第33話 異次元の民 チャプター4 最悪の場所
その後しばらくして相沢君からの折り返しが来た。その間も私たちに危害を加えることなくケルーは二人と遊んでいる。というより、蒼空君と和花ちゃんが遊んでいるのを見守っていて、振られたら反応するといった具合。なんだか孫と遊ぶおじいちゃんみたいね。
――トーラさんに訊いてみたけどそんな生物は見たことが無いって。
――そう……エントの生物でないとするとやっぱりマグニと関係があるのかしら?
――でも随分仲良くしているみたいだけど。
――油断は禁物よ。とにかく一刻も早く二人を安全な場所へ返さないと。救助の方はどう?
――今トーラさんと【笑顔】に向かっているところ。
――でも結構離れてしまったのよね。二人を止められなくて。だから【笑顔】から位相を移動しても近くにはいないと思うわ。今どの辺なのかよくわからないから。
――現状我妻さんたちがどの位相に移動したのかも見当ついてない状態だから何か手掛かりを感じ取れるかもってことで向かってるんだ。だからどのみち向かう必要はあるよ。
――そういうことね、ありがとう。トーラさんにも伝えて。
救援には動いてくれているけれど、まだ時間がかかりそうね。せめて最初の場所へ戻れればいいのだけれど……あの子たちは言うこと聞いてくれなさそうなのよね。
「おねえちゃんもあそぼ!」
「愛美おねえちゃん!」
「はいはい、ここから抜け出せたらいっぱい遊んであげるから、まずは帰ることを考えましょう」
「えー! いやだ! ここでじゃないとケルーとあそべないもん!」
「わがまま言わないの。どんな危険があるかわからないのよ?」
このケルーが本当に友好的だとしても、他に何があるかなんてわからない。判断も付かない。まったくの未知という点では、例えマグニがいるとしてもある程度理を知っていて仲間もいる元の位相の方が安全。
さすがに別位相にまでマグニはいないでしょうけど、ケルーのような謎の生物はいるみたいだし、他にどんな危険が潜んでいるか……
「ケルルル……」
「ケルー、どうした?」
「何? 何かあったの?」
「ケルーがへんなんだ。さっきからなにかに怒ってるみたいで……」
蒼空君の言う通りケルーの様子がおかしい。まるで威嚇をするかのように唸り声を上げ、虚空をにらみつけている。
「二人とも、私の傍に来て。何か変よ」
私の手の届く範囲に二人が来た瞬間、視界の色が変わっていく。
一瞬の内にいくつもの色を見せられ、最後には真っ白な世界となる。
「また別の位相? いえ、この感覚は……っ! 伏せて!」
二人を抱きかかれるようにして屈む。頭上で何かが通り過ぎたのがわかった。
「こっち!」
一面真っ白で碌に見えないけれど、そこら中に嫌な気配がある。気配の無い道を選びながら二人を抱えて走った。
――相沢君! 聞こえる!?
――我妻さん。えっ? どういう状況?
――おそらくだけど元の位相に帰ってきたわ。でもその場所が最悪なの!
本当に最悪だった。走り続けていると一面の白が薄れていく。そして景色が一変、霧を抜けたことで何も無い荒野が広がる場所へ出た。
そう、霧を抜けた――
「まさか本部の外ってだけじゃなくて、マグニの巣窟に出るなんて……」
振り返ると純白の霧の塊がそこに在った。霧の中からぞろぞろとコブリンが姿を表す。
「うわぁ!」
「いやっ! こわい!」
「大丈夫、安心して。あなたたちには指一本触れさせやしない! 変身!」
変身を完了させて前へ一歩踏み出す。剣も握って戦闘準備は整った。大きく深呼吸。
「すぅ、はぁー、私が、必ず守る!」
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