第13話 発動!マグニウェーブ作戦 チャプター7 反撃の狼煙
エリアSポイント0
「グルオオォォォッ!!」
エルマグニの攻撃は苛烈さを増し、死者こそ出ていないが各分隊から負傷者が徐々に増えつつあった。
『兵頭君、もうマグニウェーブランチャーのエネルギーは残り少ない。無茶をしてはいかんぞ!』
「くっそ! おい里中、救出班はどうなっている?」
江崎からの通信に、兵頭はイラつきを隠せない様子で答えた。
もうかなりの時間、それなりに重量のあるマグニウェーブランチャーを担ぎながら逃げ回っている。
早瀬の援護もあり、今は奏がより強固な防衛を行ってくれているおかげでなんとか持ちこたえているが、スタミナはいつ尽きてもおかしくはない。頼みの綱であるマグニウェーブランチャーも、使用回数に限界が見えてきた。
『まもなく第三分隊と合流できるはずです』
「いつまで待たせやがる」
文句を言ったが朗報だった。
莉央や被災者たちを三番分隊がこの場から退去すれば後は自分たちが逃げるだけ。マグニウェーブランチャーの残存エネルギーもそこまで心配することはなくなる。後は自身の体力が持つかどうか……
頭でどうエルマグニを振り切って本部へ戻るか考えを巡らせていると、エルマグニはハッとしたように振り返り、来た道を引き返そうとした。このままでは救出班と鉢合わせわせてしまう。
「させるか! こっちだ!」
行かせまいと兵頭は誘導波を放ちエルマグニを引き付ける。
イラついたようにエルマグニは兵頭へと向き直り、鬼のようなその剛腕を振りかざした。
「くっ……!」
半透明の分厚い障壁がその剛腕を防ぐ。兵頭へ降りかかる攻撃は全て奏によって阻まれていた。
木の幹のように太く厳つい鬼の剛腕も、ショベルカーのバケットのような頑強な爪も、風を切る音がジェット機のエンジン音の如く低く重々しい尻尾によるなぎ払いも、巨体から繰り出される隕石のような踏み付けも、奏が全て防ぎきっていた。
口から放たれる光球も寄せ付けない。強いて言うなら、放射火炎を防いでも熱気が押し寄せ、汗が止まらなくなるくらい。それ以外全ての攻撃を無力化していた。
「ゲブルルル」
エルマグニの口から赤い霧が噴射される。
人を狂わせる血染めの霧。だが――
「《マジカ・ウインド》」
奏と兵頭。そしてエルマグニの間に早瀬が乱入。魔術の風は赤い霧を押し返し、地上への蔓延を未然に防いだ。
「早瀬さん!」
「早瀬、戻ってきたか!」
「ごめん、遅くなったわ!」
早瀬が戦線復帰。これで手が増えた。
後は何とかしてこの攻撃の嵐を止める方法を考えるだけだが――
『っ!? 警戒! エルマグニの保有エネルギーに変化が!』
代神子原からの通信が入る。
変化と言われても現場からは何も分からない。姿が変化したわけでも、分かりやすい予備動作に入ったわけでもない。
ただ何かが起こる。あるいは何かが起こっているのは確実だろう。現場にいる全員が警戒心を強めた。
『グゥルルルルル……』
エルマグニがその大きな腕を振り上げる。そのまま振り下ろせばその先には兵頭と早瀬、奏の三名。
「猿渡、さっきまでより気合入れろ」
「はい」
先程の報告から嫌でも緊張感は高まる。奏は頭上に障壁を生成。そこに向けて剛腕が振り下ろされようとされている。
そのとき――
「グオオォォォォォォォッ!?」
エルマグニから火花が散った。正面にいた三人からは見えづらかったが、確かに背中から盛大に火花が散っていた。
唸り声を上げながら前かがみに倒れていくエルマグニ。
「っ! 二人とも捕まって!」
早瀬は二人の腰に腕を回し、足元に緑色の魔法陣を展開。旋風を纏い、低空飛行でその場を離脱した。
ズシ―――ン!! と大きな音を鳴らし、大地を揺るがし砂埃を巻き上げながらエルマグニは地に伏した。
背中の傷口を見た三人は、それぞれ怪訝な表情を作り、驚き目を丸くしていた。
「どうした!? 何が起きた!?」
『僕にも何が何だか……ただ、エルマグニの再生速度が著しく低下しています』
指令室に状況を確認するも、返ってきたのは実に曖昧なものだった。
ますますわからなくなる。突然大きな傷を受け倒れたと思ったら今度は再生速度が著しく低下しているとのことだ。
いい知らせではある。いい知らせではあるのだが、あまりにも唐突過ぎる。
その上なぜそうなったのか。その原因が何も分からない。
通信を聞いたは良かったが、皆ただただ困惑するだけで誰も喜ぶ者はいなかった。
混乱の最中、里中から驚きの事実が明かされた。
『指令室里中。先程単独行動中の手塚結隊員から連絡が入り、エルマグニを倒せる状態にしたとのこと。
現在エルマグニの再生速度は通常のマグニと比較してもとびぬけて高くはなく、提供された情報通り致死ダメージ与えることができれば倒せる状態かと思われます』
「なんだと!?」
隊員全員が驚き、ざわついた。
今まで決して倒すことのできなかったエルマグニ。それが理論上ではあるが倒せると言われたのだ。
青天の霹靂。干天の慈雨。寝耳へ水の果報。
『詳しいことはまだ説明されていませんが、現状を見るに間違いではないかと』
「ったく。
「でも、倒せるようになったって」
「ああ、本当なら願ったりかなったりの展開だ」
あちらこちらでも希望に満ちた声が上がる。倒すことも不可能ではなくなった。倒さないにしても、ダメージは蓄積され、相手も常にフルスペックで戦えるわけじゃなくなったわけだ。今までは蹂躙されるだけだった天災にも似た存在が、決して倒せない相手ではなくなったのだ。
「兵頭さーん!!」
遠方から聞こえる声。振り向くと声の主は第三分隊の分隊長高橋翔太だった。
その隣には富加宮、愛美、憐人、そして救出された莉央の姿があった。
「あいつら……」
驚きの冷めないうちに合流が完了した。
「莉央姉! 大丈夫なの?」
「平気だって……ちょっと疲れただけ」
「強がるならもう少し態度に出したらどうなんだ?」
莉央は見るからにへとへとで、今も両肩を富加宮と憐人に預けている状態だった。
覇気も無く、普段のエネルギッシュな姿からはかけ離れていたが、目立った外傷もなく、早瀬はホッと胸をなでおろした。
「あれ? 奏さん!?」
「うそ……!? 何でここに?」
「お久しぶりです。憐人君、それと皆さん」
「来てくれたんだ……奏」
「心強いな」
「高橋、何で来た。他の隊員と被災者たちはどうした?」
「被災者の方々は
「私が連れてけって言ったの」
莉央は借りていた肩から腕を下ろし、決意に満ちた目で兵頭を見た。
「さっきの通信聞いたよ。結が何かしてくれたんでしょ? だから今、ここでエルマグニを倒す!」
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