光を伸ばしてコブリンを斬る! 近づけさせない、でも私が離れすぎるのもダメ。だったらこれが一番安全なはず。


 敵の攻撃が届かない中距離を保ちつつ一体一体撃破していく。神隠しに遭ったばかりの私なら無理だったでしょうけど、今の私ならできる。戦って、この二人を守れる!


 コブリンを粗方倒すと次はマグニが現れる。


 細身の体に筋肉が目立つ二足歩行のマグニは目が髪の毛で隠れ、身体中のコブを蠢かしている。左胸には黄色い発光器官。まるで原始人のような風貌のマグニは身体を揺らめかせながらこちらへ向かって来た。


「止まりなさい! はぁ!」


 伸びた剣を振るう。肩と胸を切り裂いた!


 マグニは悲鳴を上げて悶絶した。妙に痛々しい悲鳴を上げる。


「ヴギャア! ウグ、ウウゥ……」


「やりくいわね……」


 ただでさえ二人を守らないといけないのに、その姿で、まるで人間みたいな姿のマグニにそんな声を上げられたら二重の意味でやりにくいわ。


 コブリンたちも攻めてくる。数が多い、これじゃあジリ貧よ。


 こうなったらマキシマムで一気に……


「ごごぁ! はがぁー!」


「なっ!? ちょっと……!」


 マグニが突然掴みかかってきた。凄い力……振りほどけない。


「いやー! こわいよ! ママー! パパー!」


「くるなかいぶつめ!」


 いけない! 二人にコブリンたちが……!


「二人に……近づかないで!」


 摑まれていた腕を振り払って蹴り飛ばす。そしてマキシマムチャージを発動。


『マキシマムチャージ』


剣に強い光を纏って二人に近づくコブリンたちを瞬時に切り伏せた。


「二人とも大丈夫!?」


「こわかった……こわかったよー!」


「おねえちゃんつよい!」


「言ったでしょ、私が守るって」


 けれどこのままじゃまた二人が狙われかねない。マグニの相手は集中しないとこちらも危ない。かといってコブリンを放っておくのも悪手。せめてどちらか一方なら……


「ウガガ、ガァー!」


 マグニが三度襲い掛かる。背後からはコブリン。考える時間は与えてくれないみたいね。消耗度外視で勝負に出るしかないか……


 パスを抜いて剣に挿そうとしたその時――


 ゴオォン!


 背後から耳を貫くような轟音が襲いかかってきた。思わず目を瞑ってしまう程に耳に、鼓膜に響いてくる大きな音だった。


 正面のマグニを警戒しながら振り向くと、巨大な火の手がコブリンたちを焼き尽くしている。


 成すすべなく消滅していくコブリンたち。それ程高温の炎の中から何かがこちらへ向かって来る。新たなマグニ!? 二人を抱き寄せてより神経を集中させる。


「あ、ケルーだ! ケルーがやっつけてくれたんだ!」


 その言葉の通り、姿を現したのはケルー。でも半透明で視認するのは非常に困難。けれど間違いなくケルーのシルエットと酷似した何かがそこにいる。


 ケルーと思われる存在は口から何かを吐き出した。半透明のそれは徐々に色を宿していく。真っ赤な炎だった。その火炎弾はコブリンが集中している一帯を焼き払う。味方をしてくれているの?


『ケルロロロロロロロィ!』


 雄たけびを上げる。するとそれに呼応するかのように何かが飛来してきた。


 とてつもない速度でやって来たそれは高速で回転しながらコブリンを次々に撫で切っていく。あれだけいたコブリンは一瞬の内に全個体が消滅した。


「っ! こっちへ……きゃっ!?」


 回転する何かが最後のコブリンを切り裂いた瞬間こちらへ向かって来る。思わず伏せてしまったけれど、それは何事もなく私の手の中に納まった。


「え? 何? 剣?」


 今までコブリンを切り伏せていたのは半透明の剣だった。ケルーと同じく、この場に存在しているのかも怪しい半透明の剣。実際、掴んているはずなのにその感覚はほとんど無い。握れているのか不安になる程に手応えがない不思議な感覚。


「ケルー、これを使えと言いたいのね?」


 ケルーは私の問いに確かに頷いた。


「わかったわ。あなたの力、使わせてもらうわ」


「ウグリュリリュゥ!」


 向かって来るマグニを横一閃! 胴体を斬りつけると大量の火花が傷口から噴き出して地面へと沈んでいく。


「とんでもない威力ね……」


 小さくうめき声を上げながら立ち上がってくるマグニ目がけて追撃!


『マキシマムチャージ』


「やぁ!」


 斬撃を飛ばす。それは途中で発火して炎の斬撃波へと変化した!


 炎に裂かれて、マグニの首が飛んだ。傷口は炎に包まれ、マグニ特有の高い再生能力を封じている。


「この剣、マグニの強みを上手く殺してる。まるで対マグニ用に作られたみたい……」


「いけーっ! 愛美おねえちゃん!」


「がんばってー!」


「蒼空君、和花ちゃん……ええ、これでトドメよ!」


『マキシマ・オーバーストライク』


 剣から炎が吹き出して私を包み込む。でも熱くはない、むしろ身体全体が活性化しているような感覚。


『ケルルルルルッ……ビュムッ!』


 ケルーが吐き出した火炎弾が私を包む焔と一体化し、勢いと速度を保ったまま私ごとマグニへと急速で向かっていく!


「はぁああっ!」


 一刀両断! 剣に切り裂かれ、炎に焼かれ、マグニは爆散し消滅した。

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